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本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

誤嚥性肺炎の概要

誤嚥性肺炎は、唾液・食べ物・飲み物・胃液などと一緒に誤って細菌を気管支や肺に入れてしまうことにより発症する疾患です。 そもそも嚥下とは物を飲み込む働きのことを指しており、誤嚥は口から食道へ入るべきものが気管に入ってしまうことを示しています。通常であれば、嚥下すると口から食道をとおって胃に入っていきます。 しかし嚥下機能が低下すると、食道ではなく気管支に入り込んでしまう嚥下機能障害を引き起こすのです。

誤嚥性肺炎の原因

誤嚥性肺炎を引き起こす原因は3つ挙げられます。どちらの原因も老化が大きく影響を及ぼしていると考えられています。

嚥下機能の低下

誤嚥性肺炎の原因1つ目は、老化や神経疾患による嚥下機能の低下が挙げられています。嚥下機能が低下することによって、気管支に細菌が誤って入ってしまいやすくなるためです。健康な状態であっても少量の唾液や胃液が肺へ入ってしまうことはありますが、入ってしまった物質は正常な肺の防御機構によって除去されます。しかし、機能が低下していると肺の防御がうまく機能しないため、物質や細菌が肺に溜まって炎症を引き起こします。

口腔内の細菌

誤嚥性肺炎の原因2つ目は、口腔内に存在している細菌です。嚥下機能が低下していることに加えて、口腔内が清潔に保たれていないと細菌が増殖します。細菌が増殖すると、気管支や肺に誤って入り込んでしまう細菌の量が増えるため、より肺炎の発症リスクが高まります。また老化に伴って、食道と胃の間にある筋肉(下部食道括約筋)の機能が低下して、胃液が逆流しやすくなることも原因の1つです。ほかにも栄養状態が偏っていることや、細菌を抑える免疫機能が低下していることなども発症に大きく関与していると考えられています。

誤嚥性肺炎の前兆や初期症状について

高齢者の発症率が高い誤嚥性肺炎ですが、症状が現れにくいため発見が遅れるケースもあります。ただし、下記のような症状が連日続くようであれば誤嚥性肺炎の前兆です。
  • 普段より元気がない
  • ぼんやりしている
  • 倦怠感がある
  • 食欲がない
  • のどがゴロゴロ鳴る
  • むせる頻度が増えている
初期症状としては発熱・咳・濃い色の痰などが挙げられます。誤嚥性肺炎の前兆や初期症状は風邪症状と似ています。通常の風邪症状は症状が現れてからピークに達するまで3日程です。症状が長引いたとしても7〜10日程で軽減していきます。 2週間以上風邪症状や誤嚥性肺炎の前兆に該当する状態が続いているのであれば注意が必要です。症状が進行すると、呼吸困難や胸痛などの呼吸器症状が顕著に現れるようになります。 初期症状から意識障害といった全身症状が出る場合もあります。早期発見に努めるためにも、体調に違和感を覚えた場合には内科や呼吸器科を受診することが大切です。

誤嚥性肺炎の検査・診断

誤嚥性肺炎は高齢者に発症しやすい病気ですが、風邪症状に似ていたり症状が現れにくかったりします。そのため、誤嚥性肺炎と診断するためには検査が必要不可欠です。

検査

検査は問診・胸部聴診が行われます。その際に誤嚥が明らかな場合や、嚥下機能低下が確認されている患者さんの場合には下記の検査が用いられます。
  • バイタルサイン測定
  • 胸部X線検査
  • 血液検査
バイタルサイン測定では心拍数・血圧・呼吸数・体温を確認します。誤嚥や嚥下機能が低下している場合には、胸部X線検査で肺炎を引き起こしているか調べます。血液検査は白血球増加や炎症反応が上がっていないかを判断するのに重要な所見です。

診断

誤嚥性肺炎は胸部X線検査・血液検査などで診断します。明らかに誤嚥や嚥下機能の低下がみられ、胸部X線検査で肺炎が確認されると誤嚥性肺炎と診断されます。また、血液検査で白血球の増加や炎症反応の上昇がみられたときも誤嚥性肺炎を発症していると判断されます。誤嚥性肺炎は慢性的に繰り返し発症することもあるため、注意が必要です。

