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網膜静脈閉塞症
柳 靖雄

監修医師
柳 靖雄(医師)

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東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。

網膜静脈閉塞症の概要

網膜静脈閉塞症は網膜にある静脈の血流が滞り、機能に異常をきたす疾患です。

網膜は目をカメラに例えるとフィルムの役割を持ち、目に入る光を電気信号に変えて脳に伝える役割があります。網膜の機能によって人間は光を感知できています。

また、網膜には血管が豊富に備わり、心臓から視神経を通して酸素を受け取る「網膜動脈」と、二酸化炭素などを含んだ血液を心臓へ送る「網膜静脈」で構成されています。
網膜の血管は、心臓や脳の血管と同じように詰まることがあります。網膜の静脈が詰まると、網膜の機能が障害されて視力が低下したり、視界がぼやけたりすることがあります。

網膜静脈閉塞症には「網膜中心静脈閉塞症(CRVO)」と「網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)」の2種類があります。

網膜中心静脈閉塞症(CRVO)

網膜の太い静脈(主幹静脈)が詰まっている状態です。血流が悪くなり、網膜全体に出血して視力が低下します。虚血型と非虚血型にわけられ、予後が異なります。

虚血型は視力低下の程度が著明で、治癒しても視力が大幅に改善することはありません。まれに失明するリスクもあります。非虚血型は、虚血型と比較して比較的良好な経過を辿ります。しかし、全体の約30%の患者さんでは、発症後3年ほどの間で虚血型に移行するリスクがあるため、注意が必要です。

網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)

網膜静脈の一本の枝が詰まることで、網膜に出血をきたす状態です。失明する確率は低いものの、「虚血性視神経症」を合併した場合では失明する恐れがあります。

網膜静脈閉塞症は、「高血圧」や「糖尿病」「脂質異常症」などを発症している高齢の方に多く発症する傾向があります。さらに、「緑内障」や「遠視」がある場合にも発症率が高まります。

治療は、網膜のレーザー治療や副腎皮質ステロイド薬の局所注射、抗VEGF薬の硝子体内投与などが行われます。

出典:公益社団法人日本眼科学会「網膜中心静脈閉塞症」
網膜静脈閉塞症

網膜静脈閉塞症の原因

網膜静脈閉塞症の主な原因は「動脈硬化」です。

動脈硬化とは、本来柔らかく弾力のある血管が硬くなる状態です。高血圧や糖尿病、加齢による影響など、さまざまな要因によって生じることがあります。

動脈硬化をきたすと血流が悪くなり、血管が詰まることがあります。高血圧などがきっかけで動脈硬化をきたし、網膜の血管の血流が悪化すると、網膜静脈閉塞症を発症することがあります。

網膜静脈閉塞症は高血圧、糖尿病、脂質異常症のある高齢者に発症しやすい傾向があり、緑内障や遠視がある場合にも発症リスクが高まります。しかし、高齢者だけでなく、糖尿病や膠原病などを発症していれば若年者でも発症するケースがあります。

網膜静脈閉塞症の前兆や初期症状について

網膜静脈閉塞症を発症すると、閉塞した血管から水分や血液などが漏れ出すため、網膜がむくんだり出血したりします。症状は閉塞した血管の部位によって異なり、無症状で経過するケースや、著明な視力低下を認めるケースもあります。

網膜の中心部である「黄斑」にまでむくみが及ぶと、視界がゆがんで見えることもあります。特に網膜中心静脈閉塞症では高頻度で黄斑にむくみが生じるため、発症初期から視力が低下する傾向にあります。

網膜静脈閉塞症の検査・診断

網膜静脈閉塞症の検査では、視力検査や眼圧検査などの一般的な検査のほか、目の奥にあたる網膜や血管、視神経の状態を確認する「眼底検査」や、近赤外線を用いて網膜の断層像を調べる「光干渉断層計(OCT)」などが行われます。

眼底検査や光干渉断計検査により、網膜のむくみの有無や程度、血管の閉塞の状態などを確認できます。

そのほか、血管の詰まり具合を詳しく調べるために網膜の毛細血管を鮮明に解析する「フルオレセイン蛍光眼底検査」などを行うこともあります。

網膜静脈閉塞症の治療

網膜静脈閉塞症を根本的に治癒させる治療法はありません。視力の低下を引き起こす黄斑のむくみがある場合では、レーザー治療や副腎皮質ステロイドの局所注射、「抗VEGF療法」などが行われます。

レーザー治療

むくみをきたしている黄斑部にレーザーを照射する治療法です。レーザーを当てることで黄斑のむくみが改善するケースがある一方、正常な網膜にも影響を及ぼすリスクがあるため、慎重に適応を判断して行います。

副腎皮質ステロイド局所注射

炎症を抑える作用のある副腎皮質ステロイドを網膜に直接注射する治療法です。炎症を抑えることで黄斑のむくみ改善が期待できますが、白内障や緑内障などの発症リスクがあります。

抗VEGF療法

「血管内皮増殖因子(VEGF)」を抑える眼内注射を行う治療法です。

網膜静脈閉塞症では、詰まった血管の代わりに新しい血管(新生血管)が異常に増殖して血管内皮増殖因子が産生されます。新生血管は非常にもろいため、容易に出血して水分が漏れ出し、黄斑がむくむ原因になります。

抗VEGF療法では、血管内皮増殖因子の働きを抑えることで新生血管の増殖を防ぎ、黄斑のむくみを改善させる効果が期待できます。ほかの治療法と比べ副作用のリスクが低いうえ、比較的早期に症状の改善が期待できます。

網膜静脈閉塞症になりやすい人・予防の方法

高血圧や糖尿病、脂質異常症がある場合や、緑内障、遠視がある場合は、動脈硬化をきたして網膜静脈閉塞症を発症するリスクがあります。これらの疾患に対して適切な治療を受け、悪化を防ぐことが網膜静脈閉塞症の予防につながります。

高血圧や糖尿病、脂質異常症は、いずれも遺伝的な要因に加え、偏った食生活や運動不足、肥満、過度の飲酒、喫煙習慣などによって発症します。
発症予防や重症化予防のためには、以下のことを心がけましょう。

  • 規則正しい食生活
  • 適度な運動
  • 節度ある飲酒
  • 禁煙に取り組む

遠視には遺伝的な要因によるものもありますが、多くは原因不明です。定期的に眼科検診を受けて早期発見と予防に努めるほか、発症している場合は定期的に経過観察を受け、適切な治療を継続することが重要です。

緑内障は、高血圧や糖尿病、遺伝、加齢などの要因によって発症することがあります。高血圧などの生活習慣病と同様、規則正しい生活習慣を心がけることが重要です。


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