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がん性リンパ管症
松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

がん性リンパ管症の概要

がん性リンパ管症とは、肺周辺のリンパ管に「進行したがんの一部」が入り込む病気です。がんが肺に転移する過程で発生する可能性があり、肺がんなどで起こりやすいことがわかっています。

がん性リンパ管症を発症すると、がん細胞がリンパ管の中に広がることで、肺がうまく酸素を取り込めなくなり、咳や息切れといった症状が現れます。症状は急速に悪化するケースが多く、予後が厳しい病態として知られています。

がん性リンパ管症は、画像検査や肺の細胞を調べる検査、原発となるがんの種類や進行度など、多角的な情報をもとに診断されます。

治療としては、がんそのものへの薬物療法のほか、呼吸のつらさを和らげる緩和ケアが中心になります。現在のところ、がん性リンパ管症を根本的に治す方法は確立されておらず、早期のがん発見と適切な治療によって、リスクをできるだけ減らすことが発症予防につながります。
がん性リンパ管症は、人にうつる病気ではなく、健康な方が突然かかる病気でもありません。発症リスクについてはがんとの関係性を正しく理解することが重要です。

がん性リンパ管症の原因

がん性リンパ管症は、体内のがんが肺に転移する際などに、がん細胞が肺のリンパ管内に入り込み発生します。主に末期がんの段階で生じ、進行した肺がん、乳がん、胃がんなどで発生しやすいとされます。がん細胞が血流によって肺に運ばれリンパ管に直接入り込んだり、肺門(肺の付け根)にあるリンパ節で増殖したがんがリンパ管内へ逆流したりすることで生じると考えられています。
がん性リンパ管症はがんが引き起こす合併症であり、通常は単独で発症することはありません。

がん性リンパ管症の前兆や初期症状について

がん性リンパ管症では、肺のリンパの流れが徐々に妨げられていくにつれて、動いたときの息苦しさが現れ始めます。初めは階段を上ると息が切れる程度でも、病状が進行すると安静にしていても息苦しくなります。進行が早い場合は、数週間から数か月という短期間で急激に呼吸困難が悪化します。また、痰の絡まない乾いた咳が長く続くほか、片側の胸に痛みを感じる患者さんもいます。

全身の倦怠感(だるさ)や食欲不振、発熱などの症状が現れることがあり、病状の進行とともに体重の減少も見られます。
呼吸が苦しい状態は横になって休んでも改善せず、着替えや歩行といった日常生活の基本的な動作にも支障をきたすようになります。

がん性リンパ管症の検査・診断

がん性リンパ管症の診断では、画像検査や気管支鏡検査、血液検査が行われます。すでにがんと診断されている患者さんの場合は、これまでの症状の変化、がんの種類や進行の状況など、複数の検査と臨床経過を踏まえて診断されます。

画像検査

胸部レントゲン検査では、肺全体にかすんだような影が広がって見えることがあります。線のような影や粒が集まったような影が写る場合もありますが、初期の段階ではほとんど目立たず、肺炎など他の病気と区別がつきにくい特徴があります。
胸部CT検査では肺の内部構造を細かく見ることができ、がん性リンパ管症の特徴的な「網目状の陰影」などが映し出されることがあります。これは、がん細胞が肺のリンパ管に広がっているサインですが、間質性肺炎など似た症状の病気でも同じような所見が出るため、CTだけで診断を確定するのは困難なケースも多いとされます。

気管支鏡検査

正確な診断を行うために、肺の細胞を直接調べる「気管支鏡検査」が行われます。細くて柔らかいカメラ付きのチューブを鼻や口から気管支に挿入し、肺の奥の方まで届かせて組織の一部を採取します。採取した細胞を顕微鏡で調べることで、がん細胞が肺のリンパ管内に入り込んでいるかどうかが確認できます。

血液検査

血液検査では、感染症や心不全など呼吸困難の原因となる他の病気がないかを調べます。がん性リンパ管症には特有の血液の異常があるわけではありませんが、他の病気を除外することで診断に近づく手がかりになります。

がん性リンパ管症の治療

がん性リンパ管症を完治させる有効な治療法は現在のところ確立されていません。対応の基本は、原因となっている原発がんに対する治療、または緩和ケアとなります。

原発がんに対する治療

すでにがんが診断されている状況では、患者さんの全身状態などから総合的に判断し、可能であれば積極的な治療を選択します。たとえば薬物療法であれば、乳がんが原因の場合はホルモン療法、肺がんの場合は分子標的薬(特定の遺伝子を狙う薬)といったように、それぞれのがんに適した治療法が検討されます。薬物療法によって、リンパ管症の進行を一時的に抑えた報告があります。

緩和ケア

病状が非常に進行している場合、呼吸困難などつらい症状を和らげる緩和ケアが対応の中心となります。
具体的には、ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)を全身投与して肺の炎症やむくみを軽減し、呼吸を少しでも楽にする治療が行われることがあります。また、酸素吸入によって血中の酸素を補ったり、モルヒネなどの医療用麻薬を用いたりして呼吸困難感を和らげます。

がん性リンパ管症になりやすい人・予防の方法

がん性リンパ管症は、進行したがん患者さんの一部に発症する比較的まれな病態です。がんの種類と進行度によってリスクが決まるため、特定の年齢層や性別の人がなりやすいということはありません。
予防のためには、原因となるがんをできるだけ早期に発見・治療し、進行させないことが重要です。現時点でがん性リンパ管症そのものを直接防ぐ薬や方法はなく、定期的ながん検診を受けてがんを早期発見し、がんが見つかった場合に適切な治療を受けることで、合併症の発生リスクを下げられます。
また、肺がんの大きな要因である喫煙を控えるなど、がん全般のリスク要因を減らす健康的な生活習慣も間接的に予防効果が期待できます。バランスの取れた食事や適度な運動を心掛けて体の抵抗力を高めることも、予防につながると言えるでしょう。

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