卵巣がんの発見に「エクソソーム」活用 早期発見や治療薬開発への期待高まる
名古屋大学らの研究グループは、「卵巣がんの新規バイオマーカーとして有望な膜タンパク質を発見した」と発表しました。この内容について前田医師に伺いました。
監修医師:
前田 裕斗 医師
目次 -INDEX-
研究グループが発表した内容とは?
名古屋大学らの研究グループが発表した内容について教えてください
前田先生
今回紹介するのは名古屋大学らの研究グループが実施した研究で、「エクソソーム」と呼ばれるヒトの体液中に存在し細胞間コミュニケーションに必須の細胞外小胞に着目して、新たな卵巣がんのバイオマーカーを検討したものです。
研究グループは、卵巣がん細胞および非がん細胞、卵巣がん患者の血液や腹水から、200nm未満の小さな細胞外小胞であるエクソソームと、200nm超の細胞外小胞を同時に抽出して、タンパク質を解析しました。その結果、エクソソームと200nm超の細胞外小胞は明らかに異なる分子を搭載していることが分かりました。検証したところ、エクソソームは細胞外小胞よりもHGSOC(高悪性度漿液性卵巣がん)に特異的な膜タンパク質が高発現しており、バイオマーカーの標的として有望であることが示唆されました。また、免疫ブロット法によりエクソソームにおいてHGSOCに強く関連する膜タンパク質としてFRα、Claudin-3、TACSTD2が同定されたとのことです。
研究グループはエクソソームを捕捉する手法として、血清や腹水からエクソソームを簡易に分離できるポリケトン鎖修飾ナノワイヤを開発しています。ポリケトン鎖修飾ナノワイヤを用いた卵巣がん患者のエクソソーム解析結果から、同定した3つの膜タンパク質がそれぞれHGSOCの診断および予後予測のバイオマーカーとして有用であることが示されました。
研究グループは「細胞外小胞のバイオマーカーとしての実用化における課題であった、①細胞外小胞上の疾患関連分子の同定、②細胞外小胞の不均一性の理解③簡便な細胞外小胞捕捉法の開発について、一定の回答を提示することができた。今後さらなる検討をおこなうことで、卵巣がんエクソソームによるバイオマーカーの実現が期待される」とまとめています。
卵巣がんとは?
今回の研究対象になった卵巣がんについて教えてください。
前田先生
卵巣がんは子宮の左右にある卵巣から発生するがんのことで、2020年の罹患(りかん)者数は1万3388例、死亡者数は4876例に上ります。ほとんどのケースが進行期で診断されることから、5年生存率はⅢ期で約45%、Ⅳ期で約27%と極めて低くなっています。
乳がんの原因は腫瘍のタイプによって違いますが、ほかのがんと同じく、年代が上がるにつれて患者数が増える傾向にあります。HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)という遺伝的に乳がんや卵巣がんにかかりやすい家系の方が卵巣がん患者の約10%を占めることが分かっており、この場合は若い年代でも発症するリスクが高くなることが知られています。HBOCはBRCA1/2という遺伝子に異常があるため、乳がんや卵巣がんにかかりやすい遺伝性の疾患で、一般女性が生涯で卵巣がんを発症する確率は約1%であることに対して、HBOCの場合の確率は非常に高くなっています。2020年4月より、HBOCを対象に、RRSO(リスク低減卵管卵巣摘出術)が保険適用になっています。RRSOは、まだ卵巣がんを発症していない正常な卵巣・卵管をあらかじめ摘出しておくことで、将来の発がんを予防するための手術です。
発表内容の受け止めは?
名古屋大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。
前田先生
卵巣がんはサイレントキラーと呼ばれることもあり、初期に自覚症状が乏しく、進行してから見つかることの多いがんです。そのため、有効な検診方法が存在しておらず、その開発が待たれています。また、化学療法がほかのがんより有効なことが多いですが、それでも進行がんの5年生存率はまだまだ低いのが現状です。今回の発見がさらに応用され、卵巣がんの早期発見や新たな分子標的薬の開発につなげることができる可能性があります。また、バイオマーカーを検出するためのエクソソーム回収の技術を開発したこともポイントです。この技術が一般化されれば、検査のコストが下がることにつながります。多くの人が救われる可能性のある、将来性がある研究結果と言えるでしょう。
まとめ
名古屋大学らの研究グループが、「卵巣がんの新規バイオマーカーとして有望な膜タンパク質を発見した」と発表したことが今回のニュースでわかりました。今後さらに研究が進み、新しいバイオマーカーとして活用されることに期待が集まります。