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「エーラス・ダンロス症候群」という遺伝性疾患の症状や原因はご存知ですか?

 更新日:2023/09/28
「エーラス・ダンロス症候群」という遺伝性疾患の症状や原因はご存知ですか?

エーラス・ダンロス症候群という、あまり耳慣れない病名をご存知ですか?

エーラス・ダンロス症候群は、20世紀初頭に発見された皮膚が伸びやすい・関節の柔軟性・体内の各組織の脆弱性などの症状が現れる遺伝性疾患
です。

5000人に1人がエーラス・ダンロス症候群にかかっているとされており、日本でも指定難病に認定されています。

エーラス・ダンロス症候群は一体どのような病気なのでしょうか。ここでは、発症の原因や症状とあわせて診断方法についても解説していきます。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

エーラス・ダンロス症候群の原因と症状

落ち込む女性

エーラス・ダンロス症候群の原因を教えてください。

この疾患は、体内のコラーゲン分子やコラーゲンが成熟する過程において影響を及ぼす酵素の遺伝子に異変が生じることが原因とされています。エーラス・ダンロス症候群は1つの病型だけでなく、次のような6つの主病型に分類されます。

  • 古典型 V型コラーゲン(COL5A1、COL5A2)
  • 関節型
  • 血管型 III型コラーゲン(COL3A1)
  • 後側彎型 コラーゲン修飾酵素リジルヒドロキシラーゼ(PLOD)
  • 多発関節弛緩型 I型コラーゲン(COL1A1、COL1A2)
  • 皮膚脆弱型 プロコラーゲンI N-プロテイナーゼ(ADAMTS2)

上記の病型に併記されているのが、原因遺伝子です。これらの原因遺伝子はいずれもコラーゲンに関連するもので、この遺伝子に何らかの異変が生じることでエーラス・ダンロス症候群を引き起こしています。なお関節型については、原因遺伝子が不明とされています。

エーラス・ダンロス症候群は遺伝性疾患ですか?

エーラス・ダンロス症候群は遺伝性疾患です。古典型・関節型・血管型・多発関節弛緩型は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)で、後側彎型・皮膚脆弱型は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)に分類されます。親から引き継いだペアの遺伝子のうち、片方はその特徴が出やすい遺伝子(優性)です。
常染色体顕性遺伝では、この遺伝子に何らかの異変が起こると症状が出ます。常染色体顕性遺伝は50%の確率で病気に関する遺伝子が引き継がれます。
一方、常染色体潜性遺伝では症状の発症率が25%です。常染色体潜性遺伝の特徴としては、両親や親族にその症状が発症しなくても、子どもは遺伝性疾患の症状が出ることがあります。

どのような症状が出るのでしょうか?

エーラス・ダンロス症候群は複数の病型に分類され、症状が影響を及ぼす部位も様々です。主な病型を例に挙げてみましょう。古典型は、皮膚の過伸展性・脆弱性、関節の過伸展性がみられます。
過伸展性は伸びやすい症状のことを指しています。関節や皮膚が伸びやすく柔らかいことは、あまり深刻な状態ではないと捉えられるかもしれません。しかし関節が通常よりも柔らかいと、脱臼しやすいというのが特徴です。
また皮膚の脆弱性は、皮膚の裂けやすさ・薄い傷跡・内出血のしさすさが挙げられます。このことから、日常の行動はもちろんのこと、怪我や体調を崩した際の処置や手術などは注意深く慎重に行う必要があります。
関節型の症状は脱臼・亜脱臼・慢性疼痛といった関節の脆弱性が特徴です。血管型の症状は動脈・腸管・子宮の脆弱性・薄く透けてみえる皮膚・易出血性が挙げられます。血管型は動脈解離・ 動脈瘤・動脈破裂・腸管破裂・子宮破裂といった重篤な合併症も発生しやすいです。

エーラス・ダンロス症候群の顔の特徴はどのようなものですか?

エーラス・ダンロス症候群の中には、顔に特徴が現れやすい病型があります。特に血管型の場合は、薄い唇・小さい顎・細い鼻・大きな目といった特徴が出ます。
また顔だけでなく、手先に高齢者の手のような老人様の外観を呈する特徴が現れやすく、手指の特徴としては細長い、先細り、へら状などの所見が認められやすいです。

エーラス・ダンロス症候群の診断と治療

医師

エーラス・ダンロス症候群はどのように診断しますか?

