その膝の痛み、もしかしたら「変形性膝関節症」かも!? 原因によって異なる治療法
加齢や運動不足などによって生じる膝の痛みに悩まされている人は多いのではないでしょうか。ただ、もしかするとその痛みは、整形外科での治療やリハビリ、それから、日常生活でのちょっとした工夫で改善することが可能かもしれません。今回は、膝の痛みの正体と対処法について「小石川整形外科」の丸山先生に詳しく教えていただきました。
監修医師:
丸山 剛(小石川整形外科 院長)
日本医科大学医学部卒業。その後、複数の病院の整形外科・リウマチ外科で経験を積む。2021年、東京都文京区に「小石川整形外科」を開院。常に患者に寄り添った診療を心がけ、地域医療に貢献している。日本整形外科学会専門医。日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会、日本股関節学会、関東整形災害外科学会の各会員。日本整形外科学会認定リハビリテーション医・スポーツ医・リウマチ医。
膝の痛みの正体
編集部
最近、膝の痛みが続いています。どのような病気の可能性がありますか?
丸山先生
膝関節の痛みが起こる原因は、ケガや関節リウマチ、痛風発作など様々です。そのなかでも、日本人に多いのは「変形性関節症」です。
編集部
関節が変形してしまうということですか?
丸山先生
そうです。本来、関節の表面は軟骨で覆われていて、衝撃を和らげたり、関節の動きを滑らかにしたりする働きを担っています。ところが、加齢や肥満、激しいスポーツなどが原因で、軟骨がすり減ったり歪んだりしてしまうことがあります。その結果、関節の変形や炎症を招いてしまうのです。
編集部
変形性関節症は、膝以外にも発症するのですか?
丸山先生
はい。膝以外にも、手の指の関節や付け根、首、腰、足の親指、股関節などでも起こり得ます。しかし、最も多いのは膝に起こるケースで、「変形性膝関節症」と呼ばれています。
編集部
そもそも、関節とはどのような構造になっているのですか?
丸山先生
関節は2本の骨が凹凸に組み合わさっています。そして、この2本が対面している部分は「関節軟骨」で覆われており、関節の周囲は「関節包」で包まれています。
編集部
複雑な構造なのですね。
丸山先生
そうですね。関節包の内層には滑膜と呼ばれる組織があり、関節液を作っています。この関節液は、潤滑剤の役割をはたしており、ヒアルロン酸とコンドロイチン硫酸で構成されています。「膝の動きを滑らかにするには、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸がいい」と言われるのはそのためです。
編集部
変形性関節症になると、どのような症状が起こるのですか?
丸山先生
関節軟骨は粘りと弾性があり、骨と骨が直接ぶつからないための役割を担っています。いわば、クッションのような役割ですね。しかし、これがすり減ったり歪んでしまったりすると、関節を変形させたり炎症を起こしたりして、痛みを生じさせてしまうのです。
放置すると、歩けなくなることも
編集部
変形性関節症の症状について、もう少し詳しく教えてください。
丸山先生
変形性関節症のなかで、もっとも多い変形性膝関節症を例に挙げてご説明すると、病気の初期には、立ち上がりや歩き始めなど、動作を開始するときに痛みが現れる程度です。日常生活に支障をきたすケースはほとんどありません。しかし、そのまま放置すると、次第に階段の昇り降りや正座が困難になるといった、日常生活にも影響が出てくるようになります。
編集部
さらに放置しておくと、どのようになるのですか?
丸山先生
膝の炎症が悪化して、腫れて熱を持ったり、膝に水が溜まったりすることもあります。また、安静時でも痛みが出たり、歩くこと自体が困難になって激しい痛みが現れたりすることが考えられます。
編集部
最悪の場合、寝たきり状態になることもあるということですか?
丸山先生
あり得るでしょう。運動器の障害によって日常生活が制限され、介護や介助が必要な状態になったり、そうなるリスクが高くなったりすることを、一般に「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」と言います。実のところ、変形性膝関節症はロコモティブシンドロームの原因となる疾患のうち、代表的なものとされています。
編集部
そうなのですね。変形性関節症になりやすい人の傾向はありますか?
