更年期障害の検査について|更年期障害の原因・受診する診療科・治療方法についても解説します
40代に差しかかった女性なら気になり始める人が多い更年期障害ですが、診断には検査の受診が必要になります。しかし婦人科で受ける検査には抵抗を感じる人もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、更年期障害の診断にはどのような検査が行われるのかとともに、更年期障害の原因・受診すべき診療科・治療方法についても解説しています。
事前にどのような検査が行なわれるのかを知っておくことで、検査への心理的負担を少しでも減らしておきましょう。
監修医師:
阿部 一也(医師)
目次 -INDEX-
更年期障害の検査について
更年期障害の診断は、問診をはじめとした複数の検査結果から導き出されます。さまざまな検査を行うことにより、更年期障害以外の病気が潜んでいる可能性を1つずつ否定していくのです。
ほかの病気の可能性が否定され、女性ホルモンの分泌量低下が認められた場合に更年期障害の診断が下ります。
「更年期くらいで」と受診をためらう人もいるかもしれません。しかしつらい症状がほかの病気の可能性もあるため、更年期障害を疑う症状が現れたら更年期検査の受診をおすすめします。
検査を受けたうえで更年期障害の診断が下りたのであれば、安心して治療にも専念できるでしょう。
問診
更年期障害の検査はまず問診が行われます。問診では実際に感じている症状だけでなく、月経の状態・これまでかかったことのある病気・現在治療中の病気などについても詳しく聞かれます。
また本人だけでなく、家族の病気・生活環境・成育歴などについて問われるなど、内容が多岐に渡っていることが特徴です。
受診する病院によってはホームページ上で問診票を公開しています。自宅であらかじめ記入して持参すると、診察がスムーズに進められます。
血圧測定
更年期障害の原因であるエストロゲンの低下は、高血圧を引き起こしやすいという特徴も持っています。
そのため血圧を測定し、高血圧になっていないかどうか検査を実施する場合があるのです。
また更年期の高血圧には、血圧が不安定で変動しやすいという特徴があります。
そのため普段の生活ではそこまで血圧が高くない人でも、イライラや睡眠不足などちょっとしたことがきっかけとなって血圧が上がりやすくなってしまうのです。
血圧が高いと心筋梗塞や脳卒中など突然死に至る病気の発症率が高まるリスクがあるため注意が必要です。
血液検査
血液検査では、血中における女性ホルモンの数値を調べます。主に調査するホルモンの種類は以下の5つです。
- エストロゲン(E2)
- プロゲステロン(P4)
- 卵胞刺激ホルモン(FSH)
- 黄体形成ホルモン(LH)
- プロラクチン(PRL)
エストロゲンの分泌量は更年期になると急激に減少していきます。エストロゲンの減少とは関係なく、卵胞刺激ホルモンは分泌され続けます。
エストロゲンと卵胞刺激ホルモンのバランスが乱れることによって起こる自律神経の乱れも、更年期に訪れる不調の原因となるのです。
更年期障害の診断目安としては、卵胞刺激ホルモンの値が40以下かつエストロゲンが20以下というものがありますが、血液検査だけで更年期障害の判断はできません。
ほかの検査を実施したうえで、更年期障害以外の病気の可能性を除外したうえで診断が下りるのです。
内診
現在自覚している症状がほかの婦人科系疾患が原因である可能性を除外するために、内診で卵巣や子宮内膜の状態をチェックします。
内診に抵抗を感じる人は多いかもしれませんが、更年期世代は婦人科系疾患のリスクも抱えています。早期発見のためにも、検査を受けておきましょう。
乳房検査
更年期障害で見られる症状の1つとして、乳房や乳頭(乳首)に痛みやしこりを感じる乳腺症という症状があります。
乳房や乳頭に痛みを感じる場合は乳がんなどの病気の可能性を考え、マンモグラフィや超音波検査などで検査を実施します。
乳腺症が原因で痛みを感じている場合は上記の検査を実施しても病変箇所が認められないため、乳がんや乳腺炎の可能性が除外できるのです。
また更年期世代は乳がんのリスクも高まる年齢のため、定期的に検査を受けて病気の早期発見に努めましょう。
更年期障害の原因
更年期障害の原因は、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が不安定になることです。
エストロゲンは一般的に45歳頃から減少を始め、50歳頃に分泌が止まり閉経を迎えます。しかも一定の割合で減少していくのではなく、急に多くなったり少なくなったりと揺らぎながら減少します。
その結果ホルモンバランスが乱れてしまい、心身に不調をきたしてしまうのです。
ただし原因はホルモンバランスの乱れだけではありません。加齢などによる身体的因子・本人の性格などによる心理的因子・職場や家庭内の人間関係などによる社会的因子が複合的に絡み合って発症につながっているといわれています。
このため更年期障害の現れ方には個人差が大きいことが特徴です。
更年期障害で受診する診療科は?
