「股関節の痛みの多くは“軟骨のすり減り”が原因だが、ほかにも様々な原因が考えられる」整形外科医が教える股関節痛との向き合い方
監修医師:
中村 正則(戸越銀座なかむら整形外科 院長)
昭和大学医学部卒業。2018年に昭和大学医学部整形外科学講座教授を退職後、東京都品川区に「戸越銀座なかむら整形外科」を開院。基幹病院と連携するとともに、患者さん一人ひとりに合った治療法を提案している。医学博士。難病指定医。日本整形外科学会専門医・認定スポーツ医・認定リウマチ医、日本リウマチ学会認定専門医、日本リハビリテーション医学会認定臨床医。
股関節の痛みの原因は?
編集部
股関節の痛みって、何が原因なのでしょうか?
中村先生
頻度の多さからすると第一に考えられるのは、軟骨がすり減って関節の形が変わってくることによる痛みです。この症状を起こす疾患を「変形性股関節症」といい、ご高齢者に多くみられます。また、若い人の場合は部活やスポーツなどで股関節に負担がかかると痛みが出ることも考えられます。加えて、関節の動きを滑らかにする役割がある、いわゆる潤滑油不足も考えられますね。
編集部
どのように、関節の変形は生じるのでしょうか?
中村先生
一般的には、長期間の摩擦が原因ですが、生まれつき「受け皿になる骨盤側の骨」が浅い人もいらっしゃいます。股関節をジャンケンの「グー」と「パー」に例えるとしたら、骨盤側の「パー」の骨が形成不全になっている状態ですね。このような患者さんは、摩耗による変形を受けやすい傾向にあるようです。
編集部
「変形性関節症」以外の痛みについても教えてください。
中村先生
血流の悪化によって関節の先が壊死(えし)してしまう症例も散見されます。なぜ、血流が悪化するのかは十分に解明されておらず、難病指定となっているものの、服用している薬に含まれるステロイドの影響や飲酒の影響とも言われています。そして、壊死した部分は自己修復機能が働かないため、次々に壊れていってしまいます。また、スポーツをする人に多いのですが、股関節周囲の筋肉や関節の柔軟性の低下によって痛みが出ることもあります。
編集部
考えられる原因を、もう1例ほどお願いします。
中村先生
やはり、ご高齢者に多いのが股関節のリウマチでしょうか。ただし、リウマチは免疫システムの異常なので、若い人でも起こり得ます。なお、なぜリウマチが起きるのかについて話すと長くなってしまうので、ここでは「リウマチにかかる人が一定割合でいる」程度に割愛させてください。要するに、リウマチは自分の股関節の「滑膜」という部分を敵だと思って攻撃して、関節を破壊する疾患です。
股関節の痛みが出たときの対処法
編集部
続けて、治療方法についても教えてください。
中村先生
治療方法は診断結果によって異なり、「この症例にはこの治療方法」という1対1の関係はありません。また、年齢によっても判断が分かれてきます。一例として「人工関節に置き換える手術」を挙げるとすれば、人工関節は体にとって異物ですから、若い人ほど「異物によってストレスを受ける期間が長い」ということになりますよね。この状態は好ましくないので、ほかの治療方法が優先されるべきということです。
編集部
治療というとリハビリのようなイメージがありましたが、手術を要することもあるのですね?
中村先生
そうです。変形性股関節症と診断されて痛みも生じていたとしたら、リハビリなどではなく股関節の形を本来の姿に戻す手術で根本解決を図ります。このとき、人工関節を用いる方法と、自分の骨を切ったり移植したりする方法があります。なお、壊死の症例でも、本来の姿から大きく変わっていれば手術を検討します。壊死がそんなに進んでいなければ経過観察で済むこともあるので、ケース・バイ・ケースですね。
編集部
痛みが出ていても、保存療法だけで進めるパターンはありますか?
中村先生
軽症ならあり得ます。具体的には、「ストレッチやリハビリなどの運動療法」、「赤外線などで痛みを緩和する温熱療法」、「飲み薬や注射などによる薬物療法」、「杖などを利用した装具療法」です。症状の程度や患者さんの希望も合わせて、相談しながら治療法を決めていきます。
編集部
最近話題の「再生医療」を用いるような治療方法は進んでいるのでしょうか?
中村先生
研究段階ですが、股関節の再生医療ははじまっていて、とくに壊死の症例に有効とされています。ただし、「いつでも・誰でも」受けられる治療までには至っていません。今後、臨床研究の結果に応じて実用化されていくのではないでしょうか。
受診の目安は?
編集部
股関節に痛みはなくても、コリコリと音が鳴る場合は放置しても大丈夫ですか?
中村先生
音が股関節からなのか股関節の周りからなのかによりますが、いずれ痛みに発展することは、まず考えなくていいです。痛みは最初から痛みとして生じることに加えて、弱い痛みが強い痛みへ重篤化していくとも限りません。そのために、保存療法や経過観察で済むケースがあるのです。
編集部
長時間の歩行で痛みが出て、翌日に収まっているようなケースは?
中村先生
歩いている時間や距離などに注目してみてください。痛みだすまでの時間や距離がウォーキングするたびに縮まっているようなら「何かが変わってきている」ということなので、受診を推奨します。一方、痛むまでの時間や距離がある程度、固定されていて、翌日に何もないとしたら緊急性はありません。
編集部
そのような前段階でも、相談していいのでしょうか?
中村先生
もちろんです。まずはレントゲン検査をしたうえで、何が起きているのかを解明しましょう。実際に治療するかどうかを決めるのは、その後の話です。次第に重篤化するとは限りませんが、できるなら手術したくないので、早めに調べておくことをおすすめします。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
中村先生
「股関節が痛い」と言っても、関節の中で軟骨のすり減りが起きていたり、関節の外の筋肉や腱が炎症を起こしていたりと原因は様々です。また、股関節に近い“別の臓器の病気だった”ということも考えられます。「股関節痛の原因は潤滑油不足」と思われがちですが、調べてみないとなんとも言えないのが現実です。
編集部まとめ
全体重がわずか2点の股関節にかかれば、摩耗をするのは納得です。加えて、生まれつきの股関節の形によって、摩耗の影響を受けやすい人がいるそうです。そのほかにも、骨の壊死やリウマチも考えられます。注意したいのは、そもそも股関節の異常ではなかった場合です。そこまで範囲が広いと、自己鑑別できる範囲を超えています。我流でなんとかしようとせず、医師に相談していきましょう。
医院情報
所在地 | 〒142-0051 東京都品川区平塚2-15-15 2F |
アクセス | 東急池上線「戸越銀座駅」 徒歩2分 都営浅草線「戸越駅」 徒歩4分 |
診療科目 | 整形外科、リハビリテーション科、泌尿器科 |