遺伝性疾患であるエーラス・ダンロス症候群の診断方法は、最初から遺伝学的検査を行うわけではありません。まず、それぞれの病型の特徴に当てはまるかどうかの検査が行われ、そこで基準を満たすと遺伝学的検査へ進むことが多いようです。
古典型であれば、診断基準となる皮膚の過伸展性・四肢や顔の萎縮性瘢痕の程度・関節可動性の検査が行われ、ここで疑いが生じると遺伝学的検査へ進みます。いずれの病型も、それぞれの病型の症状に当てはまるかどうか確認が行われ、そのうえで生化学検査もしくは遺伝学検査へ進み、診断がくだされます。このように診断は慎重に行われるのです。

エーラス・ダンロス症候群の診療科はどこでしょうか?

エーラス・ダンロス症候群の疑いがある場合、病院ではどの科を受診すれば良いか疑問を持たれる方が多いでしょう。一番良いのは臨床遺伝科のような、遺伝子医療部門がある病院を受診することです。
また、可能であればお住まいの地域の病院で診察を受けることをおすすめします。いざ治療開始となった場合に遠方の病院ですと、通院するのが大変になるでしょう。しかし、身近に遺伝子医療の診察を行う病院が見つからないケースもあります。
その場合は一旦地域の総合病院で相談をして遺伝子医療を行っている病院を紹介してもらうとスムーズかもしれません。

治療方法を教えてください。

エーラス・ダンロス症候群の治療方法は病型にあわせて異なり、現在では対症療法となっています。古典型や関節型は皮膚や関節に伸びやすさ・柔らかさ・もろさとして症状が現れるので、それぞれの部位を保護する治療法が主流です。
古典型では、症状を悪化させないためにも激しい運動を避けたりサポーターを着用したりする予防も有効とされています。皮膚が裂けた場合は縫合が行われますが、元々皮膚が弱いので治療にも慎重な対処が必要です。
関節型の治療も補装具の使用など保護が基本となりますが、関節の保護を目的とするリハビリも行われます。また、疼痛が生じる場合は薬で緩和させることが多いです。
血管型は定期的な検査で、動脈に異常が起きていないかスクリーニングを行ったり、症状を予防する目的でβ遮断薬(セリプロロール)という薬を使用したりします。血管型は動脈破裂・腸管破裂・子宮破裂といった重篤な症状の発症が起こりえます。なお緊急時には外科的手術が行われることもありますが、なるべく組織や臓器を残す対処法を取ることが多いようです。

エーラス・ダンロス症候群の予後

診察

エーラス・ダンロス症候群の予後を教えてください。

エーラス・ダンロス症候群の予後は病型・症状の進行度合い・合併症によって違ってきます。ただいずれの病態も発症後は生涯にわたって、症状が進行するのがほとんどです。
特に関節型では進行性の全身関節弛緩で運動機能障害だけでなく、自律神経失調症・過敏性腸炎症状・慢性呼吸不全といった症状が発生しやすいです。時に寝たきりや車椅子の状態となってしまうこともあり、この疾患が発生してしまうとQOLの低下に繋がりやすいです。

エーラス・ダンロス症候群にかかると寿命に影響はありますか?

寿命については、エーラス・ダンロス症候群の病型や症状の度合いにもよるので、一概には申し上げられません。しかし血管型については、動脈解離・瘤の破裂・腸管破裂・妊娠中の子宮破裂などで死亡してしまうケースが起こっています。
海外の調査によると、生命に危険が及ぶほどの重篤な合併症が発症する確率が20歳までに25%、40歳までに80%と発表されています。血管型は比較的若年層で死亡の可能性が高くなっているようで、寿命というより、合併症の発症で生命が脅かされる危険があるのです。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

エーラス・ダンロス症候群は、その症状から日常生活に少なからず支障をきたす疾患ともいえます。発症した場合は、病気に対してご家族や周囲の理解やサポートが必要でしょう。
特に学校など団体行動が多くなりがちな若年期においては、治療や予防の点から周囲と異なる行動や身体状況になるかもしれません。外傷が発症しないよう、さらに症状が悪化しないように周囲の理解やサポートはもちろんのこと、ご自身も病気に対して理解を持って行動することが求められるでしょう。
また緊急事態が発生した時に、救急病院などすぐに受診できる医療機関を把握しておくことも大切です。

編集部まとめ

カウンセリング
ここまでエーラス・ダンロス症候群について、原因・症状・診断方法とあわせて解説してきました。

指定難病のエーラス・ダンロス症候群は、症状の度合いが比較的軽度のものから重症度の高いものまで幅があるものの、QOLの低下は免れないでしょう。

症状が発生してしまうと、行動が制限されたり症状が悪化したりしないよう気をつける必要があり、病型によっては症状による体調不良や合併症が発症します。

患者さんがQOLを保ちながら安心して日常生活を送るには、家族や身近な人たちだけでなく、一般的にこの病についての認知度をさらに上げることが必要となってきます。

この記事の監修医師