糖尿病の運動療法とは?効果・種類・注意点を解説
生活習慣と社会環境の変化に伴って急速に増加している糖尿病は、後期高齢化と共に大きな社会問題となっていることをご存知でしょうか。
ひとたび糖尿病を発症すると、治癒することはありません。病気を放置すると網膜症・神経障害・腎症・脳卒中・虚血性心疾患などの合併症リスクが高まり、最悪の場合には失明や透析治療が必要となります。
では一体、糖尿病を発症してしまった場合にはどのように症状を改善していけば良いのでしょうか。また、5人に1人は発症するリスクがある糖尿病を防ぐ方法があるのでしょうか。
結論からお伝えすると、糖尿病の症状改善および防ぐ方法として有効なのは運動療法です。
本書では、糖尿病に悩んだり不安になったりしている人に役立つ、効果的な運動療法について詳しく解説していきます。
簡単に生活へ取り入れられる方法を紹介していますので、ぜひご一読ください。
監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
目次 -INDEX-
糖尿病の運動療法とは?
糖尿病の運動療法が効果的であると実証できるこのような調査結果があります。令和元年に行われた「国民健康・栄養調査」です。
調査結果では、国内の糖尿病発症者および糖尿病が強く疑われる予備群の割合は男性が19.7%、女性が10.8%となっています。さらに、男女合わせると約1,900万人が糖尿病およびその予備軍にのぼると推計されているのです。
すでに発症している内の約9割が2型糖尿病で、主な原因として過剰な食事摂取・運動不足・ストレスなどの生活習慣が挙げられています。
糖尿病の治療には運動療法・食事療法・薬物療法の3つが主な方法ですが、薬物療法は運動療法をベースとした上で行われる治療になります。
日本糖尿病学会が公表している「糖尿病治療ガイド」でも、2型糖尿病治療の基本として生活習慣改善のために糖尿病教育を行うと掲載されているほど重要視されているのです。
運動療法の効果
それではさっそく、「糖尿病の運動療法とは」でお伝えした「糖尿病治療ガイド」でも推奨されている運動療法にはどのような効果があるのかみていきましょう。
糖尿病でよく知られているインスリン注射を中心とした薬物療法が、運動療法をベースとしたうえで行われる治療になっている理由も詳しくお伝えしています。
運動療法の効果が分かれば症状改善にも役立ちますので、ぜひ参考にしてください。
血糖値が下がる
生活習慣改善で重要視されているのは運動療法と食事療法です。その中でも運動療法は、運動することで筋肉が活発化して糖や遊離脂肪酸の消費を促進させます。
そのため、脂質代謝の改善・血圧低下・血糖コントロールの改善・心肺機能の改善・インスリンの効果アップにつながり症状が改善されるのです。
また、運動によって筋肉や肝臓の糖の処理能力が改善されて血糖値が下がります。血糖値をコントロールするには、筋量を増加させて糖の処理能力を改善させる効果のあるレジスタンス運動がおすすめです。
レジスタンス運動については「運動療法の種類」で詳しく解説していきます。
インスリンが効きやすくなる
インスリンの効果アップにつながる運動療法の中でもおすすめされているのは有酸素運動です。
内臓の脂肪細胞を小さくして肥満を改善し、脂肪組織から産生されるインスリンの働きを妨害するアディポサイトカインなどの物質の分泌量を減らします。
さらに筋肉への血流が増えると、ブドウ糖が細胞の中に取り込まれやすくなりインスリンの効果が高まるのです。
インスリンが効きやすくなれば、血糖値は低下します。また、筋肉が増えることでもインスリンの効果が高まるため血糖値は下がりやすくなるのです。
運動療法でインスリンを効きやすくするからこそ、薬物療法が生きてくるのです。このことからも、なぜ運動療法が薬物療法のベースとしたうえで行うと推奨されているのかをご理解いただけましたでしょうか。
体重が減少する
「インスリンが効きやすくなる」でも先述していますが、運動療法で体重を減少できます。その理由として、運動をすると体はエネルギーが必要な状態になり体内の脂肪を分解してエネルギーを作り出す働きが起こります。
脳内でノルアドレナリンやアドレナリンといったアデポキネチック(脂質動員)ホルモンが分泌されると、脂肪の代謝や分解に関わるリパーゼという酵素が活性化するのです。
リパーゼが活性化することにより、脂肪を脂肪酸とグリセロールに分解して血液中に放出されて全身の筋肉に運ばれ、エネルギーとして消費されるため体重が減少します。
また、血行が良くなることで血圧や動脈硬化を抑制する効果があります。
体力がつく
運動することで、糖尿病だけでなく肥満・生活習慣病・循環器疾患・がん・加齢に伴う生活機能の低下・認知症などのリスクを下げられます。
運動に伴って体力もつき、免疫力のアップも期待できるでしょう。まずは体力をつけて運動量を上げられるようにすることが大切です。
なぜかというと、筋肉量や筋力を増強する筋力トレーニングも、インスリンの効果を高めて血糖値を下げる効果があるといわれています。有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることによって、より良い治療効果が生まれることが研究結果からも明らかとなっています。
無理せず、体力をつけるところからはじめてみましょう。
ストレスを解消できる
ストレスはあらゆる病気においても大敵といえます。そのようなストレスも運動療法で軽減することが可能です。
運動することにより、体の機能を上手く使いながらさまざまな変化にも対応できるようになるといわれています。本来、体が持っている質の高い動きが運動不足によって制限されると反ってストレス状態を長引かせてしまう原因にもなります。
