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これって更年期障害?多くの女性が感じる症状と治療法

 公開日:2024/04/12
これって更年期障害?多くの女性が感じる症状と治療法

更年期は、女性にとって避けて通れないライフステージです。この期間に起こる原因不明の体調不良は更年期障害と呼ばれ、その症状も、重さも人によってさまざま。治療法や向き合い方も千差万別です。

更年期障害は誰にでも起こりうる症状ですが、似た症状を引き起こす病気もあり、不調を放置するのは危険です。当記事では、更年期障害のいろいろな治療方法や、心身の不調を和らげるための生活習慣の改善方法などを紹介します。

佐藤 綾華

監修医師
佐藤 綾華(医師)

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北海道大学医学部医学科卒業。宮城県の急性期病院で初期研修修了後、産婦人科を専攻し、宮城県の複数の総合病院で勤務したのち産婦人科専門医を取得。生殖医療分野と女性医学分野に興味を持ち、日本女性心身医学会認定更年期指導士の資格も取得。

更年期障害とは?

更年期障害とは?

更年期障害とは、40代以降に性ホルモンの分泌量が低下し、自律神経失調症に似た症状を引き起こす症候群です。この症状は男性でも発生しますが、女性と比較して症状が緩やかであるため、老化の一環と誤認されやすく、その存在に気づかれにくいのが特徴です。

閉経前後の女性に症状が現れる

女性の更年期とは、閉経を挟んで前後約5年ずつ、合計で約10年間を指します。閉経のタイミングは個人差が大きいですが、一般的には50歳頃が平均的な閉経年齢とされます。つまり、45歳から55歳の間が一般的な更年期と言えます。

しかし近年は、20~30歳代であっても顔のほてりや動悸といった更年期のような症状が現れる場合があります。そのため年齢によらず、更年期特有の症状に苦しむ女性で、他の疾患が原因とは特定できず、日常生活に影響を及ぼす場合を「更年期障害」といいます。

症状の出方は人によって大きく差があり、何も症状を感じずに更年期を過ごす人もいれば、複数の症状に悩まされる人もいます。

2022年7月に発表された厚生労働省の更年期症状・障害に関する意識調査によれば、「医療機関への受診により、更年期障害と診断されたことがある/診断されている」女性の割合は、40~49歳で3.6%、50~59歳で9.1%でした。

また、「診断は受けていないが、更年期障害の可能性がある/あった」と答えた女性は、40~49歳で28.3%、50~59歳で38.3%に上ります。これらのデータから、更年期障害が女性の生活に深く影響を及ぼしていることが明らかになりました。

更年期障害の症状

更年期障害の症状

更年期障害は、心と身体の両方に、様々な症状を引き起こします。これは、エストロゲン受容体が私たちの身体の多くの臓器に存在しているためです。ここでは、更年期障害でとくによく見られる3つの症状について説明します。

血管運動症状

血管運動神経症状とは、発汗やホットフラッシュと呼ばれる症状のことを指します。他に、動悸、頻脈、手足の冷えなども起こります。「急に汗をかいてすぐに冷える」「顔に滝のように汗をかくので恥ずかしい」といった症状から、更年期障害を疑い婦人科を受診する人が増えています。

精神的症状

精神的な症状としては、気持ちが沈んだり、イライラしたり、眠れないといった症状が多く現れます。他にも、不安感が大きくなる、落ち込む、意欲の低下、集中力の低下などが起こります。また、人と会ったり話したりするのが億劫になったと感じる人もいます。

身体的症状

身体的な症状としては、頭痛、肩こり、動悸などが挙げられます。加えて、「お腹周りだけが太りやすい」、「髪が抜けやすくなった」と感じる人も多くいますが、これも更年期症状の1つです。近年では、関節痛を訴えて受診する人も増えてきています。

更年期障害の症状を感じたら婦人科へ

更年期障害の症状を感じたら婦人科へ

「もしかして更年期かも?」と感じたら、1人で悩まずに婦人科へ相談することをおすすめします。早期に治療を始めることで、心身がぐっと楽になります。また、更年期障害と思い込んでいたら実は別の病気だった、というケースもあり、そういった別の病気の早期発見につながることで適切な対応が可能となります。

更年期障害の検査

診断の最初のステップは問診です。これまでの病歴、現在の身体の状態、困っていることなどを確認します。具体的な項目としては、月経の有無(周期、量、最後の月経がいつだったかなど)、閉経の時期、既往症、生活習慣(喫煙や飲酒の有無など)、現在の持病、家族の病歴などです。

精神的な症状や関節痛が強い場合など、他の診療科を受診したほうが良いと判断される人には、精神科や心療内科、整形外科など適切な診療科を紹介します。

その後、問診と症状に基づいた検査を行い、その症状が更年期障害によるものなのか、それとも別の病気(器質性疾患)なのかを見極めます。身長、体重、血圧などの基本的なデータをはじめ、血液検査や子宮頸部、乳房のチェックなどを行い、適切な治療方針を立てます。