更年期障害の症状は多岐に渡るため、どの診療科を受診すべきか迷ってしまうかもしれません。
更年期障害は複数の診療科にまたがって治療を行うケースもありますが、まずは更年期障害以外の病気が潜んでいないかどうかを見極めることが大切です。
基本的には婦人科を受診
更年期にあたる45〜55歳前後の年齢で更年期障害のような症状が認められた場合、基本的には婦人科を受診してください。
症状に合わせて1件1件病院を受診していると、時間も医療費も浪費してしまい大変です。
まずは婦人科で更年期の検査を受け、更年期の可能性とほかの病気が潜んでいる可能性をチェックしましょう。
もし婦人科を受診して更年期以外の気になる箇所が見つかれば、紹介状をもらって各診療科を受診するという方法もあります。
ほかの病気である可能性が否定されれば、安心して更年期障害の治療に専念できます。
症状に合わせて別の診療科を受診するケースも
更年期障害の症状の中には、ほかの病気が潜んでいるケースが存在します。
今までに感じたことのないような激しい頭痛が起こった場合にはくも膜下出血や脳出血の可能性があるため、頭痛診療の専門である脳神経外科を受診してください。
また、めまいに関しても注意が必要です。メニエール病・起立性調節障害・脳梗塞などの病気が隠れている恐れがあるため、脳神経内科の受診を勧められることがあります。
さらにイライラや不安などの精神神経症状がつらい時には、精神科や心療内科の受診を勧められるケースもあるでしょう。
更年期障害の治療方法
更年期障害の症状は多岐に渡り、程度も人によってさまざまです。そのため治療も患者個人の症状に合わせて行われます。
多くの場合、保険適用での治療が可能ですが、使用する薬によっては自費診療となる場合があります。
治療を受ける際には、あらかじめ保険適用になるかどうかを確認しておくと安心です。
ホルモン補充療法(HRT)
ホルモン補充療法(HRT)とは、少量のエストロゲンを補って更年期障害の主な原因であるエストロゲンの急激な減少をなだらかにする治療法です。
HRTはほてり・のぼせ・発汗などの動悸などの血管運動神経症状と呼ばれる症状に対して特に効果的ですが、その他の症状にも有効であることがわかっています。
子宮がある人はエストロゲンを単独で使用すると子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクが高まってしまうため、黄体ホルモンを併用します。
過去に子宮を摘出している人はエストロゲンを単独で使用しても問題ないため、黄体ホルモンを併用する必要はありません。
ホルモン補充療法(HRT)で用いられるホルモン剤には飲み薬・貼り薬・塗り薬(ジェル)などの種類があり、投与方法もさまざまです。
どのタイプのホルモン剤を使用していくかは、主治医と相談して適切な治療方法を選択します。また、どのタイプも保険適用となっています。
漢方薬による治療
HRTに抵抗があったり、薬の副作用を心配したりしている人は、漢方薬による治療も選択肢のひとつです。
また、HRTは心臓・肝臓・腎臓に疾患を持つ人は受けられないため、該当する疾患を持っている人も漢方薬での治療がおすすめです。
更年期障害治療には、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・加味逍遙散(かみしょうようさん)・桂枝茯苓丸(けいしふくりょうがん)の3種類が頻繁に使用されており、「更年期の3大処方」といわれています。
ただし3種類すべてを服用するわけではありません。どの漢方薬が効果的なのかは人によって異なるため、その人の体質や症状に合わせて処方されます。これら3つが合わない場合でも、ほかに候補となる漢方はいくつかはあります。
また漢方薬はHRTなどほかの薬と併用が可能です。ただしほかの薬と併用する際には、効果が薄れたり、薬効が増強されたりなどの相互作用が起こる恐れがあります。
そのため漢方薬とほかの薬を併用する際には、必ず医師や薬剤師に相談してください。
抗うつ薬・抗不安薬による治療
以下のような状態が見られる場合は、抗うつ薬や抗不安薬を処方されることがあります。
- 気分の落ち込み・イライラ・不安・情緒不安定・意欲の低下・不眠などの精神神経症状が主な症状である
- HRTの効果が見られない
不眠の症状がつらい場合は、抗うつ剤や抗不安薬に加え睡眠導入剤が処方されることもあります。
新規抗うつ薬と呼ばれている選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などは、副作用が少ないことが特徴です。
またほてりや発汗などの血管運動神経症状にも有効であることが知られており、更年期治療への効果が期待できます。
プラセンタによる治療
プラセンタとは胎盤のことです。ヒト胎盤から抽出されたプラセンタエキスは体内の復調作用を持っていて、体のあちこちを本来あるべき状態へと整えてくれる効果があるとされています。
特に厚生労働省から肝炎や更年期障害の治療薬として認可を受けているメルスモンというプラセンタは、日本国内の産科で正常分娩した健康な母体の胎盤を使用しているため、安心して治療に使用できます。
プラセンタ注射は治療を受ける年齢や症状によって保険適用になる場合と自費診療になる場合があるようです。