さらに、生活の質を低下させることからも運動がストレスの対処に有効であるといえるでしょう。生活習慣を整えて、適度な運動を継続することでストレスを解消できます。
ストレス解消だけでなく、運動の刺激によって筋萎縮や骨粗鬆症などの予防にも効果的です。
運動療法の種類
ここからは糖尿病の改善や予防に効果的な運動の種類についてみていきましょう。「体力がつく」でも先述しましたが、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることでより良い効果が生まれることがわかっています。
有酸素運動と筋力トレーニングに分類した上で、具体的な運動方法について解説していきます。
ぜひ、「生活習慣に取り入れやすい」と感じたものから試してみてください。
有酸素運動
運動といえば、有酸素運動を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。有酸素運動はさまざまな病気の予防にも効果的であるため、生活習慣にできるだけ取り入れてほしい運動の一つとなります。
有酸素運動の具体的な内容は以下の通りです。
- ウォーキング
- ジョギング
- エアロビクスダンス
- 水泳
- ランニング
- サイクリング
- 縄跳び
有酸素運動というのは、いわば全身運動のことを指しています。家でも手軽にできて運動強度いわゆる負荷が比較的小さく、筋肉を動かすエネルギーとして脂肪や血糖が酸素と一緒に使われることから有酸素運動(エアロビクス)がおすすめです。
通勤通学でサイクリングを取り入れるなど、ご自身に合った運動方法を日常生活に取り入れてみてください。
筋トレ
血糖値をコントロールするために、筋量を増加させて糖の処理能力を改善させる効果のあるレジスタンス運動がおすすめだと先述しています。
レジスタンス運動とは、スクワット・腕立て伏せ・ダンベル体操などのある一定の筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う筋力トレーニングのことです。
レジスタンス運動には2つの運動方法があります。まず1つ目は、ダンベルやマシンなどの器具を用いて行う方法です。
もう1つは、スクワットや腕立て伏せのようにご自身の体重を利用して行う方法になります。ご自身の体重を用いて行う方法は、場所や時間を問わずに手軽にトレーニングができることがメリットです。
しかし、器具を用いて行うトレーニングと比べると、負荷の大きさを調節しにくいというデメリットがあります。ですが、安心してください。
スクワットを例に挙げると以下のような形で負荷を大きくすることが可能です。
- 膝の曲げる角度と腰を落とす深さを調節する
- 机などに手をついてかかとを上げた状態で行う
- 持って行う
場所や時間を問わずにできるトレーニングだからこそ、負荷の調節を工夫すると良いでしょう。
また運動不足やご年配の人は、壁に手をついてかかとをゆっくりと上げて下してを繰り返すふくらはぎの筋力トレーニングから始めるのがおすすめです。
運動療法の頻度・時間
「運動療法の有効な手段はわかったけど、運動の頻度やどの程度の時間の運動量が必要なの?」と疑問を抱く人もいらっしゃるでしょう。
ここからは具体的な運動の頻度や時間について紹介していきます。あくまでも目安ですので、ご自身の体調に合わせて無理なく運動を行ってください。
運動頻度
運動療法により血糖コントロール・インスリン抵抗性・脂質代謝の改善が得られるだけでなく、糖尿病の症状改善と予防効果を発揮します。効果的な運動療法の目安としては、運動の頻度は週に3回以上、できれば毎日の運動が好ましいとされています。
また、運動強度および体への負荷はややきついと感じる中等度で行いましょう。運動強度とは、1分間に何回手首などの血管が動いているか(脈拍数)によって図ることが可能です。
なお、心拍数は1分間に心臓が何回動いているかを指しています。脈拍数も心拍数も動いているかを調べる場所が異なるだけで、基本的には同じ数値です。
ご自身の通常の脈拍数がわからないという人もご安心ください。脈拍数は、(220-年齢)×0.5=運動の時に目安にする脈拍数(回/分)の式で求められます。
脈拍数が少し上がっていれば負荷の軽い運動になります。脈拍数が大きく上がるほど、激しい運動になるため運動強度を簡単に見極めることが可能です。
デジタル時計やスマートフォンには、自動で脈拍数・体温・運動時間・消費カロリーを記録してくれる機能やアプリケーションがありますので、運動療法を取り入れる人におすすめです。医療現場でも注目されている健康管理ツールとなりますので、ぜひご活用ください。
運動時間
次に運動時間ですが、全身を使った有酸素運動は1回当たり20分以上行いましょう。1日で運動を行う時間はいつでも大丈夫です。また有酸素運動は、週に150分以上行うことが推奨されています。
さらに、週に2~3回のレジスタンス運動と合わせて行いましょう。レジスタンス運動を効果的に行うには、できれば1日置きに行うことがポイントです。
食後に血糖値が高くなりやすい人は、食事から1~2時間後に運動を行うと良いでしょう。
ほかにも具体的な運動の時間は以下の通りです。
- ウォーキングでは1回15~30分間を1日2回程度(1日1万歩を目安に)
- レジスタンス運動は足・腰・背中の大きな筋肉を中心に10回程度を2~3セット
- ストレッチは1か所当たり最低20秒気持ち良い範囲で伸ばす
ストレッチングも運動療法の1つです。場所や道具を必要とすることなく行えるため、生活習慣に取り入れやすいといえるでしょう。
糖尿病の運動療法における注意点は?
