監修医師:
大坂 貴史(医師)
目次 -INDEX-
高カルシウム血症の概要
高カルシウム血症(こうかるしうむけっしょう)は、血液中のカルシウム濃度が異常に高くなる状態を指します。カルシウムは骨や歯の健康を保つために重要なミネラルであり、また、筋肉の収縮や神経の伝達、血液の凝固など、さまざまな生理的機能にも関与しています。しかし、カルシウム濃度が高すぎると、体に悪影響を及ぼし、さまざまな症状や合併症を引き起こすことがあります。
高カルシウム血症は、軽度の場合はほとんど無症状であることが多いですが、重度になると、腎臓や心臓、消化器系、神経系に深刻な影響を与えることがあります。特に、腎臓結石や骨の弱化、心臓のリズム異常などのリスクが高まります。また、原因となる疾患や状態によっては、迅速な治療が必要となることもあります。
この記事では、高カルシウム血症の原因、症状、診断方法、治療、予防策について詳しく解説します。
高カルシウム血症の原因
高カルシウム血症は、さまざまな原因によって引き起こされる可能性があります。主な原因は次の通りです。
副甲状腺機能亢進症
高カルシウム血症の最も一般的な原因は、副甲状腺機能亢進症です。副甲状腺は甲状腺の近くにある小さな腺で、血中カルシウム濃度を調整する副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌します。このホルモンが過剰に分泌されると、骨からのカルシウムの放出が増加し、血中のカルシウム濃度が上昇します。特に中高年の女性に多く見られます。
がん
がんも高カルシウム血症の主要な原因の一つです。特に、骨に転移するタイプのがん(乳がんや肺がん、多発性骨髄腫など)は、骨からカルシウムを溶かし出し、血中カルシウム濃度を高めることがあります。また、一部のがんは、副甲状腺ホルモン様物質を産生し、カルシウム濃度を間接的に上昇させることもあります。
ビタミンDの過剰摂取
ビタミンDは腸からのカルシウム吸収を助ける役割を持っていますが、過剰に摂取するとカルシウムの吸収が増えすぎてしまい、血中カルシウム濃度が異常に高くなることがあります。特にサプリメントなどでビタミンDを大量に摂取している場合には注意が必要です。
サルコイドーシスやその他の炎症性疾患
サルコイドーシスやその他の慢性炎症性疾患では、体内でビタミンDが過剰に生成されることがあり、それによりカルシウム吸収が増加し、高カルシウム血症を引き起こすことがあります。
腎臓の問題
慢性腎不全などの腎臓の機能低下により、カルシウムの代謝が乱れることがあります。腎臓がカルシウムの排泄を正常に行えなくなることで、血中カルシウム濃度が上昇することがあります。
その他の原因
他にも、高カルシウム血症を引き起こす原因として、甲状腺機能亢進症、骨の疾患(例:骨粗しょう症の治療に使われる薬物の影響)、脱水状態、利尿薬の長期使用などがあります。
高カルシウム血症の前兆や初期症状について
高カルシウム血症は軽度のものから重度のものまであり、症状もその程度によって異なります。軽度の高カルシウム血症では自覚症状がないことも多いですが、進行するとさまざまな身体の異常が現れることがあります。
- 疲労感や全身のだるさ
- 食欲不振や消化器症状
- 頻尿や喉の渇き
- 骨の痛みや筋肉の弱化
- 精神的な不調
- 心臓のリズム異常
- 副甲状腺機能亢進症のある人
- がん患者
- ビタミンDの過剰摂取者
- 慢性腎不全患者
- 定期的な健康診断
- バランスの取れた食事
- 水分補給
- 適切な治療
高カルシウム血症の初期症状として、慢性的な疲労感や全身のだるさが挙げられます。カルシウム濃度が高いと、体内のエネルギー代謝が乱れ、倦怠感を感じることがあります。
高カルシウム血症が進行すると、食欲不振や吐き気、嘔吐、便秘などの消化器症状が現れることがあります。これらの症状は、カルシウムの過剰な血中濃度が消化管に影響を与えるためです。
高カルシウム血症では、尿の排泄が増えることがあり、頻尿や喉の渇きを感じることがあります。これは、腎臓が過剰なカルシウムを排泄しようとするために起こります。多尿が続くと、脱水症状を引き起こすこともあります。
カルシウムは骨の健康に重要な役割を果たしていますが、高カルシウム血症では逆に骨からカルシウムが溶け出してしまい、骨の痛みや筋肉の弱化が生じることがあります。長期間続くと、骨が脆くなり骨折しやすくなることもあります。
