歯髄炎の症状とは?歯髄炎の原因やセルフチェック方法、歯科医院での治療方法を解説

歯髄炎の症状は、急性の場合や慢性の場合などでも異なります。この記事においては、歯髄炎の症状がどのようなものであるのかや、診断の方法、そして治療法などについて解説していきます。
歯髄炎にお悩みの方や、予防したい方など、この記事を治療や予防のためのケアにお役立てください。

監修歯科医師:
松浦 京之介(歯科医師)
目次 -INDEX-
歯髄炎の基礎知識

歯髄炎とは、歯の内部にある歯髄という組織に炎症が生じている状態です。歯髄は歯の神経や血管などが集まった組織で、エナメル質や象牙質といった歯の組織に守られています。
まずは、歯髄炎の種類や症状、歯科医院での診断方法、そしてセルフチェック方法などについて解説します。
可逆性歯髄炎と不可逆性歯髄炎
歯髄炎は、炎症の程度などによって可逆性歯髄炎と不可逆性歯髄炎という二つの種類にわけることができます。
可逆性歯髄炎は症状が軽い状態の歯髄炎で、可逆性とはもとに戻すことができるという意味です。可逆性歯髄炎は、むし歯の治療など、歯髄炎を生じさせる原因を取り除くことで、歯髄を炎症が生じる前の状態に戻せる段階です。可逆性歯髄炎の症状としては、冷たいものや甘いものがシミるといった軽度の痛みがあるものの、持続的な強い痛みなどはありません。
一方の不可逆性歯髄炎は、治療によってもとに戻すことができない状態の歯髄炎です。むし歯の治療などによって刺激を取り除いても、歯髄自体の炎症が治らないため、痛みが続いてしまいやすく、歯髄を除去する抜髄が必要となる可能性が高い症状です。
可逆性歯髄炎の状態を放置したり、歯髄に刺激を与えるむし歯を放置したりといったように、適切な治療を行わずに症状が進行すると不可逆性歯髄炎になるため、早めに適切な治療を受けることが大切です。
歯髄炎の症状
歯髄炎には、急性症状と呼ばれるものと、慢性症状と呼ばれる症状があります。それぞれの特徴を紹介します。
急性症状
急性症状とは、急激に病気が進行している状態での症状で、歯髄炎の場合は急に痛みが出てきて、強くなっていく症状が該当します。
歯髄炎はむし歯の進行などによって歯髄が外部からの刺激を受け、それにより炎症が生じる病気です。歯髄は神経や血管が集まった組織であるため、刺激を受けると強い痛みを感じます。
急性と呼ばれる歯髄炎には急性単純性歯髄炎と急性化膿性歯髄炎があり、急性単純性歯髄炎は象牙質への刺激が歯髄に伝わって痛みなどを引き起こす症状です。冷たいものなどをお口に含んだ際にシミるような痛みが引き起こされ、知覚過敏のような状態になります。
むし歯が歯髄部分に到達して、直接歯髄が刺激を受けて炎症する状態は急性化膿性歯髄炎と呼ばれ、何もしていなくても強い痛みが続くようになり、場合によっては寝ることができないなどの問題にもつながります。
慢性症状
慢性症状とは、病気の進行がゆっくりであり、鈍痛が続くような状態です。歯髄炎における慢性症状は、主に急性症状が進行して歯髄の細胞が死滅し、痛みはなくなったものの、細菌の感染は残っているという状態です。
神経が死んでいるため痛みはありませんが、炎症によって作られた膿が歯の根の先に蓄積され、歯茎を内部から圧迫することで急性根尖性歯周炎となり、強い痛みが現れる場合もあります。
むし歯による痛みが落ち着いていたとしても、歯髄炎は慢性症状として残っているため、適切な治療が必要です。
歯髄炎の診断方法
歯髄炎の診断は、いつ頃から痛みが現れたかなどを確認する問診に始まり、むし歯の状態を歯科医師が直接見て確認する視診や、X線撮影で炎症の範囲を確認する検査、歯髄の細胞が生きているかどうかを確認する歯髄電気診などで行われます。
急性単純性歯髄炎のように持続的な痛みにまでは発展していない場合、冷たいものや温かいもので痛みを感じるかを調べる温度診などが行われる場合もあります。
歯髄炎のセルフチェック方法
歯髄炎は、基本的に痛みを伴う症状です。持続的に特定の歯が痛いのであれば、まず歯髄炎と考えてよいでしょう。
一方で、持続的ではないものの、冷たいものや熱いもの、甘いものなどを食べると痛いという場合は、知覚過敏や精神的な影響である可能性も考えられます。歯髄炎の場合は物理的な刺激で痛みを感じやすくなるため、歯を軽く叩くと響くような痛みがあるという場合は、歯髄炎を疑ってよいといえるでしょう。
ただし、いずれにしても歯に痛みがあるような状態は放置するべきではなく、早期に原因を診断し、適切な治療を行うことが歯の健康を維持するためのポイントとなりますので、まずはできる限り早く歯科医院を受診するようにしましょう。
歯髄炎を放置していると痛みが消えるというのは本当?

