糖尿病予備軍(境界型)とは? 専門医が2型糖尿病にならないための対策、改善方法や食事法まで解説
糖尿病予備群の定義は「糖尿病の可能性を否定できない者」であり、糖尿病が疑われる場合、すでに「糖尿病有病者」と規定されるようです。「可能性を否定できない」とはどんな状態なのか。Medical DOC編集部が内科医の名和先生(名和内科クリニック)から教えていただきました。
監修医師:
名和 知久礼(名和内科クリニック)
目次 -INDEX-
糖尿病予備軍や境界型とは? 症状や原因、診断される基準や数値を知りたい
編集部
名和先生
たしかに厚生労働省の「国民健康・栄養調査」にそう記載されていますが、全世代平均ではなく、糖尿病にかかりやすい成人の割合を抽出して考えると、「おおむね、成人の6人に1人が糖尿病予備軍」といっていいように思います。また、同調査は2016年時のデータですので、最新事情を考慮すると、糖尿病予備軍は“もっといそう”ですね。なおのこと、糖尿病の早期発見が国民的課題となってきました。
編集部
どうやって自覚や早期発見をしていけばいいでしょう?
名和先生
健康診断などの血液検査項目を活用しましょう。ちなみに糖尿病予備軍とは「糖尿病の可能性を否定できない者」のことで、(1)ヘモグロビンA1cの値で5.6%以上、6.5%未満、(2)空腹時血糖値が110~125、(3)経口ブドウ糖負荷後2時間の血糖値が140~199のいずれかを満たすと該当します。また、糖尿病予備軍のことを糖尿病の境界型と呼ぶこともあります。
編集部
正式な糖尿病と診断されない以上、「セーフティーゾーン」なのでは?
名和先生
しかし、血中の糖分が正常に処理できていない証でもありますよね。加えて、全身の動脈硬化が始まっていてもおかしくない段階です。むしろ「動脈硬化のスイッチが入った」と捉えるべきでしょう。当然、糖尿病予備軍は、保険による治療の対象者です。
編集部
とにかく、健康診断の数値に注目しておくということですね?
名和先生
ところが、朝食を抜いて健康診断をする場合、「(2)空腹時血糖値」は見るものの、「(3)食後や糖負荷後2時間の血糖値」は計測しません。糖尿病リスクは(2)と(3)の2軸で考えるべきで、仮に(2)が正常値でも、(3)がイエローゾーンなら「境界型、糖尿病予備軍」とみなすべきでしょう。実のところ、食後の高血糖が先にアリキで、そのことによって空腹時の血糖は引き上げられます。
糖尿病予備軍と診断された人はどうしたらよい? 2型糖尿病にならないための対策・改善方法
編集部
2軸で考えるとしたら、自主的に「(3)糖負荷後2時間の血糖値」の測定をしてみるべきでしょうか?
名和先生
クリニックの中には「朝食を食べてから健康診断する」タイプも増えてきました。厳密な意味での「(3)糖負荷後2時間の血糖値」測定にはなりませんが、「食事をした後の血糖値の上がり方」を知るきっかけになるでしょう。「食事をした後の血糖値の上がり方」のほうが、むしろ通常生活を反映しています。
編集部
もう1度整理しますが、一般的な「朝食抜きの健康診断」では糖尿病リスクがすくいきれないので、「朝食後の検査」も活用すべきということですか?
名和先生
そういうことです。2軸で診るべきなのに、1軸しか診ていないですよね。糖尿病の早期発見は食後の血糖値にかかっています。では、なぜ「朝食抜きの健康診断」を主流にしているかというと、個人差が現れにくいからです。食後の場合、朝食の量や中身が人によって異なりますので異常値が出た場合、医療を要する異常値なのか、食事の影響による異常値なのかの判断が難しくなるからです。血糖値については、空腹時で血糖高値の場合、すでに糖尿病予備軍になって時間がたっている可能性が高く、糖尿病の一歩手前まで進んでいる可能性があります。血糖値の異常を早期に見つけるには、食後2時間値や糖負荷後2時間の血糖値を見てみることが必要です。いずれにしても、糖尿病の家族歴のある方、肥満の方は、積極的に活用しましょう。
編集部
仮に糖尿病予備軍とみなされた場合、どうしたらいいでしょう?
