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大動脈瘤
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

大動脈瘤の概要

大動脈瘤は、主に胸部大動脈瘤(TAA)腹部大動脈瘤(AAA)、および胸腹部大動脈瘤(TAAA)に分類されます。 胸部大動脈瘤は、上行大動脈(心臓から出た直後)、弓部大動脈(大動脈の弓状に曲がった部分)、下行大動脈(胸部から腹部に至る部分)に分けられます。 腹部大動脈瘤は、腎動脈より上に発生する腎上部型と、より多くみられる腎下部型に分けられます。 胸腹部大動脈瘤は、胸部から腹部にかけてまたがる大動脈瘤で、広範囲に及ぶため特に複雑な治療が必要になります。

大動脈瘤は、血管の壁が弱くなり、膨れ上がることで形成されます。これは風船が膨らみすぎて薄くなるのと似ています。このような状態が続くと、血管の壁が破裂し、大量の出血を引き起こす可能性があります。大動脈瘤が破裂すると、迅速な医療処置が必要であり、治療が遅れると命にかかわることがあります。

大動脈瘤の原因

大動脈瘤の主な原因は動脈硬化です。動脈硬化とは、血管の内壁に脂肪やコレステロールがたまり、血管が硬くなって弾力を失う状態を指します。これにより、血管がもろくなり、大動脈瘤が形成されやすくなります。動脈硬化は年齢とともに進行し、高血圧や高コレステロール、喫煙、糖尿病などの生活習慣病が原因となります。

原因として以下が挙げられます。

  • 高血圧 血圧が高い状態が続くと、血管の壁に強い圧力がかかり、血管が傷つきやすくなります。
  • 喫煙 タバコに含まれる有害物質が血管の壁を傷つけ、動脈硬化を進行させます。
  • 遺伝性疾患 マルファン症候群(Marfan Syndrome)やエーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome)などの遺伝性結合組織疾患は、大動脈の壁が弱くなりやすく、大動脈瘤のリスクを高めます。
  • 動脈炎 大動脈炎(たいどうみゃくえん、血管の炎症)も大動脈瘤の原因となります。代表的なものに、高安動脈炎(たかやすどうみゃくえん)や巨細胞性動脈炎(きょさいぼうせいどうみゃくえん)があります。
  • 外傷 交通事故などで胸や腹部に強い衝撃を受けると、大動脈に傷がつき、それが瘤の形成につながることがあります。
これらの要因が組み合わさることで、大動脈の壁が弱くなり、大動脈瘤が形成されます。特に動脈硬化高血圧は、最も一般的なリスク要因です。

大動脈瘤の前兆や初期症状について

大動脈瘤は多くの場合、初期には症状がありません。しかし、膨れ上がった部分が大きくなると、周囲の臓器や組織を圧迫し、さまざまな症状が現れることがあります。これらの症状は瘤の位置や大きさによって異なります。

胸部大動脈瘤の場合の症状

  • 咳や呼吸困難 膨れ上がった部分が気管を圧迫するために起こります。
  • 胸の痛み 胸部や背中に痛みを感じることがあります。これは膨れ上がった部分が神経を圧迫するためです。
  • 声のかすれ 反回神経(はんかいしんけい、声帯を動かす神経)が圧迫されるため、声がかすれます。この症状は特に弓部大動脈瘤で見られます。
  • 嚥下障害 食べ物や飲み物を飲み込むのが難しくなることがあります。これは膨れ上がった部分が食道を圧迫するためです。
  • 顔面浮腫 顔が腫れることがあります。これは血管が圧迫されるためです。

腹部大動脈瘤の場合の症状

  • お腹の痛みや違和感 膨れ上がった部分が臓器を圧迫するためです。痛みはお腹の中心部や背中に感じることがあります。
  • 脈打つ塊を感じる 痩せている人では、お腹に脈打つ塊が感じられることがあります。これは瘤が大きくなり、脈動が伝わるためです。
  • 腰痛 瘤が神経を圧迫するため、腰に痛みを感じることがあります。
  • 足のしびれや冷感 瘤が血流を妨げるため、足にしびれや冷感が現れることがあります。
胸腹部大動脈瘤では、背部痛腰痛食欲低下体重減少がみられることがあります。ときに、下肢のしびれや間欠性跛行(かんけつせいはこう)といった血流障害の症状が出ることもあります。これらの症状が現れた場合、特に急に痛みが強くなったり、ショック状態(血圧低下、意識消失など)になったりした場合は、大動脈瘤の破裂を疑い、すぐに救急科を受診して緊急医療を受ける必要があります。

大動脈瘤の検査・診断

大動脈瘤の診断には、いくつかの検査が用いられます。以下に代表的な検査方法を紹介します。

胸部X線検査

胸部X線検査は、胸のレントゲンを撮影して、血管の異常を確認します。大動脈瘤が大きくなると、X線画像で異常陰影として映ることがあります。ただし、小さな瘤は見逃されることもあります。

心エコー(超音波)検査

心エコー検査は、超音波を使って心臓や大動脈の状態を調べる方法です。特に上行大動脈瘤や大動脈弁周囲の瘤の診断に有効です。経胸壁心エコー(胸の上から行う方法)や経食道心エコー(食道に挿入する方法)があります。

