監修医師:
神宮 隆臣(医師)
目次 -INDEX-
脳血管障害の概要
脳血管障害とは、脳の血管が詰まったり破れたりすることで脳の血液循環に障害をきたす病気の総称です。
2023年の人口動態統計によると、日本人の死因で脳血管障害は4位(1位:悪性新生物、2位:心疾患、3位:老衰)となっています。さらに2022年に行われた国民生活基礎調査では、要介護状態となった原因の2位に脳血管障害(脳卒中)(1位:認知症、3位:骨折)が挙げられています。このことからも、脳血管障害は現代の日本人にとって注意すべき病気の1つともいえるでしょう。
脳血管障害として代表的なものに、脳卒中があります。そして、脳卒中は脳の血管が詰まる「脳梗塞」と、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」に分けられます。
なお脳梗塞は血管の詰まる原因により、さらにいくつかの種類に分類されます。
- 心原性脳塞栓症:心臓でできた血栓や異物により、脳の血管が詰まる
- アテローム血栓性脳梗塞:頭蓋内外の太い血管が、動脈硬化により狭くなったり詰まったりする
- ラクナ梗塞:脳内の穿通枝という細い血管が詰まる
- その他の脳梗塞
なお、脳梗塞の中で最も重症になりやすいのが心原性脳塞栓症です。
一方で出血性脳卒中は、脳の組織自体に出血が生じる「脳出血」と、脳の表面側にあるくも膜下腔に出血が起こる「くも膜下出血」の2つに分けられます。
また脳卒中以外の脳血管障害には、脳静脈・静脈洞血栓症、可逆性脳血管攣縮症候群、片頭痛、脳アミロイド血管症、血管性認知症などがあります。
脳血管障害の原因
脳血管障害の代表格である脳卒中の発症に大きく関わるのは、高血圧、脂質代謝異常、糖代謝異常、非弁膜症性心房細動です。そして高血圧や脂質代謝異常、糖代謝異常になりやすいといった遺伝的要因に、暴飲暴食といった生活習慣、ストレスなどが加わった場合も脳血管障害の発症リスクは高まるでしょう。
これらの危険因子の中でも、脳卒中の最大の要因となるのは高血圧です。
ただし、脳卒中の病型により危険因子は異なる傾向にあるようです。
- ラクナ梗塞、脳出血、くも膜下出血:高血圧が大きく関わる
- アテローム血栓性脳梗塞:高血圧、糖代謝異常、脂質代謝異常などが合わさって影響する
- 心原性脳塞栓症:非弁膜症性心房細動の影響が最も大きい
脳血管障害の前兆や初期症状について
脳は部位によって異なる働きを持っているため、障害される部位によって症状が変わります。ここでは、脳血管障害の典型的な症状を5つ見ていきましょう。
- 片側の手足や顔半分に麻痺やしびれが起こる
- 呂律が回らない、言葉がうまく出ない、他人の言葉が理解できない
- 力はあるが、バランスがとれない(立てない、歩けない、フラフラする)
- 片側の目が見えない、物が2つに見える、視野が半分欠ける
- 激しい頭痛
上記5つの症状のうち、1つだけのことも複数現れることもあり、重症の場合は意識が悪くなるケースもあります。このような症状があるときには、早めに救急車を呼んで脳神経外科、脳神経内科を受診してください。
なお脳梗塞は、治療が遅れると脳の血流が再開した後も症状が改善しないこともあります。
治療が1分間遅れると、190万個の細胞が失われるといわれています。できるだけ早く病院を受診するようにしましょう。
脳血管障害の検査・診断
脳血管障害の検査・診断には、問診、診察、頭部CT、頭部MRI、頭部MRA、頸動脈エコー、心エコーが必要です。また合併症や治療による副作用を把握するために、血液検査や心電図、胸部レントゲンも行うことがあります。
問診・診察
問診では、症状がいつ、どこで、どのように始まったのかを聞き取ります。
そして症状の強さや範囲を診察により判断し、問診による情報と合わせて検査方法を決めます。
頭部CT
