

監修医師:
大坂 貴史(医師)
目次 -INDEX-
常染色体優性多発性嚢胞腎の概要
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、腎臓に多数の嚢胞が形成され、時間の経過とともに腎機能が低下する進行性の遺伝性腎疾患です。親のいずれかが変異遺伝子を有している場合、子どもに50%の確率で遺伝します。嚢胞は腎臓以外にも肝臓、膵臓、脳血管などに形成されることがあります。
発症は通常30~40代以降で、初期には無症状のことが多いですが、腹痛、血尿、高血圧などがきっかけで発見されることがあります。画像検査に加えて、家族歴や他の嚢胞性疾患の除外をして診断します。
根治療法は存在せず、治療は腎機能低下の抑制が主目的です。高血圧の管理、水分摂取の推奨、嚢胞進展抑制薬であるトルバプタンの使用が進行予防に有効とされています。腎機能が末期に至れば透析や腎移植が必要となります。
発症予防はできませんが、家族歴のある人は遺伝子検査により発症リスクを予測できます。ただし、遺伝子検査は将来設計にも関わる重要な情報を含むため、実施には慎重な検討と十分なカウンセリングが求められます。
また、 ADPKDは2015年から指定難病になっています。腎機能が悪くなっている場合には特定医療費の補助を受けることができます。
常染色体優性多発性嚢胞腎の原因
常染色体優性多発性嚢胞腎 (Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease:ADPKD) は、腎臓に多数の嚢胞 (液体のたまった袋状の構造) が形成されることにより、徐々に腎機能が低下していく遺伝性の疾患です。主な原因は、PKD1遺伝子またはPKD2遺伝子の変異によるものです (参考文献 1) 。
報告による差はありますが、ADPKDに罹患している人は4000人に1人程度いるのではないかと考えられています (参考文献 2) 。
この病気は「常染色体優性遺伝」という形式で遺伝します。この遺伝形式では親のいずれかが原因遺伝子を有している場合、その子どもが病気を受け継ぐ確率は 50% です。そのため、家族内で複数の発症者が見られることが多くあります。嚢胞は腎臓にとどまらず、肝臓や膵臓、さらには脳血管にも形成されることがあります。
常染色体優性多発性嚢胞腎の前兆や初期症状について
ADPKDは多くの場合、若いうちはほとんど症状が現れず、多くの場合30~40歳代まで無症状で経過します (参考文献 2) 。最近では症状が出る前に健診や人間ドックで見つかることが多いようです。高血圧や蛋白尿、腎機能低下を指摘され、詳しく調べていると ADPKD が見つかるという流れです。
初発の症状で多いのは腹痛、腰背部痛、スポーツによる身体接触や外傷後の肉眼的血尿、腹部膨満です (参考文献 1, 2) 。
健診異常は ADPKD を早く見つけるチャンスです。また、初期症状の中で多いのは血尿と腹部・腰背部痛です。原因精査の画像検査で見つかることがありますので、こちらも放置しないでお近くの内科を受診してください。
常染色体優性多発性嚢胞腎の検査・診断
何らかの経過で腎臓に嚢胞があることが確認された後は、その腎嚢胞がADPKDによるものなのかを確かめていきます。ADPKDの診断基準にはいくつか項目がありますが、ポイントは血縁者内での発症の有無と画像評価で両方の腎臓に複数の嚢胞が確認されること、他の人嚢胞を作る疾患が除外されることです (参考文献 2) 。
またADPKDの重要な合併症に脳動脈瘤があります。脳動脈瘤はくも膜下出血の原因になるため、頭部の画像評価をする場合もあります。
常染色体優性多発性嚢胞腎の治療
ADPKDに対しては、根本的な治療法は現在のところ存在していません。そのため、治療の目的は「腎機能の低下をできるだけ遅らせること」にあります。
最も重要なのは、高血圧の管理です。血圧が高い状態が続くと腎臓への負担が増し、腎機能の悪化を早めてしまうため、アンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬 (ARB) などの薬剤によって、血圧を適切にコントロールすることが推奨されます (参考文献 2) 。
また、水分を多く摂取することも進行抑制に役立つ可能性があるとされています。これは、抗利尿ホルモンであるバソプレシンの分泌を抑えることで、嚢胞の増殖を抑制する効果が期待されているためです (参考文献 2) 。飲水がどの程度効果があるのか、どの程度の量の飲水が効果的なのかはまだ明らかになっていませんが、少なくとも喉が渇いたり脱水状態にならないように気を付けてください。
さらに、腎機能の低下が進行するリスクが特に高いと判断される患者には、「トルバプタン」の使用が検討されます。この薬剤は嚢胞の進展を抑える唯一の治療薬として承認されていますが、肝機能障害などの副作用リスクがあるため、定期的な血液検査が必要です (参考文献 1, 2) 。
腎機能が末期に至った場合には、血液透析や腎移植といった腎代替療法が必要となります。
常染色体優性多発性嚢胞腎になりやすい人・予防の方法
ADPKDは遺伝によって発症するため、両親のいずれかがADPKDである場合、その子どもは50%の確率で発症します。ADPKDの血縁者がいる場合、遺伝子検査をすればかなりの精度で将来の発症率を予測することができます。しかしながら、「私はADPKDの患者だ」と分かってしまうことで、将来設計に大きな影響があるでしょう。結婚や出産、就労といった人生の選択にも影響を及ぼす可能性があるため、慎重な検討が必要です。したがって、発症前診断をするかどうかは検査前後のカウンセリングが必要で、周囲の人の十分な理解も欠かせません。
血縁者に患者がいても、遺伝子検査をしないという選択もあります。
病気の特性上、発症予防をすることは難しいです。健診異常を放置しないで早めの受診をすることが重症化予防の観点では重要です。
参考文献