プラセンタ治療を希望する際には、治療を受ける予定の病院で保険適用になるかどうかをあらかじめ確認しておきましょう。
更年期障害の代表的な症状
更年期障害の症状は多岐に渡ります。また、日常生活に支障をきたす人から症状をほとんど感じない人まで、症状の程度も人によってさまざまです。
テレビやインターネット上で耳にする機会の多い代表的な症状から、なかには「これが更年期障害の症状?」と驚いてしまうような症状もあります。
更年期障害のサインを見逃さないためにも、どのような症状が出るのか知っておくとよいでしょう。
ホットフラッシュなど血管運動神経症状
更年期障害の特徴的な症状として、ホットフラッシュなどの血管運動神経症状が挙げられます。
ホットフラッシュとは、顔面から頭部、さらには胸部にかけてほてり・のぼせ・発汗が認められる症状を指しています。
具体的には顔が急に熱くなったり、夏でもないのに汗が止まらなくなったりといったことが起こり、発生する時間帯は昼夜を問いません。
そのため夜間にホットフラッシュが起こると発汗による不快感で夜中に目が覚めてしまい、睡眠障害へとつながるケースも存在します。
日中でも時と場所を選ばず起こるため、人前で大汗をかいて恥ずかしい思いをしたり、汗ふき用のハンカチを何枚も持ち歩く必要が出てきたりして、日常生活に支障をきたす可能性も出てきます。
めまいや頭痛など身体症状
更年期に起こりやすいめまいの原因は主に、自律神経の乱れと感覚器官の加齢変化が原因です。
身体がふわふわする・視界がぐるぐる回っているような感覚に陥る・地震でもないのに地面が揺れている感じがあるなどの症状が起こりますが、更年期障害以外の病気が潜んでいる可能性もあるので注意が必要です。
また、めまいと同じように頭痛にも注意してください。頭痛も更年期障害の症状としては一般的で、検査をしても特に異常が認められない緊張型頭痛や偏頭痛が多くを占めています。
しかしなかにはくも膜下出血や脳出血などの命に関わる病気が隠れている場合があります。今までにない痛みが急激に出現したり強い頭痛が続いたりした場合には、早急に医療機関を受診しましょう。
イライラや不安など精神症状
更年期障害は女性ホルモンであるエストロゲンの減少が主な原因で起こりますが、エストロゲンは気持ちを安定させるセロトニンの生成に深く関わっています。
そのため更年期には感情のコントロールが難しくなり、イライラしたり急に不安感に襲われたりしやすくなるのです。
また更年期におけるイライラや不安はエストロゲンの減少だけが原因ではありません。一般的に更年期を迎える年齢は女性にとってさまざまな変化を迎える時期と重なっています。
家庭や職場で受けるさまざまなストレスにより自律神経のバランスが乱れることも、精神症状の原因となっているのです。
更年期障害は予防できる?
女性の平均寿命が80歳を超えている現代では、程度の差はあれど誰しもが更年期を経験することだといえます。そのため更年期障害を完全に予防することは難しいでしょう。
しかし早めに対処することで症状の悪化は予防できる可能性が高いので、可能なところから対策を始めることをおすすめします。
更年期障害の悪化を防ぐための主なポイントには、ストレスを溜めないこと・良質な睡眠を取ること・栄養バランスの取れた食事の3つが挙げられます。
ストレッチやウォーキングなどの運動は、適度な疲れを感じることにより睡眠の質を高めてくれるだけでなくストレスの解消にもつながるため、積極的に取り入れていきたい対策のひとつです。
「運動」と聞くと難しいと感じる人もいるかもしれません。車の使用をなるべく控えて自転車に乗ってみたり、ガーデニングに挑戦してみたりというように、意識して身体を動かす時間を作るだけでも効果を期待できます。
ストレスを溜めないためには、運動のほかに打ち込める趣味を見つけることもおすすめです。
趣味を通じて新しい仲間との出会いがあるなど「よい刺激」をたくさん受けることが、ストレスの解消につながります。
また、良質な睡眠のために早寝早起きの習慣を付けるように心がけてください。朝にしっかりと太陽の光を浴びると体内時計が整い、自律神経を整えてくれます。
食事の面では、3食バランスのよい食事を心がけてください。特に大豆には女性ホルモンと似た働きをする大豆イソフラボンが含まれているため、意識して摂取するとよいでしょう。
編集部まとめ
更年期障害の検査は問診を始め、血液検査・血圧測定・内診・乳房検査などさまざまな検査を行ない、ほかの病気が潜んでいないかのチェックも行われます。
エストロゲンの低下と卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)の上昇が認められる場合、年齢・症状・ほかの病気が潜んでいないなどの項目を総合して更年期障害の診断が下りるのです。
婦人科での検査に恥ずかしさを感じていたり、「たかが更年期」と軽く考えていたりしたら症状が悪化してさらにつらい思いをする可能性があります。
不調の原因が更年期障害だとはっきりすれば安心して治療に専念できますし、もしほかの病気が見つかっても早期に治療を開始できれば回復も早いことが見込まれます。
更年期障害かな?と思う症状が続く場合には、不調の原因を突き止めるために婦人科で検査を受けましょう。
参考文献