頭部CTは、X線を使用して脳の輪切り画像を作成します。
頭部CTでは、主に急性期脳出血の有無を確認します。脳梗塞でも変化が見つかることもあります。検査の際に、造影剤を使用すると、脳の血管の状態が分かります。最新の検査では血流の状態も調べることができます。
なお画像の撮影は仰向けに寝た状態で行い、造影剤不使用の場合は約5分、使用する場合は5〜10分ほどかかるようです。
頭部MRI
MRIの場合は急性期の脳梗塞と急性期の脳出血を判定できます。磁力を使って脳の断層像を作成するため、X線の被曝がありません。通常は精密検査として行われ、急性期脳梗塞を診断することに優れています。そのほか、古い脳梗塞や脳出血も見つけることができます。
CTと同様に造影剤を使用すると脳の血流状態を調べられます。頭部MRIの場合も、撮影は仰向けに寝た状態で行い、所要時間は10〜30分ほどです。
頭部MRA
頭部MRAはMRIと同じ装置で、通常は同時に撮影される検査です。脳動脈の狭窄や閉塞、動脈瘤と呼ばれるこぶ状のふくらみがあるかを確認します。MRI装置を使用して脳動脈を全体像として映し出します。
頸動脈エコー
頸動脈エコーは、超音波を利用して頸動脈の状態を調べる検査です。頸動脈内に、コレステロールや中性脂肪がたまったプラークによる狭窄があるかを調べます。
心エコー
心エコーでは、心臓内の血栓や異物の有無を確認します。さらに、心筋梗塞などで心臓の動きに異常がないか、心臓の弁構造に異常がないかなどを調べます。心臓の異常が原因で、脳梗塞となることもあるため、脳血管障害においても必要な検査です。
脳血管障害の治療
脳血管障害の治療法は、どの病気かによって大きく異なります。また、症状の程度や発症時期によって異なります。全体としていえることは、いずれの場合も迅速な対応が必要です。
用いられる治療法としては、抗血栓薬内服、および抗血栓薬点滴、脳保護薬点滴、抗脳浮腫薬点滴が挙げられます。また脳梗塞急性期にのみ行われるものに、経静脈的血栓溶解療法と脳血管内治療があります。そのほか、血圧、体温、脈拍などの全身管理や、日常生活を送るうえで必要な動作のリハビリテーションも行うことになるでしょう。
抗血栓薬内服・点滴
抗血栓薬の内服や点滴は、脳梗塞の症状悪化や再発を予防するためのものです。抗血栓薬には、抗血小板薬や抗凝固薬があり、個々の病態に応じて使い分けます。
脳保護薬点滴
脳保護薬点滴は、脳梗塞によって生じる活性酸素という不要物を除去するために使用します。
抗脳浮腫薬点滴
脳梗塞や脳出血などにより脳にむくみが生じることもあるでしょう。そのときは脳が圧迫されないよう、むくみの悪化を防ぐために抗脳浮腫薬の点滴を行うことがあります。
経静脈的血栓溶解療法
経静脈的血栓溶解療法は、脳梗塞発症から4.5時間以内に治療が必要です。症状や脳梗塞の種類により個々人に合わせて治療を行います。現在使用されている、組織型プラスミノゲン・アクティベーター (tissue-type plasminogen activator: t-PA)の点滴は、血栓を溶かす働きがあります。
経皮的血栓回収療法
経皮的血栓回収療法は、脳梗塞発症から24時間以内に治療が開始できる場合に行われることがある治療法です。経皮的血栓回収療法では、脳血管に詰まった血栓を「ステントリトリーバー」や「吸引カテーテル」と呼ばれる特殊な器具で、体の外へ取り出します。脳の比較的太い血管が詰まっており、症状がしっかりとある方を対象とします。
脳血管障害になりやすい人・予防の方法
脳血管障害は高血圧、脂質代謝異常、糖代謝異常などが要因となり発症します。また、喫煙や過度な飲酒も脳血管障害の発症リスクを高めると報告されています。そのため規則正しい生活や、バランスのよい食事、適度な運動、適正体重の維持など生活習慣全般を見直し、生活習慣病をしっかりと治療することが脳血管障害の予防につながるでしょう。
参考文献