丸山先生
高齢者や肥満の人、激しいスポーツをしている人、さらに、筋力が衰えた人に起きやすいとされています。また、女性は男性に比べて関節の面積が小さいため、関節にかかる負担が大きくなります。その上、関節を支える周辺の筋肉が弱いので、変形性関節症に悩む女性は多いようです。
変形性関節症の治療法
編集部
変形性関節症は、どのように治療をおこなうのですか?
丸山先生
治療法には大きく分けて、運動療法や薬物療法で症状を緩和させる「保存療法」と、外科的な処置をおこなう「手術療法」の2種類があります。一般的に、まず取り組むのは保存療法となります。続けてもあまり効果が出ず、痛みや関節の変形がさらに悪化している場合は、手術療法を検討します。
編集部
手術になることもあるのですね。
丸山先生
手術するかどうかは、患者さんご自身の痛みや歩行能力で決定します。変形性関節症が重度かつ、歩行が困難になったり、痛みがひどかったりして、ほかの治療法では改善が見られない場合は、手術の可能性が出てきます。
編集部
運動療法では、どのようなことをするのですか?
丸山先生
変形性膝関節症を例に挙げてご説明させていただきます。運動療法では、膝周辺の筋肉を鍛えて、筋力の維持・向上を目指します。痛みで足を動かさなくなると、膝の周りの筋力が落ちてしまい、関節が不安定になるのを運動療法によって防ぎます。
編集部
具体的には、どのような運動が適しているのですか?
丸山先生
ウォーキングなどの有酸素運動や簡単なストレッチ、筋トレなどが有効です。ただし、誤ったフォームで運動を続けると、症状を悪化させることも考えられます。できる限り、医師や理学療法士と相談して、正しいフォームを確認しながらおこなうといいでしょう。
編集部
薬物療法は、どのように進めるのですか?
丸山先生
一般に、炎症と痛みを抑える薬を処方させていただきます。症状を確認しながら外用薬や内服薬、座薬、注射薬を使い分けていきます。また最近だと、すり減った軟骨自体を再生させる「PRP療法」も注目されています。
編集部
もう一方の手術療法とは、どのようなものですか?
丸山先生
皮膚の一部を切開して軟骨の破片を取り出したり、軟骨の表面を滑らかにしたりする「関節鏡視下手術」や、膝関節の下にある脛の骨の一部を切り取って、膝関節にかかる力が均等になるように調整する「高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)」を施します。なお、病気がかなり進行している場合は、膝軟骨の表面を薄く削って、人工関節に置き換えることもあります。
編集部
変形性関節症を予防するために、日頃から注意すべきことはありますか?
丸山先生
やはり、まずは体を動かすことでしょうか。関節を動かさずにいると、周辺の筋肉が衰えて可動域が狭まり、痛みが起こりやすくなります。あとは、関節に大きな負担をかけるような動作も避けるようにしましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
丸山先生
痛みには、様々な疾患が隠れています。まずは、何が原因となって痛みを生じさせているのかを検査で突き止めるのが最優先です。例えば、関節リウマチを患っている人は、その治療を先に終わらせましょう。それが結果として、変形性関節症の抑制にもつながります。現在、要介護になる原因は、内臓や脳の疾患よりも、整形外科領域が最も多くなっています。今のうちから運動習慣をつけて、将来の病気を予防していきましょう。
編集部まとめ
膝が痛いと、歩いたり出かけたりするのが億劫になって、家に閉じこもりがちです。しかし、動かさないことによって、ますます膝の症状が悪化して、痛みがひどくなるという悪循環に陥ってしまいます。無理のない範囲で運動をすることで、膝の症状が改善されるだけでなく、気分も明るくなるかもしれません。
医院情報
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アクセス | 都営三田線・大江戸線「春日駅」 徒歩1分 東京メトロ丸ノ内線・南北線「後楽園駅」 徒歩3分 JR総武線「水道橋駅」徒歩12分 |
診療科目 | 整形外科、リハビリテーション科、リウマチ科 |