なお、乳がんや血栓症の病歴がある人は、更年期障害の一般的な治療方法であるホルモン補充療法が適応外となるため、その点も検査の一環として確認します。

更年期障害の治療

更年期障害の治療

検査によって更年期障害と診断された場合、治療が始まります。

更年期障害の主な治療は、ホルモン補充療法と漢方薬です。その他にも、カウンセリング、睡眠導入剤、抗うつ薬、抗不安薬など、その他症状に応じた薬を用いることがあります。

一人ひとりの症状に合わせて治療法を選び、その人に合ったオーダーメイドの治療法を模索していきます。

ここでは、具体的にどのような治療を行うかを解説します。

ホルモン補充療法とは

更年期障害の最大の原因は、女性ホルモン、とくにエストロゲンの減少とゆらぎです。この不足したエストロゲンを薬で補い、ゆらぎを小さくするのがホルモン補充療法です。

ホルモン補充療法では、を使用します。エストロゲン製剤には、貼り薬、ジェル状の塗り薬、飲み薬の3種類があり、現在の主流は貼り薬と塗り薬です。飲み薬は吸収の過程で胃や肝臓に負担がかかる、静脈血栓症のリスクが高くなる可能性があるなどの理由から、近年ではあまり処方されません。

ホルモン補充療法には、乱れていた自律神経のバランスが整い、多くの症状が改善する効果があります。とくに、ホットフラッシュと呼ばれるのぼせ、ほてり、発汗に高い効果が期待できる治療法です。そのほか、イライラや気持ちの落ち込みの改善、記憶力や集中力の回復、更年期以降の骨粗鬆症や動脈硬化の予防、肌の潤いの改善などが期待できます。

ただ、エストロゲン製剤のみを使用すると、子宮体がんや不正出血のリスクが高まるため、子宮内膜の増殖を抑制し、剥がす作用のある黄体ホルモン(プロゲステロン)製剤を併用します。ただし、子宮筋腫などで子宮を摘出した人はエストロゲン製剤のみで治療を行うことが可能です。

漢方薬による治療

体全体の調子を整える漢方薬は、更年期障害の治療によく用いられます。更年期は月経が止まることから、東洋医学では血の巡りが悪くなる「瘀血(おけつ)」の状態と捉えられます。ただし、更年期には気・血・水のいずれも乱れやすくなるものです。

気の乱れを例に挙げてみましょう。通常であれば気は、上から下に流れます。しかし閉経に伴って詰まったり(気滞)、下から上へ逆流したり(気逆)するのです。気滞になると喉のつかえ感、抑うつ感、気持ちの落ち込みなどが現れ、気逆ではホットフラッシュやほてりといった症状が生じやすくなります。

そのほか、加齢によって元々持っていたエネルギーが不足する(気虚)と、疲れやすさや倦怠感が生じます。さらに、無理をすると栄養不足(血虚)に陥り、不眠やめまいなどの症状が現れます。これが、漢方における更年期障害の考え方です。

更年期障害に対しては、気や血の不調を改善する漢方薬が多く処方されます。とくに、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は「婦人科三大処方」とも呼ばれ、更年期障害の治療によく用いられる漢方薬です。症状に応じて、複数の漢方薬を組み合わせて処方することもあります。

【当帰芍薬散】
……体力が弱い人向けの薬です。冷え症で貧血の傾向があり、疲れやすい人に適しています。

【加味逍遙散】
……体力が普通から弱い人向けの薬です。のぼせや肩こり、疲れやすさ、不安、イライラといった症状がある人に適しています。

【桂枝茯苓丸】
……比較的体力がある人向けの薬です。肩こりや頭痛、めまい、のぼせ、脚の冷えなどの症状がある人に適しています。

複数ある種類の中から、患者さんの症状、体質に応じて適切な漢方薬を選択できるのが漢方療法のメリットです。

漢方療法は、全身の状態を整える治療法のため、更年期症状の改善のために服用していた漢方薬が、便秘や痔といった更年期症状以外の不調の改善につながることもあります。

時折、胃腸の不調やむくみなどの副作用が起こることがありますが、これらの症状は薬の服用を中止すれば治まることがほとんどです。気になる症状があらわれた際は、医師に相談しましょう。

更年期障害には漢方薬以外の薬の処方も

更年期障害には漢方薬以外の薬の処方も

ホルモン補充療法と漢方薬以外にも、更年期障害の治療方法はさまざま存在します。

例えば、気分の落ち込みや不安、不眠など精神的な症状が強い場合には、抗うつ薬や抗不安薬、睡眠導入剤などが処方されます。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という抗うつ薬は吐き気などの副作用が起こることもありますが、向精神薬の中では副作用が少ないとされています。それ故、更年期のうつ症状の治療薬として頻繁に使用される薬です。

