目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. 病気Q&A(医科)
  4. 「下肢静脈瘤」を疑う初期症状・発症しやすい人の特徴はご存知ですか?

「下肢静脈瘤」を疑う初期症状・発症しやすい人の特徴はご存知ですか?

 公開日:2023/05/29
「下肢静脈瘤」を疑う初期症状・発症しやすい人の特徴はご存知ですか?

「最近足がだるい」「よく足がつる」「足のむくみがひどい」など、足のトラブルに悩まされたことがないという方はほとんどいないと思います。

そういった症状が出たとき、多くの方は「この程度は誰だってなるものだ」と考え誰にも相談することなく我慢してしまっているのではないでしょうか。

しかしそのような一見誰にでも起こりうるちょっとした症状の陰に、「下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)」という病気が潜んでいることがあるのです。

この下肢静脈瘤、場合によっては手術が必要になる重大な病気です。この記事で詳しく解説しますので思い当たる方は是非参考にしてください。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

プロフィールをもっと見る
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

下肢静脈瘤の症状となりやすい方

下肢静脈瘤

下肢静脈瘤はどのような病気ですか?

「下肢」とは足のことであり、「静脈」は臓器や筋肉などを通った血液を心臓に送る血管を差します。また「瘤」は「こぶ」とも読むことから、つまり「下肢静脈瘤」とは「足の静脈に瘤ができる病気」を意味します。

症状を教えてください。

下肢を流れる静脈には比較的皮膚の近くを流れる「表在静脈」と筋肉の奥など深いところを流れる「深部静脈」の2種類があり、このうち静脈瘤を発症するのは「表在静脈」の方です。このため拡張・蛇行した静脈が皮膚に浮き上がるような症状がみられます。

発症の原因を教えてください

心臓の力で強力に押し流される動脈に対し、静脈にはポンプにあたる機能が存在しません。それでは足先まで届けられた血液はどのようにして重力に逆らい心臓に届けられるのでしょうか。
その答えは「逆流防止弁」「筋肉の力」にあります。静脈のところどころに備わっている弁が血液の逆流を防止しつつ、周囲の筋肉がポンプのように動くことで血液を心臓に送り届けているのです。
しかしときに、この弁が何らかの原因で壊れることがあります。この状態は「弁不全」と呼ばれ、その結果重力に従って下方向に逆流した血液が血管の中に溜まってしまいます。これが下肢静脈瘤の正体です。

下肢静脈瘤はどのような方がなりやすいのでしょうか?

下肢静脈瘤を発症しやすい方というのは、つまり弁不全が発生しやすい方です。ではその原因ですが、実は現在も明らかにはなっていません。
ただし中高年の女性・長時間におよぶ立ちっぱなしの仕事・肥満・妊娠後といった特徴に当てはまる方に多い傾向があります。また遺伝的な要素がある可能性も指摘されています。

下肢静脈瘤の診断と治療

カウンセリング

受診するべき初期症状を教えてください。

初期段階においては静脈が拡張・蛇行するだけで特に自覚症状がない場合もありますが、下肢のだるさ・重さ・むくみなどが多くみられ、かゆみを感じることもあります。そしてひどくなると痛みを伴ったりつりやすくなるなどの症状が出てきます。
本記事の冒頭で触れたようにこういった症状の多くは疲れや一時的な血流悪化といった比較的軽い認識で済ませてしまいがちですが、安易に考えず積極的に受診することが大切です。

何科を受診するべきでしょうか?

下肢静脈瘤はここまで解説してきたように血管の病気であるため、その診療には主に血管外科があたります。しかし血管外科を設置している病院は少なく、これに代わって心臓血管外科や形成外科などで診療してもらえる可能性があります。
また近年では下肢静脈瘤外来下肢静脈瘤を専門に取り扱うクリニックも増えてきています。

どのような検査で下肢静脈瘤と診断されますか?

