新型コロナの感染が拡大しているけど、医療崩壊が起きるとどうなるの?
まだまだピークアウトの気配が見えない新型コロナウイルス。このままではすぐにでも「医療崩壊」が起きると言われていますが、実際に医療崩壊とはどのような状況を指すのでしょうか。また、医療崩壊を起こさないために私たちでできることはあるのでしょうか。実際に医療崩壊が起きている欧米諸国の現状から、日本で医療崩壊が起こさないようにするための対策について、日本感染症学会専門医の加藤先生に取材しました。
※この記事は、2020年4月7日時点の取材データをもとに作成しております。
監修医師:
加藤 哲朗(日比谷クリニック 副院長、日本感染症学会感染症専門医)
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、欧米で医療崩壊が起きているという報道がありますが、具体的には何が起きているのでしょうか?
いくつかありますが、その根本は入院患者用の病床数が足りなくなり従来通りの医療が受けられない方が出ていることにあります。イタリアなどでは経済上の問題によって、以前から病院の病床数を減らしていた背景がありました。その中で、急激なCOVID-19の入院患者数が増加したため、ベッド数や対応に当たる医療従事者などのキャパシティを超えてしまったことが原因と考えられます。米国は恐らく欧州諸国より病床数の余裕はあったと思いますが、同様に急激なCOVID-19患者の増加に対応できなくなった、ということがあります。
患者数増加により、医療が受けられなくなるということでしょうか?
そういうことです。また世の中にある病気は今回のCOVID-19だけではありません。がんや心臓病、脳卒中など一般的に頻度の高い病気が減ったわけではありません。これらの患者さんも同様に治療を受けなくてはなりませんので、病院における通常の医療だけでなく、新型コロナ関連への対応など、医療従事者の業務がさらに増えることになります。
さらには、医療従事者が新型コロナウイルスに感染することによって、治療に携わることのできる人数そのものが減ってしまうことも危惧されています。これらの状況が複合的に発生して、いわゆる医療崩壊が起こっていると思われます。
日本の医療現場でも、東京では病床が足りていないと耳にしたことがありますがどうでしょう? 日本も医療崩壊が起きる可能性は?
OECD(経済協力開発機構)の分析では、日本の単位人口数あたりの病床数は欧米諸国よりも多いとされていますが、それでも限界があります。また、ここ最近のCOVID-19患者の増加数を見る限り、少なくとも、東京では感染症病床の数を超えた患者数になっていますので、理論上は医療崩壊の可能性も否定できず、早急な対策が不可欠と言えます。
医療崩壊が起こるとどのような被害がありますか?
先の質問の回答にもお話しましたが、COVID-19だけでなく、病院でのケア・治療が必要なすべての患者さんにおいて、治療が受けられないということが起こりえます。病気の種類にもよりますが、例えば普段であれば対応できるような病気も対応できないがため、治療の有効性が低下してしまう可能性もあります。
医療崩壊した場合としなかった場合で、致死率・死者数はどれくらい変わるでしょうか?
正確な数字はお示しすることができません。医療崩壊は病床不足、医療従事者不足、COVID-19患者の増加、その他の疾患への影響など、極めて多くの要素にかかわってくるため予想ができません。繰り返しになりますが今現在、COVID-19患者だけでなく他の病気で治療中の方もおられますので、COVID-19といった一つの病気だけにとらわれずに、医療全体としての問題であることを認識することが重要です。
感染症病床や人工呼吸器を増やしていくなどの方針が出ていますが、医療崩壊をさせないためには、どれくらいの数が必要でしょうか?
患者数の増加の速度によって変わってきますので、具体的な数は予想できません。但し言えることは、感染症病床や人工呼吸器はすぐに準備できるものではありませんし、人工呼吸器は機械だけ増えてもそれを扱える医療従事者も同時に確保できないと意味がないということです。また実際に診療するには病床や機器、医療従事者のほか、マスクや防護服なども人数分必要になることも認識することが重要です。ベッド数や人工呼吸器の数だけに固執せず、想定される患者数と対応できる医療のアンバランスが生じないようにしていく努力が求められます。
医療崩壊が起きないように私たちができることはありますか?
原則として、まずCOVID-19の患者をいかに増やさないかが重要です。つまり、感染拡大対策を徹底することに他なりません。一般的な感染対策(咳エチケット、手洗い)はもちろん、新型コロナウイルスは人と人が接することで拡大しますので、そういった機会を可能な限り減らすことが必要です。新型コロナウイルスの厄介なところは、自覚症状が無くても罹患していることがあるため、こういった方が行動制限をせずに動きまわり、感染を拡大させる可能性もあるということです。一人ひとりが、自覚症状がなくても自分は罹患しているかもしれないと思って行動することが、行動制限の本当の意味であることを理解するべきだと思います。「誰もが誰かに感染させ得る、誰もが誰かから感染してしまい得る」ことを本当に自覚するようお願いします。
※参照サイト:COVID-19 Japan 新型コロナウイルス対策ダッシュボード
https://www.stopcovid19.jp/
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