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肺血栓塞栓症
井筒 琢磨

監修医師
井筒 琢磨(医師)

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江戸川病院所属。専門領域分類は内科(糖尿病内科、腎臓内科)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会

肺血栓塞栓症の概要

肺血栓塞栓症は、肺動脈に血栓(血の固まり)が詰まる疾患です。
緊急性の高い急性肺血栓塞栓症と慢性の肺血栓塞栓症に分けられ、それぞれ治療方法が異なります。

急性肺血栓塞栓症の原因のほとんどは、脚の静脈にできた血の固まり(深部静脈血栓)が血流に乗って循環して肺動脈に詰まった状態であり、呼吸困難や胸痛などの症状が現れます。
発症とともに心停止をきたした場合は死亡率が高いため早急な診断と治療、発症の予防が大切になります。

慢性肺血栓塞栓症は、肺動脈に慢性化した血栓ができることで引き起こされる病気です。
肺高血圧症を合併する場合が多く、心不全をきたして日常動作で息切れや疲れやすさなどの症状が現われることもあります。

肺血栓塞栓症

肺血栓塞栓症の原因

急性肺血栓塞栓症になる原因の90%以上は下肢や骨盤の静脈に発生した血栓が原因です。
静脈にできた血栓が血流に乗って肺動脈に詰まることで肺血栓塞栓症を発症します。

静脈に血栓ができやすくなる要因として、以下の3つが挙げられます。

  • 血流の停滞
  • 静脈壁の異常
  • 血液凝固異常(血液が固まりやすくなる)

特に入院中の患者では寝たきりになったり、運動量が低下したりすることで血栓ができやすく、急性肺血栓塞栓症を発症するリスクが上がります。

慢性肺血栓塞栓症は、溶けずに残ってしまった血栓が肺動脈に張り付くことで肺動脈が狭くなったり、詰まったりすることで発症します。

肺血栓塞栓症の前兆や初期症状について

急性肺血栓塞栓症の主な初期症状は、骨盤や脚の静脈に血栓ができることによる大腿から先の脚の赤みや腫れ、痛みです。

血栓が肺動脈に詰まると、呼吸困難や胸の痛み、失神などの症状が現われます。

慢性肺血栓塞栓症では安静時では自覚症状がないものの、身体を動かした際に息苦しさや疲労感が現われることが特徴であり、病状が悪化するにつれて息苦しさや疲労感の症状が次第に強まります。

肺血栓塞栓症の検査・診断

肺血栓塞栓症の診断では、主に以下のような検査が行われます。

胸部レントゲン写真・心電図検査

胸部レントゲン撮影はX線を当てて肺や心臓の大きさや形を画像で確認する検査であり、心電図検査は筋肉の電気信号を検出して心臓の動きに異常がないかを記録する検査です。

これらの検査は肺血栓塞栓症が疑わしい場合に、ほかの呼吸器や循環器の病気と鑑別する目的で行われます。

血液検査

肺血栓塞栓症の診断をするために採血検査では、Dダイマーや脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、トロポニンの値を測定します。
Dダイマーは血栓の可能性を示すため、数値が基準値より高ければ身体のどこかに血栓症が起きている可能性が高まります。

脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)やトロポニンI、トロポニンTは心疾患の診断で用いられる項目で、異常値を示している場合は心不全が起きている可能性があります。

