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低炭水化物ダイエットはメタボになりやすい?【医師による海外医学論文解説】

 公開日:2023/04/19

アメリカのオハイオ州立大学の研究グループが炭水化物の摂取量とメタボリックシンドロームの有病率について調べた結果、炭水化物の推奨量を下回っている人のほうがメタボリックシンドロームの発症率が高いことが明らかになったと発表しました。この研究結果は、2023年3月23日に「Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics誌オンライン版」に掲載されました。こちらの研究報告について郷医師に伺いました。


郷 正憲

監修医師
郷 正憲(徳島赤十字病院)

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徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、日本救急医学会ICLSコースディレクター、JB-POT。

研究グループが発表した内容とは?

アメリカのオハイオ州立大学の研究グループが発表した内容について教えてください。

郷正憲医師郷先生

今回紹介する研究は、アメリカのオハイオ州立大学の研究グループによるもので、Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics誌オンライン版に掲載されています。研究グループは、炭水化物の摂取量の推奨量を満たすこととメタボリックシンドロームの発症リスクの関係性について調べました。研究グループは炭水化物からのエネルギーが45%未満を「炭水化物の摂取推奨量を下回る」、炭水化物からのエネルギーが45~65%を「炭水化物の摂取推奨量を満たす」と定義しています。また、メタボリックシンドロームの診断基準はアメリカの診療ガイドラインに基づいて行われました。研究の対象になったのは20歳以上の妊娠・授乳していない1万9078例で、炭水化物摂取量が推奨量を下回ったグループと、満たしたグループの平均年齢はそれぞれ48歳でした。調査の結果、炭水化物の摂取量が推奨量を下回った人は、推奨量を満たした人に比べてメタボリックシンドロームの有病率が1.067倍高くなりました。また、炭水化物の摂取量が推奨量を下回った人は、空腹時の血清TGが上昇し、空腹時血清HDL-Cが低い確率も少なかったということです。炭水化物の摂取量が推奨量を下回ったグループでは総脂肪や脂肪酸の摂取量が多いほどメタボリックシンドロームの有病率が高くなりました。研究グループは調査の結論として、「炭水化物の摂取量が推奨値以下の人は、炭水化物の推奨値を満たしている人と比べて、メタボリックシンドローム有病者の確率が高いことがわかった」と取りまとめています。

メタボリックシンドロームとは?

今回の研究テーマになったメタボリックシンドロームについて教えてください。

郷正憲医師郷先生

メタボリックシンドロームは、「メタボ」という略称がよく話題になりますが、日本語では内臓脂肪症候群と言います。メタボリックシンドロームになると、メタボリックシンドロームではない人と比べて、2型糖尿病になるリスクは約3倍になるという研究報告もあります。また、心血管疾患をおこして死亡するリスクも約3倍になるといわれています。さらには非アルコール性脂肪肝、高尿酸血症、腎臓病、睡眠時無呼吸症候群といった病気にもつながることが指摘されています。メタボリックシンドロームの診断基準は、へその高さで腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上あることが必須項目です。これに加えて血圧が120/85mmHg以上、空腹時血糖値が110mg/dL以上、中性脂肪が150mg/dL以上かつ/またはHDLコレステロール40mg/dLといった基準のうちいずれか2つ以上があてはまると、メタボリックシンドロームと診断されます。

発表内容への受け止めは?

アメリカのオハイオ州立大学の研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。

郷正憲医師郷先生

数年前から炭水化物ダイエットと言って、炭水化物を摂取しないことによって減量効果を得るダイエットがブームになっています。たしかに炭水化物を多く摂取すると、血糖値の上昇を来し、体は栄養を体内にため込もうとして体脂肪が増えてしまいます。そのため、炭水化物を取らないようにすることで血糖値を低下させ、脂肪から栄養素を得ようとして脂肪分解が亢進し、ダイエットの効果を得るというのが炭水化物ダイエットの要旨です。しかし、脂肪が代謝されることで得られる栄養素は糖分ではなくケトン体という物質で、この物質はエネルギー源として使用はできますがエネルギー効率は悪く、また酸としても働く事から体に有害ではないかという事が言われていました。
今回発表されたこの研究は、炭水化物ダイエットのように炭水化物を全く取らない、あるいは極端に摂取量を減らすという状態ではないものの、炭水化物の摂取量が減少してしまうとメタボリックシンドロームの率が上昇するという研究結果で、炭水化物の摂取量を安易に減らす事に警鐘を鳴らしています。機序に関しては明確になっていないものの、やはり血糖値が一時的に低下することで体内のエネルギー代謝バランスが崩れた結果、種々の体内環境が異常となってしまうのではないかと考えます。無理な炭水化物制限は避けるのが無難と言えるでしょう。

まとめ

アメリカのオハイオ州立大学の研究グループが炭水化物の摂取量とメタボリックシンドロームの有病率について調べた結果、炭水化物の推奨量を下回っている人のほうがメタボリックシンドロームの発症率が高いことが明らかになったと発表しました。日本でもメタボリックシンドロームは問題視されており、40歳以上を対象に生活習慣病の予防のためにメタボリックシンドロームに着目した特定健診・特定保健指導が行われているため、今回の研究結果も注目を集めそうです。

原著論文はこちら
https://pmc.carenet.com/?pmid=36841355

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