オーストラリアのバイオテクノロジー企業Imugene社は11月12日、ウイルスによるがん治療の人体治験を、来年にも開始すると発表した。Imugene社によると、「CF33」と呼ばれるこの治療法は、すでにシャーレレベルで「あらゆる既知のがん細胞を殺す」ことに成功。また、マウス実験においても、腫瘍の縮小がみられた。
特定のウイルスががん細胞を死滅させることは、1900年の冒頭から把握されていた。狂犬病の予防接種を受けた複数の人からがん細胞が消え、寛解(かんかい)に至ったためである。しかし、がん細胞を死滅させるほど毒性の強いウイルスとなると、そのコントロールが難しい。そこで癌の専門家である米ユマン・フォン教授は、人体に無害とされ天然痘の撲滅に結びついた「牛痘(ぎゅうとう)ウイルス」に目を付けた。近代免疫学の父とも呼ばれるエドワード・ジェンナー博士に倣った形だ。そして、フォン教授設計の元、確たる治療方法として開発されているのが「CF33」となる。
「CF33」に向けて改変された牛痘ウイルスは、がん細胞の中で増殖し、がん細胞そのものを破壊。増殖した改変ウイルスは、次々に新たながん細胞へ感染していく。加えて、改変ウイルスの増殖が、免疫反応のターゲットとしても機能する。
目下の課題はウイルス耐性だ。耐性をもったがん細胞が登場した瞬間、「CF33」は無用となりえる。永遠に続く“いたちごっこ” ではあるが、治験にめどが立てば、救える命は少なからずあるだろう。