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網膜動脈硬化症
柿崎 寛子

監修医師
柿崎 寛子(医師)

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三重大学医学部卒業 / 現在はVISTA medical center shenzhen 勤務 / 専門は眼科

網膜動脈硬化症の概要

網膜動脈硬化症は、網膜にある血管が動脈硬化を起こした状態のことです。血管の弾力性が失われ、血管が硬くなることで起こります。主に長年の高血圧により引き起こされ、「高血圧性網膜症」と呼ばれることもあります。

網膜の血管は、全身に張り巡らされた血管の一部であり、体の中で直接観察できる唯一の血管です。そのため、網膜の変化は全身の血管の状態を知る手がかりにもなります。
実際に、網膜の動脈硬化が見つかった場合、脳や心臓など他の重要な臓器の血管にも同様の変化が起きていることも少なくありません。

初期には自覚症状がほとんどなく、発見が遅れやすいのが特徴です。動脈硬化が進行することで血管が詰まったり、もろくなった血管から出血したりすることでさまざまな症状を引き起こします。重症化すると、視力に影響が出ることがあります。

網膜動脈硬化症の原因

主な原因は長年続く高血圧です。血圧が高い状態が続くと、血管にダメージが蓄積し、徐々に血管の弾力性が失われていきます。とくに網膜の血管は細く繊細なため、高血圧の影響を受けやすく、長期的な高血圧により動脈硬化が進行します。

また、高血圧と動脈硬化は密接な関係にあり、高血圧が動脈硬化を促進すると同時に、動脈硬化がさらに血圧を上昇させるという悪循環を引き起こします。

他にも、不規則な生活、運動不足、ストレス、喫煙、過度の飲酒、高脂肪食の習慣などの生活習慣も、動脈硬化の進行を早める要因となるため注意が必要です。
加齢、遺伝的要因、他の病気(糖尿病や高脂血症など)も、発症や進行に影響します。

網膜動脈硬化症の前兆や初期症状について

初期の網膜動脈硬化症では、自覚症状がほとんどありません。そのため、定期健康診断などでの眼底検査で初めて発見されることが多い病気です。

動脈硬化が進行し、血流が低下すると、徐々に視覚に影響があらわれ始めます。視界がぼやけたり、かすんで見えたりするようになります。また、視野の一部が見えにくくなったり、物が歪んで見えたりすることもあります。

とくに網膜の中心部である黄斑に血液が十分に届かなくなると、視力が大きく低下し、突然視界の一部が欠けることがあります。これらの症状は動脈硬化がかなり進行してからの変化のため、定期的に検査を受診し、早期発見・早期治療を心がけることが大切です。

網膜動脈硬化症の検査・診断

網膜動脈硬化症は主に眼底検査で診断が可能です。眼底検査では、瞳孔を広げる効果のある目薬を使い、網膜の状態を確認します。

初期の網膜動脈硬化症であれば、網膜の動脈がやや細くなっていることが確認されます。さらに進行していると、動脈の壁が厚くなって光を強く反射するようになり、色調も変化します。

医師はこうした変化を総合的に判断して、網膜の動脈硬化の程度を評価します。

また、網膜の動脈硬化は全身の血管の状態を反映していることが多いため、必要に応じて他の検査も行われます。血圧測定、血液検査(コレステロール値や血糖値など)、心電図検査、頸動脈エコーなどにより、全身の血管の状態を調べます。

網膜動脈硬化症の治療

網膜動脈硬化症の治療は、原因となる高血圧や生活習慣病をコントロールし、動脈硬化の進行を防ぐことが基本となります。

網膜動脈硬化症のみでは、ほとんど症状が現れないことが一般的ですが、網膜動脈の硬化が進行することにより、網膜の血管閉塞性疾患が起こりやすくなります。

血管閉塞性疾患の場合は、視力低下や視界の歪みなどの症状が出てくることもあり、治療が難渋する場合も少なくありません。こうした状態になる前に、網膜動脈硬化症が悪化しないように日頃から気を付けることが重要だといえます。

高血圧と動脈硬化の治療

はじめに高血圧の治療が重要です。高血圧の程度や原因によって適切な降圧薬が処方されます。高血圧の薬は継続的に服用することが不可欠で、自己判断で中止すると症状が悪化する可能性があります。また、高コレステロール血症がある場合は、コレステロールを下げる薬が処方されることもあります。

生活習慣の改善と組み合わせることで、より効果的な治療が期待できます。

糖尿病の治療

糖尿病がある場合は、血糖値のコントロールが必要です。高血糖状態が続くと血管の損傷が進み、血圧をさらに上昇させる原因になるため、食事療法、運動療法、薬物療法を組み合わせて治療します。定期的な検査で血糖値の管理状態を確認することも大切です。

目の治療

すでに視力低下などの症状があらわれている場合は、眼科での治療も必要です。網膜の血管が詰まったり、出血したりした場合には、レーザー治療などの治療が検討されます。ただし、すべてのケースで治療が必要というわけではなく、糖尿病をはじめとする基礎疾患のコントロールにより、改善が期待できる場合も少なくありません。

網膜動脈硬化症になりやすい人・予防の方法

網膜動脈硬化症は、高血圧や糖尿病、高コレステロール血症などの生活習慣病がある方に多く見られます。

予防の基本は、生活習慣の改善です。バランスの良い食事を心がけ、塩分と脂質の摂取を控えめにします。野菜や魚を積極的に取り入れ、規則正しい食生活を送ることが大切です。適度な運動習慣も血圧の安定化や肥満の予防につながります。

さらに喫煙は、血管を収縮させ、動脈硬化を促進する大きな原因となるため、禁煙が強く推奨されます。過度の飲酒も血圧を上昇させる原因となるため、適度な量に抑えましょう。

すでに高血圧や糖尿病などの持病がある方は、治療を継続することが予防につながります。

また、網膜動脈硬化症は自覚症状がないことが多い病気のため、定期的に健康診断を受けるようにしましょう。

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