目次 -INDEX-

本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

プロフィールをもっと見る
群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

シェーグレン症候群の概要

シェーグレン症候群とは、自身の免疫によって唾液腺や涙腺が障害されてしまう自己免疫疾患です。1933年にスウェーデンのヘンリック・シェーグレン医師が発表した論文で周知され、日本では難病法に基づく指定難病となっています。男女比は約1:17で圧倒的に女性に多く、日本での患者数は約6万8000人です。シェーグレンの主な症状は、以下の3つに分類されます。
  • 乾燥
  • 全身病変
  • 血液疾患
それぞれの内容を解説します。

乾燥

シェーグレン症候群は、唾液腺や涙腺などの外分泌腺が自己免疫によって障害されて起こる乾燥が主な症状です。目の乾燥、口腔内の乾燥のほか、膣の乾燥により性交痛が生じる女性も少なくありません。肺や気道が乾燥して咳が出やすくなったり、風邪を引きやすくなったりするほか、間質性肺炎に進行する場合があります。シェーグレン症候群の患者さんのうち、乾燥症状のみがみられる方は約45%です。

全身病変

シェーグレン症候群の患者さんの約50%は、乾燥症状だけでなく全身のさまざまな臓器にも病変がみられます。異常に増殖した白血球が臓器に浸潤し、腎臓・肝臓・膵臓などが炎症を起こすことも少なくありません。また、関節炎や全身倦怠感などの症状もあり、患者さんの生活の質が大きく低下する場合もあります。

血液疾患

シェーグレン症候群の患者さんの約5%は、異常に増殖した白血球などによって血液疾患を合併します。血液のがんである悪性リンパ腫に進行する場合もあり、注意が必要です。耳下腺や唾液腺に白血球が浸潤すると、大きく腫脹して耳や顎の下が膨らみます。

シェーグレン症候群の原因

シェーグレン症候群を発症する原因は、いまだによくわかっていません。同じく自己免疫疾患であるリウマチの患者さんは、約20%がシェーグレン症候群も発症すると報告されています。 シェーグレン症候群の患者さんの家族が発症する確率は約2%といわれており、遺伝の影響もあると考えられています。

シェーグレン症候群の前兆や初期症状について

シェーグレン症候群は、目や口の乾燥によって症状を自覚することが多く、なかなか治らない乾燥症状がある場合には早めに眼科・耳鼻科・皮膚科などを受診しましょう。シェーグレン症候群を疑う主な初期症状は、以下の3つです。
  • ドライアイ
  • ドライマウス
  • 目・口以外の腺性病変 
それぞれの内容を解説します。

ドライアイ

涙液の減少により、目の乾き・ピントが合わない・コンタクトレンズが痛むなどの症状が代表的です。重度になると、目に入った異物を洗い流せないため、角膜や結膜が傷ついて視力が低下します。ドライアイの症状はまず眼科を受診し、シェーグレン症候群の疑いがあればリウマチ科に相談します。

ドライマウス

唾液の減少により、口腔内の乾き・口臭・ネバネバ感・味覚障害などが代表的です。唾液には殺菌作用もあるため、唾液が減少するとむし歯や歯周病のリスクが高まります。ドライマウスの症状はまず歯科を受診して、シェーグレン症候群の疑いがあればリウマチ科に相談します。

目・口以外の腺性病変 

鼻の乾燥によって鼻腔内にかさぶたができたり、気道が乾燥して喉が痛んだりなどの症状がでることも少なくありません。女性の場合は膣の乾燥による性交痛や、膣炎などにかかりやすくなります。鼻や喉の痛みは耳鼻咽喉科、膣の症状は婦人科を受診してください。

シェーグレン症候群の検査・診断

厚生労働省の診断基準では、以下の4つの項目のうち2項目を満たすと、シェーグレン症候群と診断されます。
  • 唾液腺・涙腺でリンパ球が多くみられる
  • 唾液の分泌低下が認められる
  • 涙液の分泌低下が認められる
  • 自己抗体検査が陽性である
それぞれの内容を解説します。

唾液腺・涙腺でリンパ球が多くみられる

下唇の裏側や上瞼の裏側から粘膜の細胞を採取し、顕微鏡検査などによってリンパ球の浸潤を確認します。リンパ球の異常な増殖と、唾液腺や涙腺への浸潤がある場合には、障害されている可能性が高くなります。

唾液の分泌低下が認められる

検査用のガムを10分間噛んで唾液の分泌量を測定する検査や、舌にレモン汁を落として唾液の分泌量を測定する検査などを行います。唾液の分泌量が正常値より少ない場合は、唾液腺の障害が疑われます。

