消毒をしすぎると「アレルギー疾患」が増えるってホント? 医師が原因や対策を解説
「消毒をしすぎると、アレルギーが増える」。果たして、これは真実なのでしょうか? また真実だとしたら、なぜそのようなことが起きるのでしょうか? ごう耳鼻咽喉科クリニックの郷先生にMedical DOC編集部が話を聞きました。
監修医師:
郷 充(ごう耳鼻咽喉科クリニック)
消毒をしすぎると、子どものアレルギーが増える?
編集部
「消毒をしすぎると、子どものアレルギーが増える」と聞きました。これは本当ですか?
郷先生
確かにそのような説はあります。一般に「衛生仮説」と言われるものです。
編集部
衛生仮説の内容を詳しく教えてください。
郷先生
衛生仮説とは、アレルギー疾患の分野において20世紀後半から注目を集めてきた学説のひとつです。そもそも第二次世界大戦後、先進国でアレルギー疾患の患者が急激に増えたのですが、これは世界的に衛生環境が急速に改善され、さまざまな感染症が身近なものでなくなったことが原因だと言われています。
編集部
なぜ、衛生環境が改善されるとアレルギー疾患が増えるのですか?
郷先生
人間の免疫機能は、細菌やウイルス、異物などが身体に侵入しようとしたとき、それらをすぐさま察知し、体外へ追い出す働きを担っています。しかし、花粉やホコリなど、本来は身体にとって敵ではないものも敵と勘違いし、過剰なまでに防御反応を示すのが、アレルギー疾患です。
編集部
それが衛生環境とどのような関係があるのですか?
郷先生
衛生環境が整備され、花粉やホコリなどが体内に侵入する機会が少なければ少ないほど、身体のなかの免疫細胞はさまざまな菌やウイルスの情報をインプットする機会が少なく、誤作動を起こしがちと言われています。実際、研究により、衛生環境がそれほど整っていない山や川など自然に恵まれた環境のほうが、アレルギー疾患の患者数が少ないことがわかっています。
コロナ禍、過剰な衛生管理がアレルギーを増やす?
編集部
コロナ禍では、何度も手を消毒したり、除菌スプレーを持ち歩いたりする人が増えました。その結果、アレルギー疾患の患者数が増加することもあるのですか?
郷先生
衛生管理は感染の暴露の機会を減らすという意味では、もちろん有用です。先ほどの衛生仮説には反論も存在しますが、過剰な消毒に伴う皮膚や粘膜のバリア機能の低下がアレルギーの形成に強くかかっていることは近年分かってきた事実です。特に心配なのが、乳幼児のアレルギー疾患です。
編集部
それはどういうことでしょうか?
郷先生
子どもの頃は、免疫機能を養うのにとても大切な期間です。生まれたばかりの頃は、母親から受け継いだ免疫力で体が守られていますが、徐々にその力が薄れていきます。そのため、自分で免疫を獲得していかなければなりません。つまり、免疫機能を育む幼いうちに、さまざまな菌やウイルスに触れることが役立つと考えられるのです。
編集部
衛生管理はそういう菌やウイルスに触れる機会が激減してしまいますね。
郷先生
そもそも免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」の2つがあります。体内に病原体が侵入したときに働くのが「自然免疫」。それが病原体を攻撃して体外へ排除すると、病原体の情報を「獲得免疫」に伝えます。すると獲得免疫は抗体を作り、再び病原体が体内へ侵入しようとしたとき、素早く排除するようになります。
編集部
獲得免疫はいつ、作られるのですか?
郷先生
一般に、大半の獲得免疫が作られるのは小学生の頃までと言われています。一部は大人になってから作られることもありますが、ほとんどの場合、小学生の頃までには300近い病原体に 感染し、抗体を作っています。つまり、その時期にできるだけたくさんの菌やウイルスなどの病原体と接し、アレルギーと感染防御をうまく調節する機能を育てることがその後の健康にはとても役立つことなのです。
子どもをアレルギーから守るには?
編集部
子どもをアレルギーから守るにはどうしたら良いのでしょうか?
郷先生
「必要以上に」除菌や殺菌を行わないようにすることが大切です。最低限の手洗いやうがいは必要ですが、むやみに除菌や殺菌を行うと、子どもが病原体に触れ、抗体を作ることを妨げてしまいます。
編集部
ほかに気をつけることはありますか?
郷先生
使用している除菌スプレーに反応し、アレルギー症状を引き起こすことがあります。特に有害なのは、除菌スプレーに含まれているアルコールです。これが肌の皮脂膜を溶かし、皮膚が本来持っているバリア機能を破壊してしまいます。そのため、手荒れを起こしたり、化学物質過敏症を招いてしまったりすることがあります。くれぐれも「使いすぎ」には気をつけましょう。
編集部
そのほか、日常生活で気をつけることはありますか?
郷先生
大切なのは、偏食をなくしてバランスよく食べることです。免疫細胞のひとつにリンパ球がありますが、衛生仮説の初期のころに考えられていた「Th1細胞=感染防御」「Th2細胞=アレルギー」という概念から研究が進み、これらのバランスをとる制御性T細胞の存在が知られています。これらの免疫を調節する機能を育てるために、重要な役割を担うのが腸内細菌なのです。そのため、腸内細菌を元気に保つためにバランスよく食べ、栄養素をしっかり補給することが必要です。
編集部
もし子どもに「アレルギー症状かな?」という兆候が見られたら?
郷先生
くしゃみが止まらない、鼻水がいつも出ているなどの症状が見られる場合には、耳鼻咽喉科でアレルギー検査を行うと良いでしょう。どの物質に対してアレルギー反応を示すのかわかれば、それらを生活から遠ざけることで症状を軽減することができます。子どもの場合、ひとつのアレルギーが次々とほかのアレルギーを引き起こす「アレルギーマーチ」が起きることが多いので、早めの対処が必要です。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
郷先生
赤ちゃんの場合、アレルギーはまず皮膚に症状が現れます。「皮膚がカサカサする」「耳の周りが切れやすい、赤くなりやすい」といった症状が見られたら要注意です。そのまま放置すると、どんどんアレルギーがひどくなってしまいます。保湿をしっかり行うとともに、かかりつけ医に早めに相談するようにしましょう。アレルギーに関する研究は近年、非常に進歩しています。たとえば以前は「卵アレルギーの子どもには絶対卵を与えてはならない」というのが定説でしたが、現在は「少しずつ卵を与えて体を慣れさせることが大事」ということが新たな常識になりつつあります。このように、以前の常識が覆されていることもあるので、ご家族も信頼できる書籍やインターネットなどで情報を得つつ、医師に相談するようにしてください。
編集部まとめ
近年では子どものアレルギーが増えているだけでなく、大人になって突然、アレルギーを発症する人も多くなっています。衛生環境に気を配ることは大切ですが、過敏になりすぎるとかえってストレスになることもあります。無理なく、適切な範囲で気をつけたいですね。
医院情報
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診療科目 | 耳鼻咽喉科・アレルギー科・小児耳鼻科 |