誤嚥性肺炎の治療

日本人の死因第3位は肺炎であり、誤嚥性肺炎も含まれています。肺炎による年齢別の死亡者数をみると全体の96%以上を65歳以上の高齢者が占めています。また、高齢化社会に伴って肺炎による死亡者数が年々増加傾向にあることも事実です。早期発見・早期治療が求められている病気であることは明白であり、治療には周囲の協力が必要な病気です。

薬物療法

誤嚥性肺炎の治療は薬物療法が基本になります。使用されるものは以下のとおりです。
  • 抗菌薬
  • ステロイド薬
  • ACE阻害薬
一般的には通院での治療方法は抗菌薬がベースとなりますが、呼吸状態や全身状態が不安定になっている場合には入院での治療が行われます。ほかにも、嚥下機能に悪影響を及ぼす薬物を内服していないかのチェックも治療に大切です。嚥下機能に悪影響を及ぼす代表的な薬物は以下になります。
  • 睡眠薬(ドラール・ロヒプノールなど)
  • 抗不安薬(セルシン・デパスなど)
  • 抗うつ薬(トリプタノール・ルジオミールなど)
  • 抗精神薬(レボトミン・セレネース・ドグマチール・セロクエルなど)
  • 抗てんかん薬(フェノバルビタール・フェニトイン・デパケン・イーケプラなど)
  • 抗ヒスタミン薬第一世代(ポララミン・アタラックスなど)
  • 抗ヒスタミン薬第二世代(ザジテン・セルテクトなど)
  • 抗ヒスタミン薬第三世代(アレグラ・ザイザルなど)
薬剤性嚥下障害であれば、上記の薬物処方を変更あるいは減量することで誤嚥性肺炎の症状を改善できる可能性があります。軽度から中等度の場合には通院による治療が可能で、患者さんの心身の健康・自立性・社会的関わりなどの要素(QOL)を尊重したケアが中心になります。

口腔内ケア

口腔内の細菌によって誤嚥性肺炎の発症リスクが高まるため、口腔ケアの徹底や嚥下指導も重要な治療方法です。口腔ケアには歯やお口のなかを健康に保つ器質的口腔ケアと、唾液の分泌を促したり舌・口唇・頬などの機能を活性化するための機能的口腔ケアがあります。器質的口腔ケアは以下のものを使用します。
  • 歯ブラシ
  • 歯間ブラシ
  • デンタルフロス
  • フッ素入り歯磨剤
口腔内の細菌は歯と歯の間や歯周ポケットに溜まりやすいです。すみずみまできれいに保つことが求められます。入れ歯を使用している場合には、義歯用ブラシ・義歯洗浄剤・舌ブラシ・粘膜用ブラシで口腔内をケアすることが大切です。むし歯や歯周病を発症している場合には、早急に治療することが誤嚥性肺炎を抑えることにもつながります。また、老化や薬の副作用などで唾液が減少すると、口腔内が乾燥して細菌の増加や炎症が生じやすくなります。定期的に水分補給を行い、口腔内が乾燥しないようにすることも大切です。

誤嚥性肺炎になりやすい人・予防の方法

高齢者・神経疾患などで寝たきりの患者さんは、誤嚥性肺炎になりやすい傾向にあります。口腔内の清潔が十分に保たれていない・咳反射が弱く嚥下機能が低下している・栄養状態が偏っている・免疫機能の低下がみられる場合には、誤嚥性肺炎を発症しやすい状態なので注意が必要です。誤嚥性肺炎になりやすい条件に該当する人は、以下の予防方法を生活に取り入れることをおすすめします。
  • 歯みがきとうがいの徹底
  • 顔面体操
  • 舌体操
  • 唾液腺マッサージ
  • 生活習慣の改善
  • ストレス解消
顔面体操や舌体操は顔の表情筋や舌を大きく動かすことで舌の働きがよくなり、唾液が出やすくなったり発音がよくなったりします。唾液には殺菌作用があるため、頬や顎の下をマッサージして唾液の分泌を促す唾液腺マッサージもおすすめです。また、規則正しい生活や適度な運動と睡眠も身体機能の維持や免疫機能の向上につながります。普段の生活に取り入れやすい方法を継続して続けていくことが重要です。

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