歯髄炎を放置していると、歯髄の細胞が死滅することで、痛みを感じなくなる可能性があります。ただし、これは歯髄炎が治ったわけではなく、急性症状から慢性症状に移行しているだけであり、歯の病気そのものは進行を続けています。
慢性症状を放置していると、歯の根の先が溶かされたり、膿がたまって痛みを生じたりする根尖性歯周炎など、さまざまなトラブルの原因になるため、早めに適切な治療が必要であるという点は変わりません。
場合によっては、細菌が血液中に入り込んでしまい、敗血症や感染性心内膜炎という心臓疾患につながる可能性もあります。
歯髄炎の原因

歯髄炎は、以下のような原因で引き起こされます。
むし歯
歯髄炎を引き起こす要因として特に多いのは、むし歯の進行によるものです。
むし歯はお口の中にいる細菌が作り出す酸などによって歯が溶かされていく病気で、最初は歯の表面部分であるエナメル質を溶かし、その後は象牙質、歯髄へと感染を拡大していきます。
象牙質までむし歯が到達した段階で、急性単純性歯髄炎が生じる可能性があり、象牙質を通貨して歯髄にまで到達すると、急性化膿性歯髄炎になる可能性が高まります。
歯周病
歯周病は、お口の中にいる細菌が歯と歯茎の間にある歯周ポケット内に侵入し、細菌が作り出す毒素などによって、歯茎が炎症をおこしたり、顎の骨が溶かされたりする病気です。
歯周病は痛みなどの自覚症状がないまま進行することが多く、気が付いたら歯槽骨が溶かされてしまい、歯茎が下がったり、歯がグラグラしたりといった状態になりやすい疾患です。
自覚症状がないことが一般的な歯周病ですが、重度の歯周病の場合、歯周ポケットの深くに入り込んだ細菌が歯髄に到達することで、歯髄炎を引き起こして強い痛みにつながるケースがあります。
外傷
事故などによって外部から歯に強い衝撃を受けた場合、その衝撃によって歯髄が傷つき、歯髄炎を引き起こしてしまう場合があります。直後には見た目に変化がないような場合も多く、外傷からしばらくして歯が黒く変色するなどで、歯髄が死んでいることに気が付く場合もあります。
放置していると根尖性歯周炎などにつながり、場合によっては抜歯などが必要になる可能性もありますので、早めに歯科医院を受診して、歯を残せるように治療を受けましょう。
歯ぎしりや食いしばりなどの負担
歯ぎしりや食いしばりは精神的なストレスなどによって生じやすい癖ですが、強くかみしめる行為によって歯に大きな負担がかかり、これが歯髄炎を引き起こす要因となる可能性があります。
知覚過敏
知覚過敏は、歯のエナメル質が薄くなったり、歯茎の退縮によって冷たいものをお口に含んだ際などの刺激が神経に伝わりやすくなり、痛みが現れるものです。知覚過敏と歯髄炎は基本的に別物ですが、知覚過敏が続くと、歯髄が刺激を受けやすい状態が続くため、歯髄炎につながる可能性があります。
詰め物や薬品による刺激
歯の治療で取り付けた詰め物や、ホワイトニングの薬剤などが刺激となって、歯髄炎を引き起こす場合があります。
歯髄炎の治療方法

歯髄炎は、症状の進行状況などによって、選択可能な治療法が異なります。
歯髄を残す治療方法
歯髄炎ではあるものの、原因を取り除くことにより回復していく可能性が見込める可逆性歯髄炎の場合や、歯髄炎がまだ歯髄の一部までしか進行していない場合は、歯髄を残して治療が行える可能性があります。
歯髄を残す治療法には3つの種類があり、そもそもまだ歯髄にまでむし歯が到達していない場合は間接覆髄法と呼ばれる方法で、歯髄を露出させず、殺菌力のある詰め物などで細菌を除去する治療が行われます。
神経にまでむし歯が到達していても、歯髄炎が軽度であれば直接覆髄法と呼ばれる、殺菌力のある材料で歯髄を覆うことで、歯髄炎を改善する治療が可能な場合があります。
そして、歯髄の一部に感染が広がっていても、健康な神経は残し、感染している神経だけを取り除く断髄法と呼ばれる治療を行える可能性があります。
いずれにしても、健康な神経が残っていることが条件であり、神経が死んでしまっている場合は歯髄を残す治療が行えないので、早めの検査と治療が大切です。
歯髄を除去する治療方法(抜髄)
歯髄炎が進行し、健康な神経を残す治療が難しい場合は、歯髄を除去する抜髄が行われます。神経を除去することで歯髄炎による痛みを改善し、天然の歯そのものは残したまま、治療を行うことができます。
抜歯による治療
歯髄炎が進行して重度の根尖性歯周炎などの症状を引き起こし、顎の骨が溶かされたり、周囲の歯に悪影響を及ぼしたりしているような状況であれば、抜歯で歯を丸ごと除去する治療が選択される可能性があります。
抜歯をしてしまうと、入れ歯やブリッジ、インプラント治療などの方法で噛み合わせを補うしかなくなるため、できれば早めに治療をうけ、抜歯しないですむようにすることが、健康的なお口の状態を長期的に維持するための大切なポイントとなります。
歯髄炎の進行を予防するために