涙液の分泌低下が認められる

涙腺に試験紙をあてて涙を浸透させ、試験紙のどこまで浸透するかで涙の分泌量を検査します。また、角膜を染色して涙腺が傷ついているかなどの検査も行います。

自己抗体検査が陽性である

血液検査によって、異常な自己抗体が産生されているかを確認します。自分の細胞を傷つけてしまう抗体を自己抗体といい、シェーグレン症候群ではSS-A抗体、抗SS-B抗体などの異常増殖が特徴的です。

シェーグレン症候群の治療

シェーグレン症候群の原因は遺伝的要因や環境要因、免疫異常、女性ホルモンの要因などが複雑に関連して発症すると考えられており、明確な原因は不明であるため、現状では根本的な治療方法がありません。症状を緩和する対症療法が基本となり、病気と長く付き合っていくことになるでしょう。シェーグレン症候群の主な症状に対しては、以下のような治療があります。
  • ドライアイに対する対症療法
  • ドライマウスに対する対症療法
  • 目・口以外の乾燥に対する対症療法
  • 神経の働きを高める薬
  • 免疫の働きを抑える薬
それぞれの内容を解説します。

ドライアイに対する対症療法

涙の補充には、人工涙液を用いた点眼薬を使用します。防腐剤の入った点眼薬は何度も使用すると角膜障害のリスクがあるため、防腐剤不使用の使い切り点眼薬が有効です。涙の分泌を促進する成分の入った点眼薬を使ったり、涙の排出口を塞いだりして、目が乾燥しない状態を保ちます。

ドライマウスに対する対症療法

唾液の分泌を促進する薬を服用したり、シュガーレスガムを噛んだりして唾液を増やします。唾液がでやすい食べ物としては、梅干しやレモンなどの酸っぱいものが有効といわれています。唾液が不足すると口腔内を洗い流す作用が低下するため、歯みがきや歯間ブラシで口腔内を清潔に保つことは、むし歯や歯周病の予防に極めて重要です。口腔内を保湿する人工唾液スプレーや、保湿ジェルなどを定期的に使用する場合もあります。

目・口以外の乾燥に対する対症療法

皮膚の乾燥に対しては、入浴の際に熱いお湯を避け、石鹸は使わずにシャワーで流すだけにします。乾燥症状がひどい場合には、保湿クリームなどを使用してください。膣の乾燥による性交痛に対しては、エストロゲン含有の潤滑クリームが婦人科で処方されます。

神経の働きを高める薬

シェーグレン症候群では、唾液腺や涙腺などの外分泌腺が破壊されるだけでなく、外分泌腺の働きを司る神経が障害されることも原因のひとつと考えられています。この神経の働きを高める薬により、乾燥症状が改善される場合があります。

免疫の働きを抑える薬

シェーグレン症候群は免疫の異常による自己免疫疾患であるため、免疫の働きを抑える薬によって症状が改善される場合があります。白血球による外分泌腺の破壊が進行している場合は、ステロイド薬などによって免疫を抑制します。

シェーグレン症候群になりやすい人・予防の方法

シェーグレン症候群の原因ははっきりわかっておらず、明確な予防法はありません。シェーグレン症候群の症状を緩和するために推奨される生活習慣は、外分泌腺や神経の働きを守るのに有効です。シェーグレン症候群の悪化や発症リスクを下げるためには、以下の生活習慣を心がけましょう。
  • 乾燥や空気の汚染に注意する
  • 口腔内を清潔に保つ
  • 食事・睡眠・運動のバランスの取れた生活
それぞれの内容を解説します。

乾燥や空気の汚染に注意する

シェーグレン症候群は、空気の乾燥や大気汚染によって粘膜がダメージを受けると症状が悪化します。航空機内など乾燥した環境に長時間滞在するときは、マスクや専用メガネなどでの保湿と、点眼薬などを活用しましょう。大気汚染やタバコの煙は、なるべく避けるようにしてください。

口腔内を清潔に保つ

毎日の歯みがきはもちろん、定期的な歯科検診でクリーニングを受けましょう。シェーグレン症候群では唾液の減少により口腔疾患のリスクが高まりますので、特に丁寧な口腔ケアが重要です。

食事・睡眠・運動のバランスの取れた生活

自己免疫疾患は、生活習慣の乱れによって発症・悪化する場合もあるといわれています。栄養バランスの取れた食事・十分な睡眠・定期的な運動などによって心身の調子を整えましょう。健康的な生活は免疫系の働きを正常化し、感染症の予防にも役立ちます。

関連する病気

この記事の監修医師