「甘いものがやめられない…」エストロゲンが影響? 女性に“甘党”が多い理由を研究で示唆

奈良女子大学の研究員らは、卵巣を摘出したラットに女性ホルモンの「エストロゲン」を補充し、甘味嗜好やエネルギー摂取への影響を調査しました。その結果、エストロゲンが甘いものを好む行動に関与している可能性が示唆されました。この研究結果について、山本医師に解説していただきました。

監修医師:
山本 佳奈(ナビタスクリニック)
研究グループが発表した内容とは?
奈良女子大学の研究員らが発表した内容を教えてください。
山本先生
日本の奈良女子大学の研究者らによっておこなわれた研究では、卵巣を摘出したラットに対して女性ホルモンのエストロゲンを補充し、甘味料や水、標準的な飼料を自由に摂取させ、その影響を調べました。
研究の結果、エストロゲンを補充したラットは、補充していないラットと比べて、人工甘味料や天然糖を含む様々な甘味料溶液をより多く摂取しました。一方で、総食物摂取量は補充群の方が少なく、特に水、スクラロース(人工甘味料)、フルクトース(天然糖)を摂取した場合にエネルギー摂取量が低下しました。また、μ-オピオイド受容体の関与を調べるためにナルトレキソンを投与したところ、補充群ではショ糖摂取量が減少し、非補充群では食物摂取量の減少がみられました。さらに、短時間の試験において、補充群の側坐核殻(報酬系や快感に関わる脳部位)でのc-Fos発現がナルトレキソンにより抑制されました。
これらの結果から、エストロゲンは甘味刺激に対する行動的選好が上がるとともに、特定の糖の摂取が摂取エネルギーを低下させる方向に働くこと、さらにμ-オピオイド受容体がこの嗜好性やエネルギー摂取の調節に関与している可能性が示唆されました。
エストロゲンが不足すると表れる症状は?
エストロゲンが不足すると表れる症状は何でしょうか? また、エストロゲンを増やす生活習慣についても教えてください。
山本先生
エストロゲンが不足すると、月経周期の乱れや月経量の変化が現れ、更年期症状や尿失禁、腟炎、性交痛などがみられるようになります。さらに、閉経後には骨粗しょう症や動脈硬化、認知障害のリスクも高まります。
エストロゲンを整えるためには、大豆製品に含まれるイソフラボンの摂取が有効とされています。また、ビタミンやミネラルを豊富に含む食品を意識的に取り入れること、良質な脂質を適量摂取することも重要です。さらに、バランスのとれた食事、適度な有酸素運動やウォーキング、ダンス、スイミングなどのリズム運動、十分な睡眠、そしてストレスの軽減といった生活習慣の見直しが、ホルモンバランスの維持に寄与します。
日々の暮らしの中で、無理のない範囲で少しずつ取り入れていくことが、エストロゲンの働きをサポートする第一歩になります。
研究内容への受け止めは?
奈良女子大学の研究員らが発表した内容への受け止めを教えてください。
山本先生
今回の奈良女子大学の研究は、エストロゲンが甘味嗜好やエネルギー摂取に与える影響を神経科学的な視点から明らかにした興味深い報告です。これまで「女性はホルモンの影響で甘いものを食べたくなる」という印象はあったものの、その背後にあるメカニズムがμ-オピオイド受容体や報酬系神経回路と関連している可能性が示唆された点は、行動科学や栄養学においても注目すべき知見だと感じました。今後、ヒトでの検証や臨床応用が進むことで、月経周期や更年期に伴う食行動の変化への理解がさらに深まることを期待しています。
編集部まとめ
奈良女子大学の研究によって、女性ホルモンのエストロゲンが甘味の好みに影響する可能性が示されました。エストロゲンが不足すると、身体の不調だけでなく心のバランスも崩れやすくなります。日々の食事や運動、睡眠、ストレス管理を通して、ホルモンの働きをサポートすることが大切です。まずは身近な大豆製品を取り入れるなど、できることから始めてみましょう。