向精神薬には、脳内神経伝達物質であるセロトニンの量を増やし、心を安定させる効果があります。婦人科でこれらの薬を一定期間服用しても症状の改善が見られない人は、心療内科への紹介を受けることもあるでしょう。

カウンセリング・生活指導も更年期障害に効果的

カウンセリング・生活指導も更年期障害に効果的

また更年期障害は、睡眠不足や食生活の乱れ、運動不足などによって悪化することがあります。そのため、生活パターンの指導を行うことも重要です。

・睡眠習慣の改善

更年期障害により不眠の症状が出ている人こそ、しっかりと睡眠を取ることが重要です。

寝る直前までスマートフォンを使用している人や、夜更かしの習慣がある人は、できれば午後12時前にはベッドに入りましょう。そして1時間ほどはスマートフォンを触らずに、目を休める時間をつくることを推奨します。

また、食事のタイミングにも気をつけます。寝る直前に食事を摂るとエネルギーを消化に使用するため、睡眠の質が低下するとされています。

さらに、更年期を迎える際には、取り過ぎに注意したい食品と、積極的に取り入れたい食品とがあります。ただし、すべてを無理に取り入れようとせず、バランスのとれた食事を心がけることが重要です。

・甘いものを食べすぎない

甘いものなどを食べると血糖値が急上昇し、インスリンというホルモンが大量に分泌されて血糖値が急激に下がります。

血糖値の乱高下は、イライラや気持ちの落ち込みの原因です。更年期の精神的な症状を悪化させないためにも、朝食を抜いたり、間食で甘いものを過剰に摂取したりしないよう注意しましょう。

・カルシウムや青魚を摂る

エストロゲンの低下に伴い、骨量が減少したり、コレステロールや中性脂肪が増加したりすることがわかっています。そのため、更年期以降は骨粗鬆症や動脈硬化などのリスクが高まるのです。

これらを予防するためには、カルシウムや青魚に多く含まれるEPA、DHAを積極的に摂取するとよいでしょう。また、カルシウム摂取時には、キノコ類や魚介類などに豊富に含まれるビタミンDを一緒に摂取すると、カルシウムの吸収効率が上がるとも言われています。

・大豆製品を摂る

更年期の人におすすめする食品の1つは、イソフラボンを多く含む大豆製品です。ソフラボンから生成されるエクオールという成分が、エストロゲンに似た働きをするため、更年期の諸症状を改善し、骨量の減少を防ぎ、コレステロールを抑制する効果が期待できます。

大豆は低脂肪でカルシウムを多く含む優れたたんぱく質源であるため、積極的に大豆製品を摂取することをおすすめします。

・運動不足の解消

運動は良質な睡眠を促すだけでなく、骨密度を増やし、血管を柔らかくする効果も期待できます。そのため更年期障害に悩む人には、ウォーキングなどの運動を取り入れるとよいでしょう。

また、身体を動かすことで心も動き、気持ちが上向きになることもあります。運動不足の人にとっては億劫なことかもしれませんが、少しずつでも運動を始めてみてください。身体を動かすことで心の疲れが軽減されるでしょう。

更年期障害の症状はほかの病気の可能性も

更年期障害の症状はほかの病気の可能性も

更年期症状は、身体、心、そして外見に、さまざまな形で現れます。しかし、それらの症状が実際に更年期によるものなのか、あるいは別の病気によるものなのかを見分けるのは容易ではありません。

甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、甲状腺機能低下症(橋本病)

更年期障害の症状によく似た病気の代表的な例として「甲状腺疾患」があります。甲状腺ホルモンが過剰に分泌するバセドウ病の症状には、ほてり、異常発汗、動悸などが見られるため、その症状から更年期障害と勘違いしがちです。

一方、甲状腺機能が低下する橋本病の症状には、気分の落ち込み、無気力、冷え、肌のカサつきなどがあります。

どちらの病気の症状も、更年期の症状と非常に似ているため、区別するのが難しい場合があります。素人判断を避け、不調を感じたら婦人科を受診しましょう。重篤な病気が隠れている場合は、早期発見につながる可能性があります。もし更年期であると判明した場合は、適切な治療を受けて症状を軽減させることができるでしょう。

まとめ

まとめ

更年期は女性の体が大きく変化する時期で、ホルモンバランスの乱れにより、さまざまな症状が現れます。更年期障害には、ホルモン補充療法や漢方薬による治療、抗うつ薬や抗不安薬の使用が有効です。

さらに生活習慣の見直しも重要で、睡眠習慣、食生活の改善、運動不足の解消などにより、つらい症状が緩和できることもあります。

ただし、更年期症状と似た症状を持つ他の疾患が存在することには注意が必要です。これらは素人目には見分けがつきません。不調を感じた場合は、専門医の診断を受け、適切な治療を受けることが大切です。

この記事の監修医師