歯を抜かずに守る「根管治療」の重要性と治療成功のカギを歯科医師が解説

大切な歯を残す「最後の砦」ともいえる根管治療。近年は、マイクロスコープや歯科用CTなどの導入により、治療の精度が大きく向上し、これまで諦めていた歯でも保存できる可能性が高まっています。そこで、根管治療の重要性やメリット、さらに進化する治療技術について、亀戸とよむら総合歯科の村野先生に解説してもらいました。

監修歯科医師:
村野 浩気(亀戸とよむら総合歯科)
目次 -INDEX-
根管治療の基礎知識:治療の重要性とメリット

編集部
「根管治療」とは、どのような治療なのでしょうか?
村野先生
根管治療は、歯の内部にある「歯髄」や「根管」と呼ばれる組織に対して行う治療のことです。歯髄や根管には神経や血管が通っていますが、これらが何らかの原因で感染・炎症を起こすことがあります。その場合に、感染がさらに広がらないように予防したり、炎症を鎮めて症状を抑えたりすることを目的に治療を行います。
編集部
具体的に、どのような治療が行われるのでしょうか?
村野先生
根管治療には、大きくわけて「初回治療」と「再治療」の2つがあります。初回治療は一般に「歯の神経を抜く治療」と呼ばれるもので、大きなむし歯などで神経に細菌が感染した場合に行います。一方の再治療は、過去に根管治療を受けた歯に、再び炎症や症状が表れた場合に行う治療です。代表的な例に、炎症によって根の周囲の骨が溶ける「根尖性歯周炎」が挙げられます。このような歯に対して、改めて根管治療を行うのが再治療となります。
編集部
「歯の神経を抜く」という言葉はよく聞きますが、実際に何を行っているのでしょうか?
村野先生
「神経を抜く」という言葉は強烈な印象を受けるかもしれないですが、必ずしもすべての神経を除去するわけではありません。初回治療の本来の目的は、感染した神経のみをしっかり取り除いて症状を改善し、歯の健康を保つことにあります。したがって、まずは感染した部分を適切に取り除き、今後同じような感染を起こさないような処置をして、最終的にきちんと噛めるようにするのが治療の目的となります。
編集部
再治療はどのように行われますか?
村野先生
再治療の場合は、ほとんどのケースですでに被せ物や土台、充填物が入っているので、まずはこれらをすべて外します。そのうえで、前回の治療で治らなかった原因を顕微鏡などを使って特定し、細菌が感染した部分を確実に除去することで症状の改善を目指します。
編集部
根管治療を受けることで、患者さんにはどのようなメリットがありますか?
村野先生
一番わかりやすいメリットは、痛みや腫れなどの症状がある場合にそれらを改善できることです。また、かつてはむし歯が進行したり、根の周囲に炎症が起きたりした場合に抜歯が選択されることも多かったのですが、現在は適切に根管治療を行えば抜かずに済むケースが増えています。痛みや腫れから解放され、もう一度自分の歯で噛めるというのが、根管治療の大きなメリットといえます。
編集部
痛みや腫れなどの症状がない場合でも、根管治療を受けるメリットはあるのでしょうか?
村野先生
症状がない場合でもメリットはあります。日常生活に支障がなくても、気づかないところで炎症が進行して根の周囲の骨が溶けているケースは意外と少なくありません。そのまま放置すると、歯を支える骨が足りなくなり、最終的に歯を失う可能性が高くなります。そうなる前に根管治療で進行を食い止めて、歯の健康を保つことが非常に重要です。
根管治療のリスクと注意点:治療後の歯を長く維持するポイントは?