高カルシウム血症は、神経系にも影響を及ぼすことがあり、混乱やイライラ、うつ症状などの精神的な不調を引き起こすことがあります。重症の場合には、意識の混濁や昏睡状態に至ることもあります。
カルシウムは心臓の収縮にも関与しているため、高カルシウム血症が進行すると、心臓のリズムが乱れることがあります。特に不整脈が現れると、命に関わるリスクが高まるため、早急な治療が必要です。
高カルシウム血症の検査・診断
高カルシウム血症の診断には、血液検査を用いて血中カルシウム濃度を測定することが一般的です。通常、血清カルシウム濃度が10.5mg/dL以上である場合、高カルシウム血症と診断されます。ただし、カルシウム濃度が高い原因を特定するために、追加の検査が行われることもあります。
血液検査
血清カルシウムの測定が最も重要な検査です。また、副甲状腺ホルモン(PTH)のレベルを測定することで、副甲状腺機能亢進症の有無を確認します。ビタミンDやアルカリフォスファターゼ、腎機能の指標となるクレアチニンなどの検査も併せて行われることが多いです。
尿検査
尿中カルシウム濃度を測定することで、腎臓がカルシウムを適切に排泄しているかどうかを確認します。また、カルシウムの排泄が異常である場合、腎臓に異常がある可能性が考えられます。
画像検査
骨の健康状態や腫瘍の有無を確認するために、X線やCT、MRIなどの画像検査が行われることがあります。特に、がんや骨の疾患が疑われる場合には、これらの画像検査が重要です。
副甲状腺の超音波検査
副甲状腺機能亢進症が疑われる場合、超音波検査で副甲状腺の腫れや結節の有無を確認することがあります。
高カルシウム血症の治療
高カルシウム血症の治療は、その原因や重症度によって異なります。一般的には、血中カルシウム濃度を正常に戻すための対症療法が行われます。
水分補給と利尿剤
軽度の高カルシウム血症では、水分補給が重要です。水分を多く摂ることで、腎臓がカルシウムを排泄しやすくなり、血中カルシウム濃度を下げる効果があります。必要に応じて、利尿剤が処方されることもあります。
ビスフォスフォネート
ビスフォスフォネートは、骨からのカルシウムの放出を抑える薬で、高カルシウム血症の治療に用いられます。特に、がんによる骨の破壊や骨転移が原因の場合には、この薬が有効です。
カルシトニン
カルシトニンは、副甲状腺ホルモンの作用を抑え、血中カルシウム濃度を下げる効果があります。急性の高カルシウム血症の治療に短期間使用されることが多いです。
副甲状腺の手術
副甲状腺機能亢進症が原因である場合、腫大した副甲状腺を摘出する手術が行われることがあります。この手術により、カルシウムの過剰分泌が抑えられ、高カルシウム血症が改善します。
その他の治療
原因に応じて、がんの治療やビタミンDの調整など、原因に対する治療が行われます。また、重度の高カルシウム血症の場合は、透析が行われることもあります。
高カルシウム血症になりやすい人・予防の方法
高カルシウム血症になりやすい人
高カルシウム血症は、特定の疾患や生活習慣によってリスクが高まることがあります。
: 副甲状腺機能亢進症を患っている人は、高カルシウム血症を発症しやすいです。
: 骨に転移するがんや、カルシウム代謝に影響を与える腫瘍を持つ患者は、高カルシウム血症のリスクが高くなります。
: サプリメントや薬物を通じて過剰にビタミンDを摂取している人は、血中カルシウム濃度が上昇しやすくなります。
: 腎機能が低下している人は、カルシウムの排泄がうまく行われず、高カルシウム血症のリスクが高まります。
予防の方法
高カルシウム血症の予防には、原因となる疾患の管理や生活習慣の改善が重要です。
高カルシウム血症の早期発見には、定期的な血液検査が役立ちます。特に、リスクが高い人は、カルシウムや副甲状腺ホルモンの値を定期的に確認することが推奨されます。
カルシウムやビタミンDの摂取は重要ですが、過剰摂取にならないようにバランスを保つことが必要です。特に、サプリメントを利用する場合は、医師の指示に従い適切な量を守りましょう。
適切な水分補給を行うことで、腎臓の機能を保ち、余分なカルシウムを排泄しやすくすることができます。特に脱水状態にならないように、こまめに水分を摂取することが重要です。
副甲状腺機能亢進症やがんなどの疾患がある場合は、適切な治療を受けることで高カルシウム血症を予防できます。持病の管理をしっかりと行い、症状が現れた際には早めに医師に相談しましょう。
以上の対策を取り入れることで、高カルシウム血症のリスクを減らし、健康的な生活を送ることができます。
参考文献