【医師が解説】最先端放射線治療器「サイバーナイフ」とは? がんにピンポイント照射が可能?
がんの治療などに用いられる「サイバーナイフ」。語感からすると「メスの代用」のように思えますが、調べてみると放射線治療器という解説が出てきます。また、似たような「ガンマナイフ」との違いも知りたいところです。今回は、がん治療の最前線について、Medical DOC編集部が放射線治療医の山本先生(宇都宮セントラルクリニック)を取材しました。
監修医師:
山本 健太郎(宇都宮セントラルクリニック)
放射線治療器、サイバーナイフ(CyberKnife)とは
編集部
最近、がんの放射線治療機器で「サイバーナイフ」という名称を見かけますが、なんでしょうか?
山本先生
体の外から放射線を照射してがんを治療する装置の一種で、よくピンポイント照射と言われる定位放射線治療に特化した専用装置です。構造は、自動車工場でみかける「無人で色々な箇所を溶接するロボットアーム」に似ており、先端にX線照射装置が装着されています。ちなみに、字面だと「ナイフ」となっていますが、体にメスを入れて切開するような機器ではありません。
編集部
サイバーナイフには、どのような特徴がありますか?
山本先生
主に2つの特徴があります。1つ目は「百数十もの方向から細い放射線を腫瘍に集中させることで、腫瘍のみに高線量を照射して周囲の正常組織のダメージを極めて低く抑えられること」です。これは、小学校の理科でやる虫眼鏡で太陽の光を一点に集中させることで紙を焦がす実験をイメージしていただければわかりやすいかと思います。普通に太陽の光を浴びるくらいでは「少し暖かいかな」と感じる程度ですが、これを虫眼鏡で一点に集中させることで、紙を焦がすことができるほどの大きなエネルギーになります。まさに放射線を一点に集中させて腫瘍を”焼く”治療とも言えます。
編集部
もう1つの特徴はなんでしょうか?
山本先生
2つ目は「装置に備え付けられている透視装置を用いて体内で動く腫瘍をリアルタイムにモニタリングし、腫瘍の動きに合わせた追尾照射が可能であること」です。例えば、肺がんは患者さんの呼吸によって腫瘍が常に動き続けています。患者さんに呼吸を止めてもらって照射するやり方もありますが、何回も息を止めるのは大変です。とはいえ、腫瘍が動く範囲全てに照射しようとすると、周りの肺の被爆は増えてしまいます。サイバーナイフは動く腫瘍の動きに合わせて照射することで、周りの正常組織への被曝を最小限に抑えることが可能です。
編集部
いわゆる「ムダ打ち」が少ないということですか?
山本先生
そのとおりです。これらの点から、ほかの放射線治療装置と比較して、サイバーナイフは優れた治療装置と言えると考えます。
サイバーナイフの適応・治療対象・症例は?どんながんに有効?
編集部
「サイバーナイフ」が向いているがんの種類はなんですか?
山本先生
先述したとおり、サイバーナイフは定位放射線治療に特化した放射線治療装置なので、定位放射線治療の適応となるがんの治療に向いています。具体的には、脳転移、転移のない肺がん・肝がん・腎がん(いずれも5cm以内)、前立腺がん・膵がんなどです。また、最近では転移があっても数が5個以内と少ない「オリゴ転移」と呼ばれる場合でも、状況次第ではサイバーナイフの適応となります。逆に、サイバーナイフは先ほど述べたとおりピンポイント照射に特化した装置であるため、5cmを超えるような大きな腫瘍や転移が多数あるような症例には向いていません。
編集部
似た機器名で「ガンマナイフ」があると思いますが、これとの違いはなんでしょうか?
山本先生
一言で言えば、ガンマナイフは脳転移などに対する頭部専用の定位放射線治療装置であり、体幹部に対しては使えません。サイバーナイフでは頭部はもちろんのこと、肺がんや肝臓がん、前立腺がんのような体幹部の腫瘍も治療することができます。
編集部
放射線による後遺症についてはどうでしょうか?
山本先生
これは放射線治療全体に言えることですが、放射線による障害は放射線が当てられた領域とその周囲に限定されます。例えば肺がんの場合、放射線が当てられた範囲の肺が炎症を起こして、治療後約3カ月から半年前後でレントゲン写真に移るような肺炎が出現しますが、ほとんどの場合は症状が出ることはありません。また、副作用について「放射線治療を受けると髪の毛が抜けますか」という質問をいただくことがありますが、頭部に放射線が照射されなければ髪の毛が抜けることはありません。サイバーナイフでは、これまで説明させていただいたとおり、がんに対する精密な照射が可能で、がん周囲のダメージを最小限に抑えることができます。そのため、通常の放射線治療と比較して、治療が必要になるような副作用や後遺症はほとんどみられません。
サイバーナイフによるがんの治療の流れは?
編集部
サイバーナイフの具体的な治療の流れや治療方法の決定についても教えてください。
山本先生
少し放射線治療から離れた総論的な話になりますが、がんの治療法は大きく「手術」「抗がん剤などの薬物治療」そして「放射線治療」に分けられます。先ほど述べたような適応では、積極的にサイバーナイフによる定位放射線治療をご提案させていただいていますが、患者さん一人ひとりの治療をどうするかを放射線治療医単独で決定することはありません。
編集部
だとすると、どのように決めているのですか?
山本先生
患者さんの治療にかかわる内科や外科の先生と十分ディスカッションをして、患者さんの希望もお聞きした上でサイバーナイフによる放射線治療が適切と判断されたケースに対して実施させていただいています。例えば、転移のない早期の肺がんでは、若くて元気のある患者さんでは手術が選択されることが多い傾向にあります。しかし、ご高齢で合併症が多く、手術だと後遺症のリスクが高いと懸念されるような場合では、放射線治療を実施するケースが多くなります。
編集部
「今までよくならなかったがん」が、「サイバーナイフ」によって快方に向かう事例はあるのですか?
山本先生
先述したオリゴ転移がいい例だと思います。一昔前までは、骨などのほかの臓器に転移がある患者さんは基本的に薬物療法や緩和ケアの対象となり、根治的な局所療法の対象とはされませんでした。しかし、転移があっても数が5個以内と少ない場合、これらの病変に定位放射線治療を実施することで患者さんの生存期間が改善することが臨床試験で示されました。当院でもこの結果を踏まえて、オリゴ転移に該当する患者さんに対してサイバーナイフによる定位放射線治療を実施させていただいたところ、年単位で生存されている患者さんが実際にいらっしゃいます。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
山本先生
サイバーナイフ以外の放射線治療装置でも定位放射線治療は可能ですが、サイバーナイフは動く腫瘍を追尾しながら照射でき、がんに対する放射線集中性が高い点で優れています。また、転移があっても5個以内と数が少ない、いわゆるオリゴ転移では状況次第ですが定位放射線治療により改善が期待できることがあります。患者さん一人ひとりの治療をどうするかは通常複数の医師により議論され決められていますので、治療法について疑問に思うことや分からないことがあれば、担当医に遠慮なく相談していただければと思います。
編集部まとめ
サイバーナイフに関して、「無人で色々な箇所を溶接するロボットアーム」と「虫めがね」の例えが秀逸でした。1本の照射線量は必要最低限にして、集中させた患部に最大限の効果を狙うとのことでした。また、保険適用のがんは決まっているものの、「切開手術がためらわれる患者の治療成績を向上する」点も注目すべきでしょう。
医院情報
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