糖尿病・糖尿病予備軍に必要な口腔ケアとは? 気になる歯周病との関連などを歯科医が解説
糖尿病で血糖値が高くなると口内環境も変化し、歯周病やむし歯、口臭といったトラブルも多くなるようです。とくに歯周病については、糖尿病で注意したい「神経障害」「腎症」「網膜症」の3大合併症、「心疾患」「脳卒中」に次いで第6の合併症に名を連ねています。そこで今回は、糖尿病・糖尿病予備軍に必要な口腔ケアの方法や食生活での注意点などを、「いちやま歯科」の一山先生にお聞きしました。
監修歯科医師:
一山 茂樹(いちやま歯科)
糖尿病・糖尿病予備群になるとお口の中はどう変わる?
編集部
糖尿病になると、お口の中の環境もこれまでとは違う変化がみられるのでしょうか?
一山先生
糖尿病になったからといって、すぐに何かが変わるというわけではありません。ただし、今までは何ともなかったのに、だんだんと歯ぐきが腫れぼったくなったり、出血しやすくなったりするといった症状が出てくることがあります。そういうことが続いていく中で、知らず知らずのうちに歯周病が悪化してしまうケースも少なくありません。
編集部
糖尿病でそのような変化が起こる要因に、どのようなことが考えられますか?
一山先生
糖尿病で血糖値が高くなると、唾液をつくる「唾液腺」の働きが悪くなってお口の中が乾きやすくなることが要因の1つに考えられます。唾液には口内の食べカスや細菌を洗い流す作用がありますが、唾液が少なくなるとこの自浄作用がうまく働かなくなるので、プラークや歯石がつきやすくなります。そのため、自分では毎日きちんと磨いているつもりでも「何となく変だな」ということが起こるわけです。
編集部
糖尿病や糖尿病予備軍はまず「お口の乾燥」に注意が必要ということですね。
一山先生
そうですね。唾液には自浄作用のほかにも歯をむし歯菌から守る作用がありますから、唾液が少なくなるとむし歯になるリスクも高くなります。加えて、「口臭が強くなる」「口内炎ができやすくなる」なども要注意です。ただし、このような変化は急に起こるというより徐々に起こっていきます。したがって、自身が糖尿病または糖尿病予備軍という自覚のある人は、お口のちょっとした変化にも注意していただきたいですね。
糖尿病・糖尿病予備軍が「歯周病」に気をつけたい理由
編集部
糖尿病とお口の健康については「歯周病」がよく話題になりますが、この2つの病気にはどのような関連があるのでしょうか?
一山先生
糖尿病と歯周病はかねてより「行ったり来たりの関係」、つまり互いが互いの病気の進行や悪化に深く関わることが指摘されています。血糖値が高くなると唾液の分泌が悪くなることに加えて、細菌に対する抵抗力も弱くなることから、糖尿病の人は糖尿病でない人よりも歯周病になりやすい傾向があります。
編集部
「行ったり来たりの関係」ということは、歯周病の進行が糖尿病に影響を与えることもあるのでしょうか?
一山先生
※糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン2014
https://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_diabetes.pdf
編集部
糖尿病の人が歯周病予防に取り組むことは、お口の健康だけでなく血糖のコントロールにも良い影響があるわけですね。
一山先生
そうですね。歯周病は糖尿病の発症だけでなく、心疾患や脳卒中などほかの全身疾患との関連も近年は指摘されています。したがって、糖尿病・糖尿病予備軍の人に限らず、日々のケアを徹底しながら歯周病の予防に努めていただきたいと思います。
歯科医師がおすすめする糖尿病患者さんの口腔ケア
編集部
糖尿病の人は普段のケアでどのようなことを心がけたらいいでしょうか?
一山先生
「歯磨き」「食生活」「生活習慣」の3つが大きな意味での口腔ケアですので覚えておいてください。まずは自分でできる口腔ケアとして、「1日2回ないし3回のブラッシング(歯磨き)」は基本として抑えておきましょう。ただし、歯磨きも自己流でおこなうのではなく、自分に合う歯ブラシや磨き方を歯科医院で教えてもらい、その方法を身につけることが重要です。また、食生活や生活習慣についてもプロの指導を受けることをおすすめします。
編集部
「食生活」について、具体的に気をつけるべき点を教えてください。
一山先生
糖尿病になると唾液の量が少なくなる傾向があるので、とにかく「よく噛んで唾液を出すこと」を心がけましょう。そのためには「調理の工夫」も大切です。例えば、食材を小さくカットしないこと、お肉もミンチにしないことで、食材にある程度大きさをもたせると、自ずとしっかり噛むようになります。加えて、食卓に汁物やスープ以外の飲み物を置かないこともおすすめです。
編集部
お茶やお水はできる限り「食後に」ということですね。
一山先生
はい。食事中にお茶やお水を一緒にとると、噛まないでそのまま飲みこんでしまうことが多くなります。これは小さなお子さんの食事でも注意していただきたいですね。
編集部
お口の乾燥対策(唾液を出す方法)で、ほかに有効な方法はありますか?
一山先生
歯科医院では「あいうべ体操」「鼻呼吸を意識する(鼻テープ)」「唾液腺のマッサージ」「舌の機能運動」「吹き戻し(ピロピロ)」などの口腔機能訓練をおこなっていますので、ぜひ一度指導を受けてご家庭で実践していただきたいと思います。また、これらの訓練は、誤嚥にも非常に効果があります。
編集部
そのほかに、お口の健康を維持するうえで心がけたいことはありますか?
一山先生
3カ月に一度ぐらいのペースで歯科医院のメインテナンスを受け、普段のケアでは落としきれない汚れを徹底的に除去することも重要です。お口の健康は毎日のセルフケアと、定期的なプロフェッショナルケアの両軸で成り立つといっても過言ではありません。先述したブラッシング指導や食生活・生活習慣の指導とあわせて定期的なメインテナンスを習慣づけましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
一山先生
かつては「自分の歯を守るため」におこなわれてきた口腔ケアですが、近年はむし歯・歯周病を予防すると様々な病気のリスクを下げることが明らかになってきました。糖尿病・糖尿病予備軍に限らず、お口のケアは全身の健康に良い作用をもたらします。ぜひこの記事をきっかけに、多くの人に口腔ケアの重要性を知っていただきたいと思います。
編集部まとめ
糖尿病で血糖値が高くなると「唾液の量が減る(お口が乾きやすくなる)」「細菌に感染しやすくなる」などの変化が生じてきます。これにより、むし歯や歯周病、口臭のリスクが高くなるため、お口に少しでも異変を感じたら早めの受診が肝心です。また、口腔ケアは毎日の歯磨きにくわえ、食生活や生活習慣の改善も重要な要素となります。今の自分にあったブラッシング法や食事の方法なども歯科医院でアドバイスしてもらいましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |