閉経後の女性、1日1杯以上「加糖飲料」を飲むと肝がんの発症リスク増加
アメリカのサウスカロライナ大学らの研究グループは、「閉経後の女性が1日1杯以上加糖飲料を摂取すると、加糖飲料を1カ月あたり3杯以下のグループと比べて肝がんの発症や慢性肝疾患による死亡のリスクが上昇する」と報告しました。この内容について、中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
研究グループが発表した内容とは?
今回、アメリカのサウスカロライナ大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
中路先生
今回紹介するのは、アメリカのサウスカロライナ大学らの研究グループが実施した研究で、閉経後の女性を対象に加糖飲料や人工甘味料入り飲料の摂取と肝疾患との関連を検討しています。
研究グループは、1993~1998年にアメリカの医療機関40施設でWHI( Women’s Health Initiative) に登録され、2020年3月1日まで追跡した50~79歳の閉経後女性のうち、加糖飲料を摂取している9万8786人を対象に実施しました。ここに人工甘味料入り飲料を摂取している6万4787人を組み入れ、摂取量で「月に3杯以下」「週に1~6杯」「1日1杯以上」のそれぞれ3グループに分けました。ベースライン時における1日1杯以上のグループは、加糖飲料では6.8%、人工甘味料入り飲料では13.1%でした。追跡期間中に、加糖飲料を摂取している人のうち207人が肝がんを発症し、148人が慢性肝疾患で死亡しています。また、人工甘味料入り飲料を摂取していた女性では、133人が肝がんを発症し、74人が慢性肝疾患で死亡しました。加糖飲料摂取女性における肝がんの発症率は、摂取量が月に3杯以下のグループで10万人・年あたり10.3件でしたが、1日1杯以上のグループで10万人・年あたり18.0件と肝がんの発症率が有意に高くなりました。慢性肝疾患による死亡率についても、月3杯以下のグループと比べて1日1杯以上のグループでは、慢性肝疾患による死亡率が有意に高くなっています。人工甘味料入り飲料摂取の場合は、月3杯以下のグループと比べて1日1杯以上のグループで、肝がんの発症率と慢性肝疾患による死亡率に有意差はありませんでした。
肝がんとは?
肝がんについて教えてください。
中路先生
「肝がん」は肝臓にできるがんの総称です。肝細胞ががん化したものを「肝細胞がん」と呼び、肝臓の中を通る胆管ががん化したものは「肝内胆管がん」と呼びます。日本で発生する肝がんは、90%以上が肝細胞がんです。
肝細胞がんの発生はB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎などが原因で、肝臓が慢性的に炎症を起こすことや肝硬変が影響しているとされています。肝細胞がんは、多くの場合、肝臓内で再発します。ほかにも、肝がんは肝臓以外の臓器にできたがんが肝臓に転移した、転移性肝がんもあります。
2019年に日本全国で肝がんと診断されたのは、3万7296人です。肝がんは50歳代から増加し始め、80~90歳代でピークを迎えます。男女比は2:1と男性に多いのが特徴ですが、2000年以降、男女ともに罹患(りかん)率・死亡率は減少傾向がみられています。
今回の発表内容の受け止めは?
アメリカのサウスカロライナ大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。
中路先生
今回の「加糖飲料が肝がんを増やす可能性があるのではないか」という発表は、今後の肝がん患者数や医療費の抑制につながる戦略を立てるうえで大変参考になる結果であると考えます。ただし、対象が体格や食生活の異なる米国人であり、この結果をそのまま日本人に当てはめるのは困難で、今後さらなる検証が必要です。そして、対象は閉経後女性に限られており、男性や閉経前女性の加糖飲料摂取の影響は不明です。加えて、加糖飲料を飲むことが多い人は生活習慣が乱れており、それが肝がん発症につながった可能性もあります。
今回の研究において、人工甘味料に関しては加糖飲料ほど肝がんとの関連は認められませんでしたが、最近は一部の人工甘味料と発がんのリスクの可能性をWHOが公表するなど、人工甘味料とがんとの関連が示唆されています。今後、肝がんにおいても発症リスクと人工甘味料との関連を評価するための研究も必要と思われます。
まとめ
アメリカのサウスカロライナ大学らの研究グループが、「閉経後女性が1日1杯以上加糖飲料を摂取すると、加糖飲料を1カ月あたり3杯以下のグループと比べて、肝がんの発症や慢性肝疾患による死亡のリスクが上昇する」と報告したことが今回のニュースでわかりました。研究グループは更なる研究の必要性を指摘しており、今後の研究にも注目が集まりそうです。