下肢静脈瘤かどうかを検査する方法としては「下肢静脈エコー検査」が一般的です。これは皮膚の外から超音波を当て、その反射を画像化することにより静脈の状態を観察する検査です。
レントゲンなどの放射線を利用した検査に比べ安全性が高く、連続して行えるのが特徴です。また血管を圧迫しながら観察することにより血管内にある血栓についても診断が可能です。

治療方法を教えてください。

まず保存的治療として「圧迫療法」があげられます。具体的には医療用の弾性ストッキングと呼ばれるストッキングを着用することにより足を圧迫し、血液の逆流を防ぎつつ溜まってしまっている血液やリンパ液を上へ押し流します。
ストッキングを履くだけの治療なので在宅で行えるなど患者さんへの負担が少ないのが利点ですが、効果はストッキングを着用している間に限られますので治療というよりは進行を遅らせ症状を軽減することを目的としたものといえます。
次に積極的に血液の逆流を止める治療として「硬化療法」があります。これは簡単にいえば静脈に接着剤を注入しくっつけてしまう治療法であり、時間の経過により接着剤が剥がれてしまえば元通りとなってしまうリスクがあります。
そして最後は手術です。「ストリッピング手術」は伏在静脈と呼ばれる逆流の原因となっている静脈を丸ごと引き抜く手術です。最も根本的な原因を解決する治療のため再発も少ないですが、神経を傷つけてしまったり入院期間が長期化しやすいといったデメリットがあります。
「高位結紮術」は逆流が起こっている血管の根元を縛ってしまう手術です。日帰りが可能であるなど比較的軽度な手術ですが、やはり根本的な治癒は困難といわざるを得ません。
「血管内焼灼術」はカテーテルを使用してレーザーや高周波により血管内を焼いて閉鎖する手術です。ストリッピング手術に比べて痛みや内出血・神経障害などのリスクが少なく、手術後すぐに歩けたり最短当日に退院出来たりといったメリットがあります。

下肢静脈瘤の治療期間はどのくらいでしょうか?

上述のストリッピング手術で2泊3日、「高位結紮術」や「血管内焼灼術」では日帰りが一般的ですが、症状の度合いや片足か両足かでも多少の前後はあります。

下肢静脈瘤を放置するリスクと予防

膝が痛いビジネスマン

下肢静脈瘤を放置するリスクを教えてください。

下肢静脈瘤は良性の病気ですので、放置したからといって急激に悪化したり命にかかわるような事態に直接結びつくことはありません
しかしながら倦怠感やむくみといった症状は消えませんし、場合によっては湿疹・色素沈着・皮膚の潰瘍にまで発展する可能性がありますので決して軽視していいものでもありません。

下肢静脈瘤と診断された場合にやってはいけないことはありますか?

まずは長時間の立ちっぱなし、座りっぱなしを避けましょう。
また医療用の弾性ストッキングと市販の着圧ストッキングは圧力そのものやかかる部位など全くの別物です。そもそも他の疾患などの条件によって着用の可否が決まるものですので、必ず医師の処方を受けなければいけません。
また着用方法についても正しく行わなければかえって症状を悪化させることにも繋がりかねませんので、くれぐれも自己判断で着用するような事は避けて下さい。

下肢静脈瘤の予防方法を教えてください。

これまで解説してきた「発症の原因」・「なりやすい方」・「やってはいけないこと」の裏返しであり、具体的には以下の4つになります。

  • 適度な運動により足の筋肉を鍛え、血流を促す力を強化する
  • 長時間の立ちっぱなしや座りっぱなしを避け、やむを得ない場合は足踏みやかかとの上げ下げ、ふくらはぎのマッサージなどを行う
  • 休憩時や就寝時に足を心臓より高くする
  • バランスのとれた食事により肥満や便秘を改善する

ぜひ日頃から意識して予防に努めてください。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

下肢静脈瘤の予防や症状改善というのは生活習慣の改善そのものです。他の様々な疾患を予防するためにも、積極的に取り組んで頂くことをおすすめします。また下肢静脈瘤はそれだけですと症状が限定的であるため、どうしても受診を後回しにしてしまいがちです。
しかし重症化してからの治療となればそれだけ内容が複雑化しますし、手術の難度も上がってしまいます。「怪しいな」と思ったらまずは受診することが肝要です。

編集部まとめ

足が痛くなってしまった女性
足のだるさやむくみというのは特に女性であれば誰もが当たり前に付き合って生きているものですが、それが下肢静脈瘤ともなれば血管が浮き出たり色素沈着や潰瘍などといった美の大敵に変化します。

そうならないためにしっかり予防ができればそれに越したことはないのですが、立ち仕事や運動不足・不規則な生活など避けることができないという方もいらっしゃるでしょう。

大切なのはときどきでいいので自分の足をしっかりマッサージしてあげて、下肢静脈瘤の兆候を発見したらためらわずにまずは一度専門医を訪ねることです。

本記事が一人でも多くの悩みを取り除けますよう祈っております。

この記事の監修医師