「摂食嚥下障害」の原因や症状、治療法を歯科医が解説! 上手く食べられない・飲み込めなくなるのはなぜ?
食事中に「よくむせる」「上手に噛めない・飲み込めない」「食べこぼしが多い」と感じたことはありませんか? これらは”年のせい”と思われがちですが、早い時期に適切な治療や訓練をおこなえば改善できる可能性があります。今回は高齢者に多い「摂食嚥下(せっしょくえんげ)障害」について、原因や症状、治療法などを「藤井歯科医院」の藤井先生に解説していただきました。
監修歯科医師:
藤井 隆彦(藤井歯科医院)
目次 -INDEX-
「摂食嚥下障害」とは? 具体的な症状や原因を歯科医が解説
編集部
摂食嚥下障害とは、どのような障害なのでしょうか?
藤井先生
摂食は「食べること」、嚥下は「飲み込む」ことで、食べ物をお口に入れてから噛む・飲み込むまでの流れが上手くできない状態のことを「摂食嚥下障害」と言います。近年、お口に関連する衰えを「オーラルフレイル」と呼んでいますが、摂食嚥下障害もこのオーラルフレイルの1つです。主に食事に関する衰えのことですが、食べられないことで全身の栄養状態や精神状態にも何らかの影響を及ぼすと考えられています。
編集部
摂食嚥下障害では、具体的にどのような症状が表れるのでしょうか?
藤井先生
摂食嚥下障害の症状は多岐に渡ります。「食べるとむせる」「食べ物を噛み潰しても飲み込めない」「飲み込んでも食べ物が口に残る」などが代表的な症状です。また、これらに関連して「食事に時間がかかる」「食べると疲れる」「食べられるものが限定される」といった兆候を示すこともあります。
編集部
摂食嚥下障害の原因に、どのようなものがありますか?
藤井先生
摂食嚥下障害は高齢者に多く、加齢による筋力や機能の衰えが主な原因です。また、神経疾患や筋肉の病気がきっかけで、摂食嚥下障害になることもあります。
編集部
摂食嚥下障害は若い人でも発症することはあるのでしょうか?
藤井先生
はい。摂食や嚥下に関わる筋力の低下は加齢によるものが多い一方、若い人でも筋力が弱いケースもあります。これは先天的な病気のほかに、生まれてからの環境や食生活(軟らかい食事が多い・硬いものを食べないなど)が要因となって、筋力に個人差が生じていると考えられます。したがって、年齢が若いからといって筋力があるとは限らず、潜在的に摂食嚥下障害を発症している若年者も少なくないようです。
摂食嚥下障害にはどんなリスクがある? 注意すべき「誤嚥性肺炎」との関係
編集部
摂食嚥下障害になると、どのようなリスクがありますか?
藤井先生
最も深刻なのは「誤嚥性肺炎」です。私たちが食事をするとき、誤嚥すると通常は反射的に咳をして気管に入り込んだ食べ物を吐き出します。しかし、摂食嚥下障害になるとその反射の力が弱くなり、食べ物や唾液に含まれる細菌が肺に到達し、肺炎を発症してしまうことがあります。とくに、高齢者の誤嚥性肺炎は重症化すると生命に危険が及ぶため、最大の警戒が必要です。
編集部
誤嚥性肺炎のほかに、考えられるリスクはありますか?
藤井先生
上手く食事ができないことにより、「低栄養」や「身体の機能低下」のリスクが高まります。加齢による筋力や機能の衰えは自然に起こる現象である一方、これらの衰えの中には適切な訓練や治療をおこなえば元の状態に戻せるケースもあります。年をとると体が衰えるのは「当たり前」「仕方がない」と思い込みがちですが、決してそうではないということをぜひ知っていただきたいです。
編集部
「年のせい」という思い込みが、かえって衰えを進ませてしまうこともあるわけですね。
藤井先生
はい。まずは加齢による体の変化を自己判断で放置せず、その変化がどこに生じて、どの段階まで進んでいるのかを正しく評価することが肝心です。その評価から機能が落ちていると判定できる場合はそれを戻す訓練をする、歯が少ないのであればそれを補うなど対処すれば、衰えの進行を食い止めることができます。
摂食嚥下障害の診断・治療と口腔ケア、予防のポイント
編集部
歯科医院では摂食嚥下障害の患者さんに対して、どのようなことをおこなっているのでしょうか?
藤井先生
治療を始める前にオーラルフレイルに関する検査を実施し、現在の状態を評価します。具体的な検査項目に、舌圧や咬合圧の検査、咀嚼機能検査、患者さん向けの質問シートによる嚥下評価などがあります。舌圧や咬合圧、咀嚼機能については専用の機器を使って今の状態を数値化することが可能です。これらの数値を平均値と比較し、現在の状態がどのレベルにあるのか、どの機能が衰えているのかを判定していきます。
編集部
その評価の後、どのような治療をおこなうのでしょうか?
藤井先生
機能が低下したところに応じた訓練やトレーニング法を患者さんに提供して、それをご家庭でも実施していただきます。また、むし歯や歯周病、歯がないことが原因で噛めない場合は必要に応じて歯科治療をおこない、噛む機能を回復していきます。その後、定期的に再評価しながら機能の改善具合を診ていきます。
編集部
摂食嚥下障害の患者さんの口腔ケアや食事のポイントを教えてください。
藤井先生
セルフケアができる人はそれを徹底し、食後もできるだけお口をゆすいだり、洗口液でうがいをしたりして、口腔内を清潔に保つようにしてください。もし、セルフケアが上手にできない場合は、ご家族やヘルパーさんに協力してもらうと安全におこなえるでしょう。食事に関しては、食べ物の形態や性状を工夫して、その人にあったものを提供することで誤嚥を防ぐことができます。
編集部
摂食嚥下障害は予防できるのでしょうか?
藤井先生
予防できると思います。摂食嚥下障害については高齢になってからではなく、「50歳頃から口腔機能の検査を受けて、早めに対策をしましょう」というのが主流になってきています。また、繰り返しになりますが、加齢による衰えを当たり前・仕方がないと思わずに、歯医者さんで機能訓練を受けることも摂食嚥下障害の予防では非常に重要です。お口に何か変化が見られたら、口腔機能の検査や訓練を専門にしている歯医者さんを探して早めに相談していただきたいと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
藤井先生
摂食嚥下障害は食事の問題だけでなく、栄養状態や全身の健康にも影響を及ぼします。自身ではその自覚がなくても、今ある体の不調が摂食や嚥下の問題から生じていることも少なくありません。食べることは生きることに直結しているため、何か少しでもおかしいと感じたら、年齢に関係なく早めに歯科医院で検査・診断してもらいましょう。
編集部まとめ
食べ物が上手く食べられない・飲み込めない摂食嚥下障害は高齢者に多い一方で、近年は筋力の低い若年者にもみられることがわかりました。食事に関連するこの障害は、食べられないことにより低栄養や全身の健康状態にも影響を及ぼします。また、高齢者の場合は誤嚥性肺炎のリスクが高まるため注意が必要です。食べる・飲み込むという行為にこれまでにない変化を感じたら、「年のせい」と自己判断せず、早めに歯科医院で詳しい検査を受けましょう。
医院情報
所在地 | 〒753-0088 山口県山口市中河原町2-30 |
アクセス | JR「山口駅」 徒歩12分 |
診療科目 | 歯科 |