名和先生
ぜひ受診して、治療を開始しましょう。このとき中心になるのは、食事内容の見直しと、個人ごとに異なる適正体重のコントロールです。食事内容は、栄養バランスのみならず、食べる時間や食べる回数も関わってきます。血糖値の過度な上昇を起こさない食べ方が、その人の適切な食べ方になります。
編集部
民間療法やサプリメントには目を向けず、糖尿病外来に足を向けるということですか?
名和先生
はい、“糖尿病外来”を受診しましょう。また、気になる民間療法やサプリメントがあったら、受診したときに相談されてみてはいかがでしょう。医学的・科学的根拠にのっとった回答が得られるはずです。もちろん、食事メニューの工夫やアドバイスもしていただけるでしょう。なお、「糖尿病関係のサプリメントさえ飲んでいれば、好きな物を好きなだけ食べられる」ということはありえません。
糖尿病予備軍で食べてはいけないものや適切な食事療法、朝食・おやつなどのレシピ・メニューのアドバイス
編集部
ところで、糖尿病予備軍の人が“食べてはいけないもの”はあるのでしょうか。
名和先生
回答からすると「ありません」。誤解の多いところですが「取りすぎに注意しましょう」ということです。食事内容で考えるべきは「各栄養素」のバランスです。その意味で「これさえ食べていれば大丈夫」という食品もありません。ただ、脂質の含まれる「地中海食」は、糖尿病の予防効果があるといわれています。詳しくは「地中海食」で調べてみてください。
編集部
糖尿病と聞くと糖質、つまり炭水化物のイメージが強いです。
名和先生
糖尿病予備軍であれば、炭水化物の取り方には注意が必要です。一方、炭水化物は体に必要な栄養素でもあるので、やみくもに避けるものでもありません。やはり、専門家からの指導を受けたいですよね。また、どの食品に糖分が含まれるのか、一般の方ではよくわからないと思います。ありがちなのは「はちみつを砂糖の代替とする方法」ですが、糖尿病対策だとすると意味がありません。
編集部
続けて、朝食やおやつの位置づけです。1日の栄養素の総量が同一であれば、取り方や時間は自由なのでは?
名和先生
食後の血糖値の上がり方は、個人によって異なります。結論から言うと、食後の血糖が極端に上がらない食事回数が、その方にとっての「正解」です。医師と相談しながら決めていきましょう。また、おやつ(間食)であるスイーツやスナックなどの量が多くなると、1日に必要なカロリー量の“残り分”が減りますよね。この残り分の中で栄養バランスをとることは難しくなります。おやつを食べるにしても、バナナ1本やリンゴ半分程度が適正量と思います。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあれば。
名和先生
とにかく「食べ過ぎない」ことが重要ですよね。一部のおやつを「別腹、別口」と捉える方がいらっしゃいますが、「口に入れた物の全てがカロリー」です。「別腹、別口」を外して考えることで、栄養バランスが崩れ、カロリー過多になりがちです。そして肥満傾向になると、血糖を抑えるインスリンの効きが悪くなってきます。「体重管理が糖尿病予防の要」であること、そして、「口に入れた全ての物がカロリーに結びつく」ことを知っておいてください。高齢になると運動量は減りますから、今のうちに糖尿病の予防対策をスタートしてみませんか。ぜひ、一家に1人、かかりつけ医を置きましょう。
編集部まとめ
血糖値の考え方には2軸あり、X軸は食前で、Y軸が食後ということでした。一般的な健康診断はX軸しか測定していません。そしてX軸は正常でも、Y軸次第で「糖尿病予備軍」と診断されることもあるのです。家族歴のある人や肥満傾向にある人、そして糖尿病が心配な人は、1度、「食後におこなう健康診断」か「糖負荷後2時間の血糖値測定」を自主的に受けてみましょう。
医院情報
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診療科目 | 内科、糖尿病内科 |