編集部
根管治療の重要性は理解できたのですが、一方で歯の神経を取ると以後、その歯は「枯れ木のようにもろくなる」と聞きます。これは本当でしょうか?
村野先生
「神経を取ると歯が栄養を失い、枯れ木のようにもろくなる」といった考えは一時期主流でしたが、現在ではその説は見直されています。最新の研究では、神経を取っても歯の成分や強度そのものは大きく変わらないことがわかっています。ただ、やはり神経を取った歯というのは、神経が残っている歯よりも寿命が平均的に短くなる傾向があるのは確かです。
編集部
神経を取ると、なぜ歯の寿命が短くなってしまうのでしょうか?
村野先生
寿命が短くなる要因の1つは、根管治療では少なからず歯を削る必要があるため、それによって歯が薄くなり、全体の強度が落ちて割れやすくなることです。また、神経を取ることで、歯の感度が鈍くなるのも寿命が短くなる要因となります。感度が落ちると強く噛んでもそれに気づきにくいため、結果的に歯に負荷がかかって、割れたりヒビが入ったりしやすくなります。
編集部
では、神経を取った歯の予後を良くするポイントを教えてください。
村野先生
根管治療は初回治療(神経を取る治療)をいかに精密に行うかが、予後を大きく左右するといっても過言ではありません。その点を念頭に、私たち根管治療の専門家は「いかに歯を削らずに、感染部分だけを的確に取り除くか」を重視しながら治療を行っています。したがって、初回の治療は根管治療を専門とする歯科医のもとで適切な治療を受けることが、歯の寿命を延ばす大きなポイントとなります。さらに、歯周病の状態や被せ物の精度も予後に影響しますので、そのあたりを含め、全体をマネジメントしてもらえる歯科医院で治療を受けることも重要なポイントといえるでしょう。
進化する根管治療:成功率を高める最先端技術とそのメリット

編集部
根管治療を成功に導くうえで必要なこと、患者さんができることは何ですか?
村野先生
根管治療は歯の内部の、外に通じていない部分に対する治療なので、むし歯や歯周病に比べるとドクターの技術に依存する部分が大きい治療と言われています。したがって、初回の治療でできるだけ成功率の高い条件下で治療を受けることが非常に重要です。具体例を挙げると、ラバーダムによる無菌的治療にくわえ、近年はマイクロスコープや歯科用CTなどの最先端技術を活用した治療も成功率を高める大きな要素となっています。
編集部
根管治療で活用されている最先端技術について、もう少し詳しく教えてください。
村野先生
「マイクロスコープ」「歯科用CT」「ニッケルチタンファイル」は、私たちにとっての”三種の神器”といえる機材です。これら3つの機材は精密な治療を行い、予後を良くするためには不可欠で、これがなければ予知性の高い治療は不可能と考えらえています。これにくわえ、近年は「MTA」と呼ばれるバイオセラミックスも注目されています。MTAは神経を残す治療にもよく使われる材料で、体の親和性が非常に高く、以前であったら抜歯になるケースでも、適切な治療によって歯を残せるようになっています。
編集部
マイクロスコープや歯科用CTなどの機材は、根管治療にどのような変化や進歩をもたらすのでしょうか?
村野先生
マイクロスコープの導入により、感染している部分だけを正確に確認しながら治療を行えるようになりました。また、歯科用CTを活用すると、治療前に根管の形状や感染部位を立体的に把握することができます。これにより、削る量を最小限に抑えながら、感染した部分だけを的確に削りとることが可能になるほか、治療期間の短縮にもつながります。
編集部
そのほかに、患者さんにとってのメリットはありますか?
村野先生
患者さんにとってもう1つのメリットは、治療の見通しを正確に立て、無駄な治療を減らせる点です。根管治療のなかには、どんなに的確な治療を行っても完治が難しいケースも少なくありません。このようなケースに対し、何度も何度も治療を繰り返すことは、患者さんにとって時間的にも肉体的にも大きな負担となってしまいます。このように治療をしても完治できないケースを、マイクロスコープや歯科用CTでいち早く見つけて、患者さんにしっかり説明することも非常に重要だと考えています。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
村野先生
私たち根管治療(歯内療法)の専門とする歯科医師は、患者さんの希望に寄り添いながら、歯を残すための治療に日々全力で取り組んでいます。歯を残すための治療は日々進歩していますので、お困りのことがありましたら、ぜひ私たちにご相談ください。根管治療を通して、皆さんが毎日の食事を楽しみ、健やかな生活を送れるようにサポートしていきたいと思います。
編集部まとめ
根管治療は、歯を守る最後の手段ともいえる重要な治療です。かつては抜歯が選択されていたケースでも、根管治療によって歯を残せる可能性が高くなります。一方で、神経を取った歯は神経のある歯に比べて寿命が短くなる傾向があり、とくに初回治療でいかに削らずに、精密な治療を行うかが予後を左右するようです。根管治療で不安なこと、お困りのことがあれば、根管治療(歯内療法)を専門とする歯科医に相談してみることをおすすめします。
医院情報
所在地 | 〒136-0071 東京都江東区亀戸2丁目21-5 亀戸ファーストスクエア2F |
アクセス | 「亀戸」駅北口より徒歩2分 |
診療科目 | 歯科、矯正歯科、小児歯科 |