造影CT検査

造影CT検査は、造影剤を使ってCTスキャンを行い、血管の詳細な画像を取得します。大動脈瘤の大きさや形状、位置を正確に把握するために非常に有効です。瘤の破裂リスクを評価するためにも用いられます。

MRI検査

MRI検査は、磁気共鳴画像法を使って、血管の構造を詳しく調べます。造影剤を使わない方法や、造影剤を使用する方法があります。特に造影剤を使用する方法は、血管の詳細な画像を得るのに適しています。

その他の検査

  • 血液検査 高血圧症、脂質代謝異常、糖尿病などの動脈硬化性危険因子に対するリスク管理として重要です。
  • 血管造影検査 CT・MRI検査の進歩に伴い、必要性は減少しましたが、特定の状況では有用です。
これらの検査により、大動脈瘤の大きさや位置、形状を正確に把握します。特に造影CT検査MRI検査は、血管の詳細な画像を得るのに非常に有効です。診断が確定した場合、大動脈瘤が小さい場合は定期的な経過観察を行い、大きくなると手術を検討します。

大動脈瘤の治療

大動脈瘤の治療には、内科的治療と外科的治療の2つの方法があります。内科的治療は主に血圧の管理や生活習慣の改善を目的とし、外科的治療は瘤の破裂リスクを低減するための手術です。

内科的治療

  • 降圧療法 高血圧が大動脈瘤の進行を促進するため、血圧を適切に管理することが重要です。目標は血圧を130/80 mmHg未満に保つことです。β遮断薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などが使用されます。
  • 脂質管理 コレステロール値を適正範囲に保つことも重要です。特に動脈硬化性変化を伴う症例では、スタチンの投与が検討されます。
  • 禁煙 タバコは血管を傷つけ、大動脈瘤のリスクを高めるため、禁煙が強く推奨されます。
  • 生活習慣の改善 健康的な食事、適度な運動、ストレス管理、適切な睡眠が推奨されます。特に塩分摂取を控え、体重管理を行うことが重要です。

外科的治療

大動脈瘤の手術適応基準 腹部大動脈瘤は径が5.0~5.5cm以上になると手術が適応されます。胸部大動脈瘤は6.0cm以上が手術の一般的な目安(マルファン症候群などでは基準が異なる)です。胸腹部大動脈瘤も一般に直径が6cm以上、あるいは年間5mm以上の拡大がみられる場合に手術が検討されます。

  • ステントグラフト内挿術 カテーテルを使って血管内にステントと呼ばれる金属の筒を挿入し、膨れ上がった部分を補強します。この手術は傷が小さく、回復が早いのが特徴です。特に下行大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤に適用されます。
  • 人工血管置換術 膨れ上がった部分を人工血管に置き換える手術です。大動脈弁に問題がある場合は、弁付きの人工血管を使うこともあります(ベントール手術など)。この手術は主に上行大動脈瘤や弓部大動脈瘤に適用されます。
胸腹部大動脈瘤の治療には、オープン手術(人工血管置換)およびハイブリッド治療(分枝ステントグラフト+血行再建)が行われることがあります。TAAAは脊髄虚血による下半身麻痺などのリスクが高いため、術前・術中・術後の血行動態管理が極めて重要です。

大動脈瘤になりやすい人・予防の方法

大動脈瘤になりやすい人の特徴として、高血圧、喫煙、動脈硬化の家族歴がある人が挙げられます。また、マルファン症候群などの遺伝性疾患を持つ人もリスクが高いです。予防のためには、以下の点に注意することが重要です。

  • 健康的な生活習慣の維持 バランスの取れた食事、定期的な運動、十分な睡眠が基本です。特に野菜や果物を多く摂り、塩分を控えることが推奨されます。
  • 定期的な健康チェック 特に高血圧や高コレステロールのリスクがある場合、定期的に血圧やコレステロールのチェックを行いましょう。早期発見と早期治療が重要です。
  • ストレス管理 リラックスする時間を持ち、ストレスを溜めないようにしましょう。ヨガや瞑想、深呼吸などのリラクゼーション法が有効です。
  • 家族歴の確認 家族に大動脈瘤の患者さんがいる場合、遺伝的なリスクがあるため、医師と相談して予防策を講じることが重要です。遺伝性疾患のスクリーニングを受けることも検討してください。
  • 禁煙 タバコを吸わないことが最も重要です。既に喫煙している場合は、禁煙プログラムなどを利用して、早期に禁煙することを目指しましょう。
  • 適度な運動 過度な運動や重い物を持ち上げることは避けるべきですが、ウォーキングや軽いジョギングなどの適度な運動は血管の健康を保つのに役立ちます。
  • アルコールの摂取を控える 過度な飲酒は高血圧を引き起こす可能性があるため、適量を守ることが重要です。
大動脈瘤の予防には、生活習慣の改善定期的な健康チェックが欠かせません。自分自身のリスクを理解し、早期に対策を講じることで、大動脈瘤の発症を防ぐことができます。特に家族歴がある場合や、高血圧や動脈硬化のリスクが高い場合は、医師と相談しながら適切な予防策を講じることが重要です。

関連する病気

参考文献

  • 日本循環器学会, 日本心臓血管外科学会, 日本胸部外科学会, 日本血管外科学会:大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2020年改訂版)

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