糖尿病は歯周病を悪化させやすく、歯周病は糖尿病を悪化させやすい
糖尿病にはさまざまな合併症がありますが、糖尿病の人は歯周病が悪化しやすいという事実をご存知ですか? 反対に、歯周病の人は糖尿病を悪化させやすいこともわかっており、両者の関係性に注目が集まっています。一体なぜ、歯周病と糖尿病にはつながりがあるのでしょうか。阿部歯科医院の阿部先生に教えていただきました。
監修歯科医師:
阿部 健一郎(阿部歯科医院 副院長)
2008年大阪歯科大学卒業、大阪歯科大学附属病院臨床研修医修了。2009年大阪歯科大学附属病院歯周治療科医員、牧草歯科医院勤務。その後、森田歯科医院、しおみ歯科クリニックなどを経て2014年4月阿部歯科医院副院長就任。日本歯周病学会、日本歯周病学会専門医、日本口腔インプラント学会専門医養成講座終了、大阪歯科大学歯周治療科非常勤研修医。大学を卒業後1年目から大学病院で歯周病治療を学び、日本歯周病学会認定の専門研修施設に勤務していた経験を生かし、歯周病をはじめ、さまざまな口腔内のトラブルに精通し、「行ってよかった」と言われる歯科医院をめざす。
糖尿病と歯周病にはつながりがある?
編集部
糖尿病と歯周病には深い関係があるって、本当ですか?
阿部先生
本当です。糖尿病と歯周病の間には相関関係があり、糖尿病の人は歯周病になりやすいです。また、歯周病の人は血糖コントロールが難しくなって、糖尿病になりやすいことがわかっています。
編集部
なぜ、そのような相関関係があるのですか?
阿部先生
糖尿病になると、血液の中に糖が多く含まれるようになります。こうした状態を「高血糖」といいますが、高血糖の状態が続くと炎症性サイトカインという物質が体内で多く放出されてしまうためです。
編集部
炎症性サイトカインとはなんですか?
阿部先生
炎症性サイトカインとは、体内で炎症を誘発する物質のことです。これが多く放出されると体内のあちこちで炎症が起こり、免疫機能が低下して、さまざまな感染症にかかりやすくなります。その結果、歯周病になりやすいと考えられています。
編集部
なぜ、免疫機能が低下すると歯周病になりやすいのですか?
阿部先生
歯周病は歯周病菌による感染症だからです。口の中が不潔な状態になると菌が繁殖して、歯肉炎になり、続いて歯周病へ進んでしまうのです。
歯周病が糖尿病を悪化させる?
編集部
それでは反対に、歯周病が糖尿病を悪化させるのはなぜでしょうか?
阿部先生
歯ぐきが歯周病の菌に感染すると、炎症性のサイトカインが活発に分泌されます。このサイトカインがインスリンの働きを低下させてしまうため、細胞内に糖分が取り込まれるのを阻害され、血糖値が上昇してしまうのです。
編集部
ここでも炎症反応が起きているのですね。
阿部先生
それに加えて、歯周病の菌が口の中で毒素を放出してしまうということも理由として挙げられます。毒素が血液に乗って全身を巡ると、インスリンの働きが低下します。それにより、血糖値が上がってしまうのです。
編集部
歯周病と糖尿病には深い関わりがあるのですね。
阿部先生
そもそも糖尿病には1型と2型があります。1型とは主に自己免疫によって起こる病気です。2型とは、肥満や生活習慣の乱れなどが原因となって血糖値の高い状態が続く病気です。歯周病との関わりが指摘されているのは、2型糖尿病になります。
編集部
2型糖尿病の人は血糖値だけでなく、歯周病にも注意しなければならないのですね。
阿部先生
一般に、糖尿病には網膜症、腎症、神経障害などの合併症を引き起こすことで知られていますが、近年では、この歯周病も糖尿病の合併症のひとつとされています。それくらい、糖尿病の患者さんは歯周病になりやすく、また、歯周病になると血糖のコントロールが悪くなるのです。
歯周病を治療すると糖尿病も良くなる?
編集部
糖尿病と歯周病が、それぞれの原因になっているということは、どちらかを治療すればもう一方も良くなるということでしょうか?
阿部先生
そうです。最近の研究により、血糖値を改善すると歯周病が改善し、また、歯周病を治療すると血糖値が改善することがわかっています。
編集部
現在、糖尿病の人はまず、歯周病をチェックする必要がありそうですね。
阿部先生
糖尿病も歯周病も、ほとんど自覚症状がないまま進行していく病気です。だからこそ、早期発見、早期治療が大切なのです。糖尿病というと血糖値にばかり注目しがちですが、口の中を衛生に保つことも忘れてはいけません。
編集部
確かに、血糖値ばかりに注目しがちです。
阿部先生
当院でも、歯の定期検診で歯周病が見つかった方の血糖値を測定した結果、糖尿病を早期に発見できたというケースもあります。反対に、「歯周病があるかチェックしてほしい」と、内科の医師から糖尿病の患者さんをご紹介いただくこともあります。近年ではこうした医科歯科連携が増えており、糖尿病の早期発見、早期治療につなげています。
編集部
歯科検診で糖尿病に気づくこともあるのですね。
阿部先生
初期の糖尿病は患者さんに自覚症状はありませんから、歯科医院で血糖値を測定して驚いたという方も少なくありません。しかし、糖尿病は初期のうちに発見できれば、生活習慣の改善や運動習慣の定着などで治療することも可能です。特に35歳以上で歯周病の発症率は高まるので、その年代の方は定期的に歯科医院を受診し、歯周病のチェックをしてもらうことをおすすめします。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
阿部先生
「病院は体調が悪くなってから行くところ」というイメージを持っている方も多いと思いますが、「病院は、病気にならないように、定期的に検診を受けるために行くところ」という側面もあります。歯科医院も同様で、「歯が痛くなったら歯科医院へ行く」のではなく、ぜひ定期的に検診を受けて、口腔内に問題がないかチェックしていただきたいと思います。最近では、血糖値をその場で測定してくれる歯科医院も増えていて、歯周病と糖尿病を同時に発見できたということも少なくありません。少なくとも3〜4か月に一度は歯科医院で口腔内をチェックしてもらい、歯周病やむし歯を確認してもらうことをおすすめします。
編集部まとめ
体温や血圧は自宅で測定する習慣がある人も多く、日常的なものですが、血糖値は調べたことがない、という人も多いのではないでしょうか。しかし、糖尿病はひどくなれば、一生付き合っていかなければならない病気ですし、悪化すれば人工透析が必要になったり、命のリスクになったりすることもあります。ぜひ早期発見のためにも、歯科で口腔内の検査をすることも視野に入れてみましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科、矯正歯科、小児歯科、口腔外科 |