動脈血ガス分析

動脈血ガス分析では、動脈からの採血によって血中の酸素・二酸化炭素濃度を確認します。

手術前後の期間で行われることが多く、手術に合併した肺血栓塞栓症の有無を見分けるのに役立ちます。

超音波(エコー)検査

超音波(エコー)検査は、超音波を使って臓器の動きを観察する検査であり、肺血栓塞栓症では心臓や肺動脈、弁の状態を観察します。

超音波検査で血栓の発見や心臓の大きさや筋肉の動きを確認することで、肺血栓塞栓症の診断だけでなく重症度や予後の判定も可能です。

造影CT検査

CT検査はX線を体に当てて体の輪切り像を撮影する検査です。

造影CT検査では、造影剤を投与することで肺動脈内にある血栓の有無を確認できます。

肺動脈の血栓を見つけることに優れた造影CT検査では、急性肺血栓塞栓症の診断が可能です。

肺シンチグラフィ

シンチグラフィは放射性物質を含んだ薬品を注射し、薬品の集まりを画像化する検査です。

肺のシンチグラフィでは肺動脈内の血栓を見つけられるため、肺血栓塞栓症の診断が可能となります。

ヨードアレルギーや腎臓の機能が悪いなどの理由で造影CT検査を受けることができない人の診断に有効です。

肺血栓塞栓症の治療

肺血栓塞栓症では、急性肺血栓塞栓症と慢性肺血栓塞栓症で治療法が大きく異なります。

急性肺血栓塞栓症の治療

急性肺血栓塞栓症では、以下のような治療法を組み合わせて治療が行われます。

  • 呼吸循環管理
  • 薬物療法
  • カテーテル治療
  • 下大静脈フィルター挿入術

呼吸循環管理

呼吸循環管理による治療では、以下のような治療法が行われます。
緊急性によっては、複数の治療法が組み合わされることもあります。

治療方法 適応
酸素投与 低酸素血症
薬物療法(昇圧薬) ショック、低血圧
PCPS(経皮的心肺補助装置) 血液循環不全(循環虚脱)、心停止

呼吸循環管理では血栓を取り除けないため、他の治療と並行して治療を行います。

薬物療法

肺血栓塞栓症の薬物療法では、血を固まりにくくする抗凝固療法と固まった血栓を溶かす血栓溶解療法があり、以下のような薬を使用します。

治療法 薬の種類
抗凝固療法 未分化へパリン(急性期)
DOAC(急性期)
ワルファリン(慢性期)
血栓溶解療法 モンテプラーゼ

血栓溶解療法は、抗凝固療法よりも血栓を溶かすことに優れることから、ショック状態や低血圧状態のような血液の流れが安定しない重症例や広範囲に血栓がある場合に行われます。

カテーテル治療

肺血栓塞栓症のカテーテル治療では、カテーテルから血栓溶解薬(モンテプラーゼ)を投与する方法や、肺動脈に詰まった血栓をカテーテルを用いて除去する方法が行われます。

カテーテル治療は、肺動脈の広範囲に血栓があり薬物治療でも血流状態が改善されず血液の流れが安定しない人が対象です。

下大静脈フィルター挿入術

下大静脈フィルターは、骨盤や脚の静脈に発生した血栓が肺動脈に詰まることを防ぐための器具です。

手術では、静脈に注射した部分にカテーテルを挿入し、下大静脈まで進めて静脈の壁に固定します。

下大静脈フィルター挿入術は出血があり抗凝固療法を使うことができない場合、もしくは十分な抗凝固療法中でも肺血栓塞栓症の悪化や再発をきたす場合が対象です。
慢性肺血栓塞栓症で動いたときの息苦しさが以前よりも強くなっている場合は、早急な治療が必要です。

慢性肺血栓塞栓症の治療では、主に以下のような治療法が行われます。

  • 外科手術
  • カテーテル治療
  • 内科治療

外科手術

慢性肺血栓塞栓症の治療では外科治療が第一選択であり、肺動脈内膜摘除術(PEA)という手術が行われます。

肺動脈内膜摘除術は、胸部を切開し肺動脈を内膜と一緒に剥離することで血栓を摘出する手術であり、予後の改善が期待できます。

肺動脈内膜摘除術は肺動脈の中枢部分にできた血栓が治療対象ですが、身体に負担がかかるため高齢あるいは他の合併症がある場合は手術ができません。

カテーテル治療

肺動脈内膜摘除術を行うことができない場合には、カテーテル治療が検討されます。
慢性肺血栓塞栓症のカテーテル治療では、バルーン肺動脈拡張術(BPA)が行われます。

バルーン肺動脈拡張術は、静脈の注射箇所に挿入したカテーテルを肺動脈まで進め、血栓が付着した箇所でバルーンを膨らませることで細くなっている肺動脈を広げる治療法です。

カテーテル治療は、肺動脈の末梢に血栓が存在する場合や合併症により肺動脈内膜摘除術を行うことができない場合、肺動脈内膜摘除術で肺高血圧症が治らなかった場合の症状改善のために行われます。

内科的治療

慢性肺血栓塞栓症の内科的治療では、投薬や酸素投与が行われます。
投薬治療では主にリオシグアトやセレキシパグなどの肺血管拡張薬や、血液を固まりにくくする抗凝固薬を服用します。

肺血管拡張薬の服用は肺動脈内膜摘除術やバルーン肺動脈拡張術ができない場合や、治療によって肺高血圧症が治らなかった場合、治療後に再発した慢性肺血栓塞栓症を対象に治療を行います。
抗凝固薬には主にワルファリンが用いられており、慢性肺血栓塞栓症を発症した場合は生涯服用し続ける必要があります。

心不全を合併している場合には利尿薬や強心薬、低酸素血症がある場合は酸素投与が行われます。

肺血栓塞栓症になりやすい人・予防の方法

長時間脚を動かさないでいる状態は、急性肺血栓塞栓症のリスクを高めるため、災害中の避難生活では発症リスクが高まることが報告されています。

以下に当てはまる人も急性肺血栓塞栓症のリスクが高まるので注意が必要です。

  • 下肢静脈瘤
  • がん
  • 深部静脈血栓症
  • 心筋梗塞、脳梗塞
  • 下肢の手術歴がある
  • 骨折などの怪我がある
  • 生活習慣病にかかっている
  • 経口避妊薬を使用している
  • 妊娠中もしくは出産直後である

肺血栓塞栓症の予防には長時間同じ姿勢でいることを避け、歩いたり脚を動かす習慣をつけることが大切です。

適度な水分摂取をして脱水を避けることも予防に効果があります。


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