歯髄炎が進行して症状が悪化すると、強い痛みが引き起こされるほか、最終的には抜歯などの選択が必要になる可能性があります。
そうならないためにも、下記のような点に注意して、歯髄炎の進行を予防するようにしましょう。
セルフケアを丁寧に行う
歯髄炎の大半はむし歯によって生じるもので、むし歯はお口の中の細菌が作り出す成分によって進行していきます。毎食後の歯磨きをはじめとしたセルフケアを丁寧に行ってお口のなかを清潔に保つことで、むし歯の進行を予防し、歯髄炎のリスクを低減させることができます。
なるべく早く歯科医院を受診する
歯髄炎の進行を防ぐためには、原因となる歯髄への刺激を減らすことが重要です。むし歯をはじめさまざまな刺激が歯髄炎の原因となりますが、歯科医院を受診することで、原因に応じた適切なケアを受けることができます。
むし歯があれば早期に診断して治療が行えますし、知覚過敏などの場合はエナメル質の再石灰化を促進するフッ素塗布や、レーザー治療によるケアなどもありますので、何か気になることがあれば、まずは歯科医院を受診してみましょう。
定期的に歯科検診を受ける
歯科医院での定期的な歯科検診を受けるようにすると、歯髄炎をはじめとした歯のトラブルを早期に見つけ、素早く適切なケアを受けやすくなります。
歯髄炎だけではなく、専門的な歯のクリーニングで歯周病のケアなども期待できますので、数ヶ月に一度は歯科検診を受けてみてはいかがでしょうか。
お口の癖を見直して歯にかかる負担を減らす
歯ぎしりや食いしばりなど、歯に強い負担がかかっていると歯髄炎の症状につながりやすくなります。また、食事の際に同じ場所ばかりで噛んでいたり、爪を噛むといった癖があったりする方は、それも歯に余計な負担をかけて、歯髄炎を引き起こす要因となります。
まずは自分自身で歯に負担をかける癖がないかチェックしてみて、自分での判断が難しい場合は歯科医院で相談してみましょう。
歯髄炎の治療のポイント

歯髄炎の治療を受ける際には、下記のポイントに注意しておくと、よい治療を受けやすいといえるでしょう。
診療機器が揃った歯科医院で治療を受ける
歯髄炎が生じているようなむし歯には、一般的に根管治療と呼ばれる治療が行われます。根管治療は歯の内部の感染を徹底的に除去して、歯を抜かずに温存するための治療です。
ただし、根管治療は歯科診療のなかでも難易度が高いことが知られ、治療を受けても症状が再発してしまうというリスクがある治療法です。
根管治療の成功率を高めるための方法の一つが歯科用CTやマイクロスコープをはじめとした先進的な診療機器を活用することで、こうした診療機器を積極的に導入し、利用している歯科医院であれば、安心感のある歯髄炎の治療を受けやすいといえるでしょう。
経験豊富な歯科医師の治療を受ける
歯髄炎の治療は、しっかりと原因を見極め、症状に応じた適切な治療を行うことが大切です。適切な診断や治療のためにはやはり歯科医師の知識と技術力が重要であり、経験豊富な歯科医師の治療を受けることが、よりよい歯髄炎の治療を受けるためのポイントといえます。
自費診療を検討する
根管治療の成功率を高めるためには、マイクロスコープなどの先進的な診療機器を用いた治療が有効とご紹介しましたが、実はこうした先進的な診療機器は、一部の症例を除いて保険適用とならない可能性があります。
そのため、より精度の高い治療を希望する場合は、自費診療も含めて検討する必要があります。
まとめ

歯髄炎は、歯の痛みをはじめとした症状を引き起こす歯の疾患です。特に、歯髄にむし歯が到達した場合などには持続的な強い痛みが現れやすく、寝ることができないような痛みが続くこともあります。
歯髄にある神経の細胞が死滅すれば痛みは収まりますが、慢性症状は残っているため、放置しておくと根尖性歯周炎などの症状につながる場合があります。
歯髄炎は適切な治療を受けなければ根本的な改善が難しい症状なので、歯の痛みを感じたら、まずは早めに歯科医院を受診するようにしましょう。

