「ランニングで膝を痛めた…」そうならないための予防策や治療法を医師が解説
外出機会の減った昨今、運動不足対策としてランニングを取り入れている人も少なくないのではないでしょうか。そこで気をつけたいのは舗装路の硬さです。ランニング専用コースやグラウンドと違って、舗装路でのランニングは“膝”を痛めかねません。そこで、いわゆる「ランナー膝」の種類とその予防策について、「ぜんしん整形外科」の守重先生を取材しました。
監修医師:
守重 昌彦(ぜんしん整形外科)
膝の痛みの種類について
編集部
年齢と共に、「膝の痛み」を訴える人が多くなる印象です。
守重先生
そうかもしれませんね。膝の痛みの原因で圧倒的なのは「変形性膝関節症」です。片足で歩くときの膝には、体重の約3倍もの負担がかかっています。単純に2倍でないのは、バランスを取るための力が加わるからです。
編集部
変形性膝関節症とは、どのような病気なのでしょうか?
守重先生
変形性膝関節症は、軟骨がすり減り、骨自体も変形していく疾患です。骨軟骨の変形のみならず、膝の周りの組織の変性、つまり柔軟性や強度が失われることも含んでいます。
編集部
「ランニングで膝を痛めた」という話はよくありますが、これも変形性膝関節症ですか?
守重先生
ランニングで膝を痛めるということは、全く軟骨に問題のない若い人でもよくあります。つまり、その場合は、ほかの疾患を考えます。代表的なものは「腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)」です。「ランナー膝」とも呼ばれ、まさにランニングでの膝傷害の代表と言えます。腸脛靭帯とは、“お尻から膝までの太ももの外側”に走っている靱帯です。腸脛靭帯と膝の骨がこすれるようになると、痛みを生じさせます。太ももの骨の両端は膨らんでいますよね。股関節側は骨に囲まれていますが、膝側の膨らんだ部分はむき出しなので、腸脛靭帯と接触するのです。
編集部
ほかにも、ランニングと関係のある膝の痛みはありますか?
守重先生
もう1つ挙げるとしたら、「鵞足炎(がそくえん)」でしょうか。鵞足は膝の内側やや下にあって、太ももの後ろの膝を曲げるためのハムストリングスという筋肉が骨につく部分で、筋肉とつながっています。痛む箇所が膝の外側なら腸脛靭帯炎、内側やや下なら鵞足炎を疑います。加えて膝の内部なら、“大腿骨と脛の骨の間にある半月板というクッションの損傷”も含めた変形性膝関節症かもしれません。
治療方法と手術適応の有無
編集部
続けて、それぞれの対処法についてもお願いします。
守重先生
わかりました。腸脛靭帯炎は、お尻の筋肉が固かったり弱かったりするとなりやすいとされています。なぜなら、お尻と膝をつなげている靱帯だからです。チェック方法としては、横向きに寝て下の脚を抱えるようにして曲げます。上の脚は抱えずに膝を曲げます。この状態で膝を床に近づけていき、床に着けます。この状態で上の脚が下がって床につかない場合は、相当に「お尻の筋肉が固い」と言えるでしょう。なお、上半身がうつぶせにならないよう、横向きの姿勢を維持しながら確認してください。この確認作業そのものが、ストレッチにもなります。
編集部
腸脛靭帯にテンションがかかって固まっているイメージでしょうか?
守重先生
はい。加えてお尻の筋肉が弱いと、骨盤の傾きを維持できなくなってくることも関係します。つまり、骨盤の傾きによって腸脛靭帯が引っ張られてしまうということです。お尻まわりの体幹トレーニングが必要かもしれませんね。腸脛靭帯を柔軟にすれば“ゆとり”をもつので、骨との接触が和らぎます。なお、腸脛靭帯炎には通常、手術を用いません。運動療法がメインです。
編集部
次は鵞足炎です。あまり耳にしません。
守重先生
鵞足炎は太ももの筋肉、いわゆるハムストリングが固いとなりやすい症状です。また、膝の内側で太ももの筋肉とつながっているため、下肢が外側に向いている人は、より太ももの筋肉を引っ張ってしまいます。この場合、つま先や膝の向きをそろえるような姿勢をとることが大切です。鵞足炎も運動療法で緩和していきます。
編集部
一方の変形性膝関節症は、形態的な変化がすでに生じているのですよね。
守重先生
はい。ですから、運動療法のみでは対応できずに手術が必要な人もいらっしゃいます。半月板損傷単独が問題になるのは変形が出るまでです。変形後、つまり変形性膝関節症がすでにある人は、全て半月板損傷があると考えて差し支えありません。O脚の場合も、変形性膝関節症の人がほとんどです。
ランニングをする前の予防策
編集部
お尻と膝の関係は「大」なのですね。
守重先生
そのとおりです。お尻の筋肉を鍛えるとしたら、横向きに寝て片方の足を伸ばしたまま開け閉めしましょう。ヨガやエクササイズなどでよく見るポーズですよね。
編集部
先ほど、骨盤が傾く場合もあるということでした。
守重先生
あり得ます。腰の左右で最も出っ張っている部分に両手を当ててみてください。その状態で、左右の上下差が出ないように歩くことも、効果的なトレーニングになります。骨盤は筋肉で支えられているので、バランスがとれるようなウォーキングをしてみましょう。
編集部
ほかに、ランニング時も含めて、注意点を教えてください。
守重先生
ランニングシューズの靴紐は、しっかり結ぶようにしてください。シューズの下半分は靴紐をきつく締めすぎないようにして、「足先がある程度、動かせる」ようにします。一方、足首の近くの靴紐はきっちり締め、シューズをフィットさせてください。靴紐を結びっぱなしにして「脱着自由な状態」にしているのはよくありません。さらに言うと、ランニングのレベルに応じたシューズをお店の人と相談しながら選びましょう。もしかするとトップアスリートモデルは、トップアスリートの走り方に合わせたシューズなので、合わないかもしれません。
編集部
ちなみに、「膝関節に効くサプリメントの類」ってどうなのでしょうか?
守重先生
あまり頼らないようにしましょう。効くとしたら、サプリメントに含まれている痛み止めの成分くらいです。それよりも、体をつくる材料はタンパク質なので、タンパク質やアミノ酸の摂取が大切です。むしろ、サプリメントや痛み止めで「不具合を抱えたまま運動する」ことが怖いですね。
編集部
もし、痛みが生じてしまったら、休むことも重要ですよね。
守重先生
はい。適度な休憩と、痛みが長引くようなら加療も必要です。運動器に関わることなら「整形外科」領域ですので、お気軽にご相談ください。日本整形外科学会認定の「スポーツ医」、日本スポーツ協会公認「スポーツ医」、日本医師会認定「健康スポーツ医」であれば、スポーツの種類に応じた具体的なアドバイスも可能です。また、日本医師ジョガーズ連盟という団体も参考にしてみてください。
編集部まとめ
一般に、膝の痛みの多くは、変形性膝関節症によるものです。しかし、ランニングやウォーキングなどをしていて膝が痛くなってきたとしたら、必ずしも変形性膝関節症とは限らないということでした。「ランナー病」予防策で着目したいのは、お尻と膝の関係ですね。まずは、横向きに寝る「ハサミのような運動」で、普段使っていない筋肉を鍛えることからはじめてみてはいかがでしょうか。
医院情報
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診療科目 | 整形外科 |