監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
目次 -INDEX-
心原性ショックの概要
心原性ショックは、心臓機能の低下により急激に末梢の循環状態が悪くなる危機的な状態を指します。
心臓のポンプ機能が著しく低下するため、全身の臓器や組織に十分な血液を供給できなくなり、酸素がいき渡らなくなって全身に深刻な影響が生じます。
全身の酸素の不足は血液の酸素飽和度を低下させるため、組織内に乳酸を蓄積させます。
体内に乳酸が増えていくと代謝性アシドーシスが引き起こされ、さまざまな臓器に重大なダメージを与えます。
心原性ショックは心筋梗塞、重度の不整脈、心筋症、心タンポナーデ、大動脈解離、肺塞栓症、弁膜症など、幅広い心臓や血管の疾患が原因で発症します。
疾患により心臓の収縮や拡張の機能が落ちることで、心臓のポンプ機能が著しく低下します。
心原性ショックの進行は極めて急速であり、脳や腎臓など生命維持に重要な臓器の機能低下も引き起こします。
患者の救命には一刻を争う対応が重要で、迅速な診断と同時に治療を開始することが求められます。
患者の生存率を高めるためには、原因となる疾患を特定し、適切な治療を速やかに実施することが不可欠です。
原因疾患への対処や循環動態の改善、臓器機能の維持など、さまざまなアプローチが必要になります。
心原性ショックの原因
心原性ショックは、心臓の収縮や拡張に影響を与えるさまざまな疾患によって引き起こされます。
心筋梗塞や心筋炎などでは、心筋の損傷や炎症によって心臓の収縮機能が著しく低下し、全身への血液供給が不十分になります。
心タンポナーデや心室腫瘍、緊張性気胸、心室細動や心室粗動などの不整脈も、心臓の拡張機能を低下させ、全身へ血液がいき渡るのを阻害します。
心原性ショックの前兆や初期症状について
心原性ショックの初期症状は、指先の冷感、顔面蒼白、気分不快、胸の痛み、動悸、冷や汗などです。
症状は急速に悪化し、次第に意識状態の低下や呼吸機能の悪化も見られます。
適切な治療がおこなわれない場合、心停止に至り、命の危険にさらされます。
心原性ショックの検査・診断
心原性ショックの検査では、バイタルサインの測定や身体所見の確認、12誘導心電図検査、心臓の超音波検査、胸部の画像検査などが迅速におこなわれます。
心臓の動きや状態を評価し、原因となる疾患を鑑別します。
理学所見の検査
意識レベルや血圧、心拍数、呼吸回数、体温、血液の酸素飽和度を短時間で測定します。
収縮期血圧が90mmHg未満、平均動脈圧が65mmHg未満であり、血中乳酸値の上昇などが認められる場合は、心原性ショックと診断されます。
心臓のマーカーや乳酸値などを測定するための血液検査や、貧血やチアノーゼ、顔面や四肢の浮腫、呼吸音の異常などの確認もおこないます。
(出典:一般社団法人 日本循環器学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」)
12誘導心電図検査
12誘導心電図検査をおこなって、心室細動や心室粗動などの不整脈、ST波形の上昇などを確かめます。
ST波形の上昇が12誘導心電図のどの部分に認められるかによって、心臓のどの部分に心筋梗塞が発症しているか診断できます。
心臓の超音波検査
心臓の超音波検査は、心臓の構造や機能を観察する検査で、心臓の形状や動き、心臓壁の厚さ、左心室からの駆出率などを詳細に評価します。
心筋梗塞の場合、心臓壁の運動の異常や、左心室の拡大などが観察できます。
心タンポナーデでは心のう内の液の貯留や右心房の虚脱、肺塞栓症では下大静脈や右心室の拡大などが認められます。
胸部の画像検査
胸部の画像検査では主にX線検査とCT検査が用いられます。
胸部X線検査では、心臓の拡大や肺うっ血、胸水の貯留などがないか確認し、左心室の機能低下の有無や原因について評価します。
CT検査では心臓や大動脈の構造の異常、肺血管や冠動脈の閉塞などを確認し、大動脈解離や心筋梗塞などの重篤な病態を診断します。
心原性ショックの治療
心原性ショックが起きている状況では治療は一刻を争うため、まずは蘇生措置が最優先となります。酸素の投与や血圧の管理、必要に応じて気管挿管での呼吸管理など、生命維持のための治療がおこなわれます。
あわせて疾患に対する治療と平行しておこないます。
ドブタミンやノルアドレナリンなどの薬物療法で血圧の改善が見られない場合は、大動脈内バルーンパンピングや経皮的心配補助装置、補助人工心臓などの補助循環療法をおこないます。
2016年に承認された環補助用心内留置型ポンプカテーテルが使用されることもあります。
ドブタミンやノルアドレナリンの投与
酸素療法をおこなっても収縮期血圧が上昇しない場合は、心拍出量を増加させるためにドブタミンを投与します。
末梢の循環不全が改善しない患者に対しては、血管収縮薬であるノルアドレナリンを同時に投与することもあります。
大動脈内バルーンパンピング
大動脈内バルーンパンピング(IABP)は、大動脈内にバルーンを留置して心臓のはたらきを助ける補助循環装置です。
バルーンを拡張・収縮させて心臓の動きをサポートし、心臓の負荷を下げながら血圧を安定させる効果があります。
経皮的心肺補助装置
経皮的心肺補助装置(PCPS)は、右心房からカテーテルで取り出した静脈血を人工肺で酸素化し、再び動脈へ送る治療法です。
心臓や肺をサポートするために用いられ、心拍出量を補助して全身の血流を維持する効果があります。
補助人工心臓
補助人工心臓は専用の血液ポンプによって左心室から血液を吸引し大動脈に送血することで、心臓の機能を補助する治療法です。
大動脈内バルーンパンピングや経皮的心肺補助装置で血液が維持できない場合に利用されます。
体の外に血液ポンプが設置される体外設置型と、身体の中に血液ポンプが留置される植え込み型の2種類があります。
循環補助用心内留置型ポンプカテーテル
循環補助用心内留置型ポンプカテーテルは、足の付け根や鎖骨下などの血管から左心室内にカテーテルを挿入し、全身の血液循環を改善させる治療法です。
カテーテルの先には羽根車が装着され、左心室にたまっている血液を大動脈と全身へ送血する仕組みになっています。
他の循環補助装置よりも心臓の負担を抑えられたり、低侵襲に治療できたりする利点があります。
心原性ショックになりやすい人・予防の方法
高血圧や糖尿病、肥満などの生活習慣病がある人、喫煙者、心疾患などの基礎疾患や家族歴がある人は、心筋梗塞などのリスクが高まり、心原性ショックになりやすくなります。
予防の方法は、生活習慣を改善することが大切です。
ウォーキングやジョギングなどを取り入れた適度な運動や、塩分やコレステロールを控えた食事を日頃から心がけましょう。
喫煙や多量の飲酒も控えることが重要です。
過労や精神的なストレスがある場合は、適宜休息を取り、疲れをためない生活を送りましょう。
参考文献