「耳の聞こえにくさ」は放置したらマズイ!?
目の老眼と同様、耳にも難聴が訪れます。ただし、ヒトの五感のうち視覚から得る情報が8割以上を占めるため、“聞こえにくさ”はともすると、放置されがちです。もしかしたら、加齢によるものではなく、重大な病気が隠れているかもしれません。聞こえにくさを感じたとき、どう対処すべきなのか。「おくクリニック」の奥先生に教えていただきました。
監修医師:
奥 雄介(おくクリニック 院長)
大阪医科大学医学部卒業。大学病院や国立病院などの耳鼻咽喉科・頭頸部外科で研修を積んだ後、各病院の医院や医長を勤める。2018年、培ってきた経験を地域医療に反映すべく、埼玉県さいたま市に「おくクリニック」開院。日本耳鼻咽喉科学会認定耳鼻咽喉科専門医、厚生労働省補聴器適合判定医師、日本耳鼻咽喉科学会補聴器相談医、日本耳鼻咽喉科学会騒音性難聴担当医、日本めまい平衡医学会認定めまい相談医、日本東洋医学会認定漢方専門医。
病気の可能性をつぶしておくことが重要
編集部
難聴って、加齢現象のひとつですよね?
奥先生
「加齢による脳や耳の神経の機能低下」が代表的な要因です。しかし、それ以外の耳の病気、例えば「中耳炎(ちゅうじえん)」や「メニエール病」などによっても生じます。ごく稀に、頭部の腫瘍が原因で難聴になる人もいらっしゃいますね。
編集部
「聞こえにくさ」の原因は、必ずしも加齢に限らないと?
奥先生
そういうことです。例えば、放置しておくと、耳の骨などを溶かしてしまう中耳炎などもあります。病気の進行により、聞こえにくさはますます悪くなります。このような耳の病気は、年齢や性別を問いません。
編集部
耳の病気だったら、痛みのような自覚があるのでは?
奥先生
そう思いがちですが、痛みを伴わない耳の病気もあります。痛みを待たず、「聞こえにくさ」そのものを入口としてご相談ください。検査の結果、「加齢が原因」ということも往々にしてありますが、「重篤な病気はなかった」という除外診断を付けておくことが大切です。放置はしないようにしていただきたいですね。
編集部
さすがに「耳あかが詰まっていただけ」というオチはないですか?
奥先生
耳あかは通常なら、外に向かって自然排出されます。しかし、必ずとは言いきれず、内側にたまって中耳炎などの原因となることもあるのです。耳あかが取りにくい場合には、病院で取ってもらうことが大切になります。めまいや顔面神経麻痺の原因が耳あかによる中耳炎だったということも、起こり得るケースです。
めまいの症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
機能低下で心配されるのは認知症リスク
編集部
他方、神経の機能低下は、加齢と考えていいんでしょうか?
奥先生
加齢以外にも、突発性難聴やメニエール病、大きな音のする環境にずっといることにより起こる騒音性難聴、薬の副作用などで起こる薬剤性難聴などもあります。
編集部
そのような例外を除けば、ある程度は仕方ないと?
奥先生
聞こえにくさと関連して、耳鳴りの症状を訴える方も少なくありません。多くの場合、耳鳴りは、耳の聞こえにくさを脳で補おうとして生じます。スピーカーでも、小さな音を再生しようとしてボリュームアップすると、ノイズが出てきますよね。同じことが、脳の興奮によって生じます。
編集部
耳鳴りを止めるとしたら、いよいよ補聴器ですか?
奥先生
そうですね。耳鳴りを止める特効的な治療や処置はないです。お薬もありますが、全員がそれでよくなるわけではありません。難聴がある耳鳴りには適切な補聴器を使用することで、耳鳴りの軽減も期待できますし、耳鳴り用の機能もあわせもった補聴器などもあります。
編集部
耳鳴りはないにしても、「若い子の話し声がよく聞きとれない」なんてケースも聞いたことがあります。
奥先生
加齢性難聴は、高音域から聞こえにくくなってきます。子どもや若い女性の声が聞きとりづらくなるのは、比較的、高音域でしゃべっているからでしょう。聞こえにくさの放置で怖いのは、音からの情報という脳への刺激が減ることで、認知症リスクを押し上げてしまうのです。補聴器に「老いのシンボル」的なイメージをおもちかもしれませんが、使うことで生活の質が上がることも期待できるため、聞こえが落ちてきてコミュニケーションでお困りなら補聴器を検討してみてください。
放置は周囲との関係を悪化させかねない
編集部
耳の聞こえにくい人って、テレビの音が大きかったりしますよね?
奥先生
そうですね。聞こえ方に応じて年々音を大きくしがちなので、なかなか自覚が伴わず、ご家族に指摘されることも多いようです。もし、ご家族や周囲に迷惑を与えているとしたら、そのことも「放置したらマズイ!?」の一例でしょう。
編集部
会話内の「言った、言わない」トラブルも多いようですが?
奥先生
難聴の指摘が嫌で、「聞こえたフリ」をする方が一部にいらっしゃいます。その結果、意思疎通がうまくいかずに阻害感・孤独感を生じさせると、ますます問題は深まります。加えて、認知症の一因にもなり得ますので、ご家族から受診を勧めることも必要なのではないでしょうか。
編集部
聞こえにくさの放置は、自分だけの問題じゃないということですか?
奥先生
難聴は誰にでも起きますが、それが原因で事故などを生じる危険もあり周囲を巻き込みかねません。このことを、各人が自覚することが大切ですね。家族から受診を勧められたら、突っぱねずに、受けいれてみてください。まさに、ご自身だけの問題ではありません。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
奥先生
昨今の補聴器は、目立ちにくさやデザイン性に優れていますので、まずはカタログだけでも取り寄せてみてはいかがでしょうか。「見え」と異なり、「聞こえ」は“なんとかなる”と思われがちですが、認知症リスクや周囲とのトラブルを内在しています。万が一、病気ということであれば、なおのこと放置はよくありません。早めの対策をお願いします。
編集部まとめ
「除外診断」という発想が新鮮でした。病気ではないと判明することも、受診の大きな目的になるということです。そうなると、聞こえにくさを感じたとき、受診しない理由がありません。認知症リスクや周囲とのトラブルも懸念されますので、まず「本人が動く」に尽きるのでしょう。家族から言われる前に、こっそり、受診してみてはいかがでしょうか。少なくとも、悪い方向には進まないはずです。
耳鳴り、めまい・吐き気に関する症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
医院情報
所在地 | 〒331-0064 埼玉県さいたま市西区佐知川228-6 |
アクセス | JR「大宮駅」 バスで20分 |
診療科目 | 耳鼻咽喉科、漢方内科 |