伊7.3%、韓0.9%…新型コロナの致死率に各国で顕著な差があるのはなぜ?
感染拡大が続く新型コロナウイルス。3月16日のデータによると世界で6000人以上の方が命を落としている新型コロナウイルス感染症ですが、各国の致死率を見てみると、イタリアでは7.3%、韓国では0.9%と大きな差が見て取れます。致死率の差は各国の対策によるものなのか、または別の要因があるのか。東京慈恵会医科大学附属病院で感染症科医長を務め、日本感染症学会感染症専門医である堀野哲也医師を取材しました。
※この記事は、2020年3月13日時点の取材データをもとに作成しております。
監修医師:
堀野 哲也(東京慈恵会医科大学附属病院感染症科 診療医長、
感染症専門医)
編集部
なぜ、各国で致死率に顕著な差があるのでしょう?
堀野先生
各国をすべて比較することは難しいですが、感染者数の増加が報告されている韓国とイタリアを比較すると、3月16日の報告では、韓国での致死率が0.9%であるのに対して、イタリアでは7.3%と致死率に大きな差があります。他方、2国間で感染者における70歳以上の割合を比較すると、イタリアでは約40%なのに対して、韓国では10%程度と報告されております。致死率に関与する因子の一つとして高齢が挙げられておりますので、イタリアの致死率の高さは高齢者の感染が多いことが理由の一つに挙げられると思います。他にも検査対象が無症状の方や軽症の方が多く含まれていれば、致死率は低くなりますので単純に比較することは難しいと思います。
編集部
各国で感染者への対応は異なるのですか?
堀野先生
各国の対応の詳細はわかりませんが、入院患者に対しては感染していない患者との同室を避け、医療従事者は飛沫感染、接触感染を予防するための個人防護具を着用することは、どの国でも同じだと思います。他方、無症状あるいは軽症の感染者に対する対応は、日本と同じようにすべての感染者を原則入院する国とイタリアのように在宅隔離とするといった違いはあるようです。これは各国の感染者を受け入れ可能な施設数などによって調整され、少しずつ異なるようですが、感染者を隔離するという考え方は同じです。
編集部
ウイルスが2種類できているとか、それ以上に変異しているという情報もありますが、それぞれの国で致死率の異なる別の種類が流行している可能性はあるのでしょうか?
堀野先生
新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスであるSARS-CoV-2について調査した報告では、SARS-CoV-2は主にL型とS型の2タイプに分類され、L型はS型から進化したものと考えられています。L型に感染している方が約70%と割合が多いことから、L型の方が感染が広がりやすいのではないかと推測し、致死率と2つのタイプとの関連は不明としています。ウイルスの起源や変異の頻度、変異と重篤度や致死率との関係はさらに調査されていくと思いますが、現時点では年齢や基礎疾患などの感染者側の要因の方が臨床経過に影響しているのではないかと思います。
編集部
新型コロナウイルス感染者が重症化する要因は何ですか?
堀野先生
新型コロナウイルス感染症での致死率は高齢者が高く、また、致死率上昇に関与する疾患として心血管疾患、糖尿病、高血圧症、慢性呼吸器疾患、がんなどがあげられています。他方、小児を含めた若年者では重症化や致死率が低いようですが、この重症化や致死率の違いが発生するメカニズムは解明されていないと思います。
編集部
中国の研究では、男性の致死率が女性の2,3倍高いというデータがありましたが、どのような原因が考えられますか?
堀野先生
現時点では男性の致死率が女性と比較して高いと判定することは難しいと思います。例えば、中国CDCからの報告では、4万4672人の感染者のうち1023人(2.3%)が死亡したと報告され、この致死率が男性では2.8%、女性では1.7%と報告(※)されています。ここで注意しなければならないのは、この報告の中で80歳以上の方で致死率が14.8%と高かったこと、心血管疾患や糖尿病、高血圧症、慢性呼吸器疾患、がんに罹患した方で致死率が高かったことが報告されていますが、それらの割合が男女で差がなかったかどうかが記載されていないと思います。そのため、男性の感染者で高齢者が多かった可能性や基礎疾患を有する方が多かった可能性などを考慮しなければならないと思います。
※参照:Vital Surveillances: The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases (COVID-19) — China, 2020(中国CDC)
http://weekly.chinacdc.cn/en/article/id/e53946e2-c6c4-41e9-9a9b-fea8db1a8f51
編集部
「日本は検査の実施件数が少ないから感染者数が少なく報道されている」との意見もありますが、新型コロナウイルスに感染していても、死亡者数に含まれていない可能性はありますか?
堀野先生
日本で肺炎は死因の第5位であり、特に高齢者は誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を含め、様々な原因による肺炎によって亡くなることがあります。新型コロナウイルス感染症による肺炎の画像検査や血液検査では、多発するすりガラス陰影やリンパ球減少など、一般的な肺炎とは異なる傾向がみられます。このような画像所見や血液検査は、新型コロナウイルス感染症以外の肺炎でもみられますが、医療従事者がこれらの所見を見たときには積極的に新型コロナウイルス感染症を疑い、専門医や保健所に相談し、新型コロナウイルス感染症の可能性があると判断された場合には検査が行われていると思います。そのため、可能性としては低いと思いますが、可能性を100%否定することはできません。
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