快適な総入れ歯(総義歯)作りのポイントとは? 「印象採得」「咬合採得」の重要性を歯科医が解説
「外れやすい」「噛みにくい」という悩みも多い総入れ歯。しかし、「なぜ外れるのか?」「なぜ噛めないのか?」という根本の原因を解明しないまま新しい入れ歯を作り直しても、同じ悩みを繰り返してしまうかもしれません。そこで外れにくく快適な総入れ歯を作るためのポイントを、植村歯科医院の植村先生に解説してもらいました。
監修歯科医師:
植村 晃一(植村歯科医院)
目次 -INDEX-
「総入れ歯」ってどんな入れ歯?どうやってくっついて外れなくなるの?
編集部
「総入れ歯」はどのような入れ歯なのでしょうか?
植村先生
総入れ歯は自身の歯が1本も残っていない、あるいは残っていても歯根(根っこ)の部分しかない方が使用する入れ歯です。「床(しょう)」と呼ばれるピンク色の土台と人工歯で構成されます。
編集部
歯が1本もない状態で入れ歯が固定できるイメージがわかないのですが、総入れ歯はどのように歯ぐきにくっついているのでしょうか?
植村先生
例えば、ガラスとガラスの間に水が入り込むと2枚のガラスはピタッとくっついて取れなくなります。総入れ歯もこれと同じように、粘膜と入れ歯の間に唾液が入り込むことでお口にピタッとくっつくことができるわけです。総入れ歯はこのような吸着による固定のほかに、近年は磁石やインプラントを利用してお口に固定する入れ歯もあります。
編集部
CMでよくみかける「入れ歯安定剤」は使ったほうがいいのでしょうか?
植村先生
このあたりは誤解されている方も多いのですが、入れ歯安定剤はあくまで入れ歯が緩くなった時に一時的に使うもので、常時使うものではありません。入れ歯安定剤を長く使い続けると、あごの骨が痩せてしまい、かえって入れ歯が合わなくなるので注意が必要です。入れ歯安定剤と一口に言ってもその種類は様々なので、選び方や使い方を誤ってしまうと思わぬトラブルの原因になります。したがって、どうしても使いたい場合は、必ず歯科医の指導や紹介を受けてから使用するようにしてください。
ピタッと吸着する総入れ歯は「印象採得(型取り)」がカギ 総入れ歯作りの要となる印象採得とは?
編集部
入れ歯安定剤を使わず総入れ歯を入れると、すぐに外れてしまいそうなイメージがあります。
植村先生
先ほどの吸着のメカニズムで総入れ歯をピタッと安定させるためには、作製の過程で患者さんのお口の中を可能な限り精密に再現する必要があります。そこで重要となるのが、入れ歯作りの最初の過程である「印象採得(いんんしょうさいとく)」と呼ばれる作業です。この印象採得がうまくできるかどうかが、総入れ歯の安定を大きく左右します。
編集部
「印象採得」とはどのような作業なのでしょうか?
植村先生
いわゆる「型取り」のことです。歯科治療を受けたことのある人であれば、歯を削った後に「印象材」と呼ばれるピンク色の粘土のようなものをお口に入れられた経験が一度はあるでしょう。これが「印象採得」と呼ばれる作業で、歯科治療ではそこで採取した型に石こうを流し入れて歯型模型を作製し、その模型上で詰め物や被せ物を作成していきます。入れ歯もこれと同様の方法で作製していくのですが、総入れ歯の印象採得は通常の型取りよりも難易度が高く、熟練した技術が必要になります。
編集部
総入れ歯の印象採得(型取り)はどのあたりが難しいのでしょうか?
植村先生
例えば、歯は非常に硬いので印象材を強く押し付けても形が変わることはありません。しかし、柔らかい歯ぐきや粘膜は印象材をあまり強く押し付けてしまうと形が変わってしまうため、そこで誤差が生じてしまいます。また、一人の患者さんでも歯ぐきの場所によってそれぞれ硬さが違うため、このあたりを精密に再現するのは非常に難しい作業になります。さらに、総入れ歯の場合はお口周りの筋肉の形や動きも再現しなければならず、これらを過不足なく採取するためは高度な技術と細心の注意が必要です。
編集部
そのほかに、総入れ歯の印象採得で注意されている点はありますか?
植村先生
型取りに使う「印象材」にもいくつかのタイプがあり、さらに温度などによっても性状が変わってくるため、材料の特性をよく理解しておくことが重要です。また、歯ぐきや粘膜の形、硬さは患者さんによって大きく異なるため、お口の状態に応じて印象材を使いこなしていくのも歯科医の腕の見せどころだと思います。
まだまだある! 快適な総入れ歯を作るために重要なこと
編集部
総入れ歯を作るにあたって、ほかにも重要なポイントはありますか?
植村先生
印章採得と同じく、重要かつ難しいのが「咬合採得(こうごうさいとく)」という工程です。この工程がうまくできないと、噛めない・使えない入れ歯になってしまいます。
編集部
「咬合採得」とは何をする作業なのでしょうか?
植村先生
簡単にいうと、患者さんがどこで噛んでいるのか、噛み合わせのポイントを探っていく作業です。総入れ歯の方は歯が1本もないため、本来どこで噛んでいたのかが判別できません。また、患者さん自身も歯が1本抜け、2本抜けとしているうちに、自分がどこで噛んでいたかがわからなくなっています。そこで、お顔や歯ぐきの形を参考にしながら「ここであろう」という噛み合わせのポイントを探し当て、噛み合わせの高さや位置を決めていくのが咬合採得という作業になります。
編集部
このような工程を経て快適な入れ歯を作ってもらえる歯科医院を見つけるには、どのような点に注意したらよいでしょうか?
植村先生
最初に来院した時に、現在使っている入れ歯がどうして噛めないのか、なぜ使えないのかをきちんと評価し、説明してくれるかが大きなポイントです。総入れ歯は一見するとどれも同じような形に見えますが、粘膜の形や骨の減り具合によって作製の難易度が異なります。その難易度を知るうえでも、今お使いの入れ歯を評価することは非常に重要です。そのような評価をしたうえで新しい入れ歯を作ってくれる歯科医院をぜひ見つけてください。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
植村先生
総入れ歯は「食べる」「話す」など生活の根幹にかかわるものですので、快適に仕上げるためにはそれ相応の手間ひまがかかることをご理解いただければと思います。それをふまえたうえで、自身のお口の中が今どのような状態にあるのかをしっかり診てくれる歯科医院を探していきましょう。
編集部まとめ
快適に使える入れ歯を作るうえでは「印象採得(型取り)」や「咬合採得」などの過程で熟練した技術が必要なことがわかりました。とくに、歯が1本も残っていないお口の中に吸着させる総入れ歯は、印象採得(型取り)の精度をいかに高めるかが重要なようです。入れ歯が合わない・外れるなどのお悩みのある方は、現在お使いの入れ歯のどこに問題があるのか、歯医者さんで詳しくチェックしてもらいましょう。
医院情報
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