監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
肥満症の概要
肥満症とは、単なる肥満とは異なり健康に悪影響をおよぼす状態で、治療を要するレベルの肥満である状態です。
日本肥満学会の基準では、BMIが25.0以上で、肥満による11種類の合併症のうち1つ以上当てはまる、または内臓脂肪が蓄積している場合に肥満症に該当します。
11種類の合併症には、高血圧や糖尿病、脂質異常症をはじめ、睡眠時無呼吸症候群や変形性関節症なども含まれています。
厚生労働省の令和元年国民健康・栄養調査では、BMIが25.0を越える20歳以上の男性が33.0%、女性が22.3%との報告があり、肥満は現代の大きな問題となっています。
(出典:厚生労働省「国民健康・栄養調査(令和元年)」)
肥満症は単に外見だけの問題ではなく、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心筋梗塞や脳卒中など、命にかかわる疾患につながる危険性があります。
肥満症の原因
肥満症の原因は、ファストフードのような高カロリーな食品の普及や運動習慣の減少など、現代社会における生活習慣の変化です。
消費エネルギーと摂取エネルギーのバランスが崩れ、体重増加が発生し肥満症となります。
過食を招くストレスや睡眠不足も、肥満症の一因です。
遺伝的な要因も関与しており、親が肥満の場合、子どもも肥満になりやすいことが知られています。
肥満症の原因はさまざまな問題が複雑に絡み合っているため、予防や治療には個々に応じたアプローチが重要です。
肥満症の前兆や初期症状について
肥満症の初期段階では、体重が増え続けたり、服のサイズが合わなくなったりすることがあります。
体重の増加により身体に負担がかかり、階段を上るときに息切れしたり、歩行や立ち仕事で足や腰に負担を感じたりすることがあるでしょう。
睡眠時無呼吸症候群の発症により、いびきをかいたり寝ても疲労感が残っていたりなど、睡眠の質の低下がみられることもあります。
すべての症状が必ずしも肥満症とつながっているとは限りませんが、複数当てはまる場合は注意が必要です。
早期発見や早期治療のため、症状を感じたら医療機関での相談をおすすめします。
肥満症の検査・診断
肥満症の診断は、BMIと肥満にともなう11種類の健康障害の有無、または内臓脂肪型肥満かどうかによっておこないます。
BMIとは、肥満や痩せの指標として用いられている指数で、[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出できるものです。
日本肥満学会の基準では、BMIが25.0以上で肥満と判定されます。
以下の項目は、肥満にともなう11種類の健康障害です。
- 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)
- 脂質異常症
- 高血圧
- 高尿酸血症・痛風
- 冠動脈疾患:心筋梗塞・狭心症
- 脳梗塞:脳血栓症・一過性脳虚血発作(TIA)
- 脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患/NAFLD)
- 月経異常、不妊
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)・肥満低換気症候群
- 運動器疾患:変形性関節症(膝、股関節)・変形性脊椎症、手指の変形性関節症
- 肥満関連腎臓病
内臓脂肪型肥満の判定には、腹囲測定の値を用います。
この場面でいう腹囲とは、ズボンの採寸をするウエストではなくへその位置を指し、男性では85cm以上、女性では90cm以上が基準です。
内臓脂肪型肥満は、皮下脂肪型肥満と比べて生活習慣病と強く関連しているため、注意を要します。
内臓脂肪とは、名前の通り内臓に付いている脂肪で、摂取したエネルギーの貯蔵庫となる重要な物質です。ただし、多すぎると高血圧や糖尿病、脂質異常症などを招くため、過剰な蓄積には注意しなければなりません。
これらの結果を総合的に判断して肥満症と診断します。
肥満症の治療
肥満症の治療は、以下の内容を組み合わせておこないます。
- 食事療法
- 運動療法
- 行動療法
- 薬物療法
- 外科的手術
食事療法や運動療法、行動療法を基本とし、患者の状況に応じて薬物療法や外科的手術を検討します。
肥満症患者で現体重の3%、高度肥満症患者で現体重の5〜10%の減量を目標とする必要があり、一時的な減量ではなく、健康的な生活習慣の獲得と維持が目標です。
食事療法
食事療法では、摂取カロリーを適切に制限しバランスの取れた食事を心がけましょう。