これまで運動療法の方法・頻度・時間について解説しました。では、糖尿病の運動療法における注意点にはどのようなことがあるのでしょうか。
運動療法を取り入れるうえで、抑えておいてほしい4つのことを紹介します。
運動の前は準備体操をしっかり行う
運動療法の1つでもあるストレッチは、有酸素運動やレジスタンス運動の前に行うことをおすすめします。しかし、ストレッチは体にかかる負荷も少なく簡単に行えると感じている人も多いのではないでしょうか。
実は、正しい方法でストレッチしなければ十分に効果を期待できません。ストレッチの原則は以下の5つになります。
- 1か所に20秒以上かけて伸ばす
- 伸ばす部位を意識する
- 気持ち良い程度に伸ばす
- 呼吸を止めない
- 伸ばす部位を適切に選択する
もしストレッチで意識すべき部位がわからない場合には、医師や理学療法士に相談してください。ストレッチは有酸素運動やレジスタンス運動と組み合わせて行うことでさらなる糖尿病の改善や予防効果に期待できるでしょう。
ブドウ糖などで低血糖を防ぐ
血糖値をコントロールする目的でもある運動療法ですが、インスリンなどの薬物療法を受けている人は低血糖に注意しましょう。運動をするときは低血糖の症状に注意し、ブドウ糖や軽食を準備しておきましょう。
-
低血糖の症状は以下の通りです。
- イライラする
- 頭痛
- 動悸
- 強い眠気が起きる
- 集中力の低下
デジタル時計やスマートフォンの健康管理機能やアプリケーションを使用しているなら、脈拍数をこまめにチェックするようにしましょう。
無理せず続けられる内容にする
理想としては毎日続けることが大切になります。そのため、無理せず続けられる運動方法を選びましょう。
天候に左右されない室内でできる運動や生活習慣に取り入れやすいものであれば、継続しやすくなるのでおすすめです。
運動を控えた方がいい場合もある
すでに糖尿病を発症している人は、運動をはじめる前に担当医に相談しましょう。ほかにも運動を控えた方がいい場合は以下の通りです。
- 空腹時血糖が250mg/dLと高い
- ケトーシスなど脱水のある時
- 感染症がある
- 自律神経障害が進行している
- 合併症を発症している
- 重い心臓病(心筋梗塞など)や肺の病気がある
- 骨、関節の病気を持っている
何かしらの病気で病院に受診している人は、まずは担当医に相談して運動療法を取り入れても問題ないかご確認ください。
運動療法だけでなく食事療法も大切
糖尿病の改善や予防対策には、食事療法も大切です。まずは生活習慣を見直す必要があります。
食事療法においては、栄養素の割合を目安としたバランスのいい食事を取ることを心がけましょう。栄養素のバランスは以下の通りです。
- 炭水化物 50~60%
- タンパク質 13~20%
- 脂質 20~30%
食事においても継続することが重要視されています。そのため、無理せず少しずつ食事内容を改善していく柔軟な対応が大切です。
食事改善に何から手を付けていいのかわからない人は、担当医に相談してみましょう。
編集部まとめ
社会問題ともなっている糖尿病の改善と予防対策に有効な運動療法について詳しく解説してきました。理にかなっている方法であると、ご理解いただけましたでしょうか。
運動はあらゆる病気や生活習慣の改善に役立つ身近な方法です。まずは継続できそうなものから取り組んで、少しずつ運動強度を上げていきましょう。
また、有酸素運動とレジスタンス運動は両方行うことで効果がアップします。ぜひ、ストレッチも交えて生活習慣に取り入れてみてください。
参考文献