「高血圧」が歯周病・むし歯リスクを高めるのはご存じですか? 口腔ケアのポイントも歯科医が解説!
高血圧は心臓だけでなく、お口の健康にも影響を及ぼすことをご存じでしょうか。高血圧の患者さんは健康な人と比べて、むし歯や歯周病のリスクが高まる傾向があります。今回は、高血圧になったときの口腔ケアのポイントを中心に、長期的に歯科医院を受診する際の注意点などを、「やまだ歯科クリニック」の山田先生に詳しく解説していただきました。
監修歯科医師:
山田 崇雅(やまだ歯科クリニック)
高血圧患者さんに潜むむし歯・歯周病のリスク
編集部
高血圧になると、お口の中にもこれまでにない変化が起こるのでしょうか?
山田先生
高血圧になると、体の末端の血流が悪くなりがちです。お口の組織は末端部分に当たるので、血流が滞ることによる悪影響が考えられます。また、血圧を下げる薬(降圧剤)には、副作用で歯ぐきが腫れたり(歯肉増殖症)、お口が渇いたりする薬剤が多く、これらの副作用によって口腔環境が悪化しやすくなります。
編集部
具体的に、どのような問題が起こりやすいのでしょうか?
山田先生
降圧剤の副作用で歯ぐきが腫れると、その部分に汚れがたまりやすくなったり、歯磨きが痛くてその部位を避けたりする傾向があります。さらに、お口の渇きによって唾液による自浄作用が低下すると、むし歯や歯周病、口臭のリスクが高まります。
編集部
そうすると、高血圧患者さんはより一層、口腔ケアに力を入れていく必要があるのですね。
山田先生
はい。まずは、高血圧にならないのが一番ですが、もしなってしまった場合は適切なセルフケアと定期的な歯科医院でのメンテナンスが、高血圧患者さんにとってはより重要となっていきます。
高血圧患者さんの口腔ケアのポイント
編集部
高血圧患者さんの口腔ケアのポイントを教えてください。
山田先生
高血圧の人の口腔ケアでは、セルフケアの徹底はもちろんのこと、歯科医院での定期的なケアも非常に重要です。よくある誤解として、「歯磨きが上手になったら十分」と思う人もいらっしゃいますが、歯科医院ではご家庭でできない専門的なケアを実施していきます。
編集部
具体的に、歯科医院ではどのようなケアをおこなっていくのでしょうか?
山田先生
歯科医院には超音波で汚れを落としたり、薬剤を浸透させたりする機材があるので、これらを使って歯ぐきの中(歯周ポケット)の洗浄をおこなうことができます。表面的な汚れを落とすだけでなく、肉眼では見えない部分の汚れも徹底的に落としていけるのが、歯科医院のケアの大きな特徴です。
編集部
お口の渇き(ドライマウス)に対しては、どのようなケアをおこなうとよいでしょうか?
山田先生
基本的には、保湿と唾液腺マッサージが有効です。保湿については、ドラッグストアなどで売っている保湿剤やうがい薬など、ある程度皆さんもご存じだと思います。一方で、唾液腺マッサージについてはあまり知られていないので、ぜひこちらも積極的に実践していただきたいです。
編集部
唾液腺マッサージについて、もう少し詳しく教えてください。
山田先生
唾液腺は耳の前(耳下腺)、顎の下・首の付け根(顎下腺)、舌の下(舌下腺)の大きく3カ所に位置しています。これらの部位に指を当て、円を描くように優しくマッサージしてください。唾液には口腔内を清潔に保つほか、唾液に含まれるミネラルは歯のエナメル質を強化する作用もあります。高血圧患者さんを含め、どの年代の方にもおすすめのケアです。
高血圧患者さんが歯科治療を受ける際の注意点
編集部
高血圧の持病があっても、歯科治療は通常通り受けられるのでしょうか?
山田先生
医科で適切な治療を受け、服薬などで血圧のコントロールが良好な方であれば、歯科治療は問題なく受けられます。ただし、高血圧患者さんの場合は、麻酔をともなう抜歯などの外科処置、治療時の心理的ストレスに十分な配慮が必要です。
編集部
高血圧の人が歯科治療を受けるにあたって、何か気をつけるべきことはありますか?
山田先生
まずは、問診表を正しく記入することが大切です。少し面倒に感じてしまうかもしれませんが、安全に歯科治療を受けるためには事前の情報収集と共有が非常に重要となります。また、最近の保険診療の改訂により、今後は医科と歯科との情報共有がさらに強化されることも、あらかじめご理解いただきたいと思います。
編集部
そのほかに、高血圧患者さんの受診で注意すべき点はありますか?
山田先生
大切なのは、自分の健康状態を隠さずに伝えることです。高血圧に限らず、持病がある人のなかには、それを恥ずかしく感じたり、伝えると診てもらえないと思ったりする方も実は少なくありません。しかし、健康状態を正直に、正しく伝えてくださることは、私たち歯科医にとっては非常にありがたく、その情報を元に適切な対応や治療計画を立てることができます。
編集部
つまり、患者さんと歯科医院側のコミュニケーションが重要なのですね。
山田先生
そのとおりです。例えば、特別な配慮が必要な患者さんに対しては、診療時間を長めにとったり、感染対策を強化したりすることがあります。そのためには、患者さんの協力が不可欠です。大切なのは、患者さんと我々歯科医が互いに情報を共有し、一緒にゴールを見つけていく姿勢です。医療者の指示や質問を真摯に受け止め、ともに解決を探っていく。そのような協力関係が安全で効果的な歯科医療につながることは、ぜひ知っていただきたいと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
山田先生
歯科医療は長期的な関係性が非常に重要で、10年、20年とともに歩んでいくためには、患者さんと医療者の間で信頼関係を築くことが不可欠となります。そのために、患者さんにはまず自身の健康状態を包み隠さず伝えてほしいです。また、予約日時をきちんと守っていただくことで、適切な人材を配置して医療の質の向上につながったり、我々歯科医療者も適切な対応でトラブルを防止できたりします。歯科医院は単なる治療の場ではなく、長期的な健康のパートナー的存在であることを、ぜひ本記事を通してお伝えできれば幸いです。
編集部まとめ
高血圧患者さんは降圧剤や血流の問題から口腔環境が悪化しやすく、むし歯・歯周病のリスクが高まります。その対策として、適切なセルフケアと定期的な歯科医院でのメンテナンスがより重要です。また、安全に歯科治療を進めるうえでは、患者さんと歯科医の間で正確な情報共有と信頼関係の構築が不可欠となります。歯科医院を長期的な健康のパートナーととらえ、定期的な受診を心がけていきましょう。
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診療科目 | 歯科 |