単純に摂取エネルギーを減らすのでなく、糖質は50〜60%、たんぱく質は15〜20%、脂質は20〜25%分を摂取するように調整します。
糖質制限による減量は短期では減量効果がみられますが、長期的にみると大きな差はみられません。
各栄養素をバランスよく摂取することが重要です。
運動療法
運動療法は、糖質や脂質をエネルギーとする有酸素運動が効果的です。
有酸素運動を開始して、20分頃から体脂肪が燃え始めるため、無理なく続けられる運動をおこなうことが大切です。
ウォーキングやサイクリング、エアロビクスダンスなどが有酸素運動にあたります。体力や疾患に応じて、医師と相談しながら適切な運動をおこないましょう。
行動療法
行動療法とは、患者に起きている問題を軽減するために患者本人と医療従事者が協力して、行動を改めるよう支える方法です。
肥満症の治療における行動療法では、まず、日常生活を振り返り、肥満になった問題行動について患者自身が考えます。
その後、肥満になった原因を患者本人がみつけ、自分でフィードバックをおこなって行動を修正するようにサポートしていきます。
具体的には、食事に関する質問票の記入や体重の記録、生活イベントの記録などを細かく実施します。
この方法により、患者自身は自分で行動を変え、生活の質を向上させることが期待できます。
薬物療法
肥満症における薬物療法は、まず一定期間は食事や運動療法といった非薬物療法に取り組み、それでも改善がみられなかった場合に検討します。
ただし、誰しもが薬物療法の対象となるわけではありません。
肥満にともなう健康障害が2つ以上あり、BMIが25以上、内臓脂肪面積が100cm²以上の人が対象となります。ただし現段階で日本で使用が認められている肥満症治療薬の種類は少ないのが現状です。
外科的手術
BMIが35.0を越える高度肥満症の場合、外科的手術による治療が認められています。
日本では18〜65歳で、半年以上の内科的治療によっても改善がみられないというのが条件です。
手術により物理的に胃が小さくなるだけでなく、ホルモン動態にも好影響をおよぼすため、治療による大きな効果が期待できるとされています。
肥満症になりやすい人・予防の方法
肥満症になりやすい人には、以下のような特徴があります。
- 摂取エネルギーが多すぎる人
- 運動不足の人
- 睡眠不足の人
- 遺伝的要因がある人
高カロリーな食事を好み、糖質や脂肪分の多い食事をする人は肥満症のリスクが高くなります。ストレスによるやけ食いをしてしまう人も、摂取エネルギーが過多になり、肥満症になりやすいといえるでしょう。
運動不足の人も肥満症になりやすい傾向にあり、以前と比べるとデスクワークが増えて、活動量が減少していることも肥満症の一因です。
また、睡眠不足も肥満症になるリスクがあります。
睡眠が不足していると、食欲を抑えるホルモンは減少し、食欲を高めるホルモンの分泌が亢進します。
さらに、親が肥満の場合、子どもも肥満になりやすいため、遺伝的な要因も肥満症になりやすい一因です。
これらをふまえて、予防方法として以下の点を心がけましょう。
- バランスのよい食事をしエネルギーの過剰摂取を避ける
- 運動を習慣付ける
- 睡眠時間を十分に確保する
- ストレスを発散する
- 定期的に健康診断を受ける
参考文献
- 厚生労働省「国民健康・栄養調査(令和元年)」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「BMI」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「メタボリックシンドロームの診断基準」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「メタボリックシンドロームを予防する食事・食生活」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「エアロビクス/有酸素性運動」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」
- 一般社団法人 日本肥満学会「あなたの肥満、治療が必要な「肥満症」かも!?」
- 前田法一 下村伊一郎 日本内科学会雑誌 第100巻 第4号「肥満症とアディポサイトカイン」
- 宮崎滋 日本内科学会雑誌 第107巻 第2号「肥満症診療ガイドライン2016」
- 和田淳 日本内科学会雑誌 第108巻 第3号「肥満症の病態と治療」
- 萩原謙 山下裕玄「肥満症診療ガイドライン2022の要旨と概説」
- 羽田裕亮 山内敏正 門脇孝「肥満症の薬物療法」