がんの温熱療法「ハイパーサーミア」は保険適用? 費用や効果を解説
「がん細胞は熱に弱い」という特性を利用して、がん細胞を死滅させたり腫瘍を縮小させたりする効果が期待されている「ハイパーサーミア」。これからハイパーサーミアを受けてみたいと思っている人が気になるのは、なんといっても費用ではないでしょうか。保険が適用されるのであれば負担が少なくて済みますが、一体どうなのでしょうか。今回は「相武台脳神経外科」の加藤先生に教えていただきました。
監修医師:
加藤 貴弘(相武台脳神経外科)
ハイパーサーミアとは?
編集部
ハイパーサーミアとは、なんですか?
加藤先生
簡単に言えば、ハイパーサーミアとは温熱療法のことです。患部を一対の電極で挟んで、高周波の電流を当て、がんなどの腫瘍を外側から温めて治療します。高周波の電流が体の内部に流れることで発生する熱によって、患部の温度を上昇させていきます。
編集部
なぜ、患部の温度を上昇させることが、がんの治療につながるのですか?
加藤先生
がん細胞は熱に弱いという特性があり、42.5度以上になると死滅するからです。通常の細胞は温めても血流が増加して熱を拡散させるので、42.5度以上に上がることはありません。しかし、がん細胞はそうした機能を失っているので、42.5度以上に上がり、死滅していきます。
編集部
副作用の心配はないのですか?
加藤先生
副作用と言うほどでもないかもしれませんが、治療中に温度が上がると、稀に軽いやけどのような状態になることもあります。ただし、常に看護師やスタッフがそばにいるので、迅速に対処できます。
編集部
そこまで心配することはないのですね。
加藤先生
はい。基本的には副作用がほとんどないため、現在おこなっているがん治療と並行することができます。また、ハイパーサーミアは複数回おこなっても体に対する負担が少なく、大きな効果が期待できるとして昨今とても注目を集めている治療法なのです。
ハイパーサーミアの効果
編集部
ハイパーサーミアによって、どのような効果が得られるのですか?
加藤先生
がんには、腫瘍が存在する深度によって浅在性のものと深在性のものがあります。いずれの場合も、ハイパーサーミアをおこなうことで、がん細胞を死滅させることを目標としています。しかし、腫瘍が体の深いところにある深在性の場合、熱がそこまで行き届かず、42.5度に満たないこともあります。ただ、42.5度に満たなくても抗がん剤や放射線治療など、普段おこなっている治療の効果を高めることがわかっています。
編集部
ハイパーサーミアをおこなえば、がんを克服できるのですか?
加藤先生
結論から言えば、ハイパーサーミアの治療だけでがんを克服することはできません。しかし、ハイパーサーミアはがん細胞を縮小させたり、抗がん剤や放射線治療など普段おこなっている治療の効果を増加させたりすることが期待できます。「がん治療の補助的な役割を担っているのがハイパーサーミア」と言えば伝わりやすいでしょうか。
編集部
ほかの治療と組み合わせて、いわば総力戦でがんと戦うということなのですね。
加藤先生
はい。がん治療はどうしても長期戦になりがちです。そのなかで、体への負担を極力減らし、がんと戦い続けるためには、体全体の調子を整えることを考えなければなりません。当院では、一つの方法でがんを治すのではなく、あらゆる手立てを講じてがんと戦うことをコンセプトにしており、そういう意味でハイパーサーミアは非常に頼もしい存在と言えるでしょう。
編集部
どの種類のがんにも効くのですか?
加藤先生
基本的に、ほとんどのがんが治療対象になります。私が患者さんにご説明するときは、「乳がんや胃がん、肺がんなど、“塊があるがん“が対象です」と説明しています。ただし、脳、眼球、血液疾患は対象外となります。
編集部
そのほか、どのような効果が得られますか?
加藤先生
なにより患者さんに喜ばれるのは、「抗がん剤の副作用が軽減される」ということでしょうか。また、ハイパーサーミアを組み合わせることによって、抗がん剤の量を減らすことができるのも効果と言えるでしょう。加えて、痛みの緩和や食欲増進、体力の回復、よく眠れるなど、QOL(生活の質)の改善も実感いただいています。
ハイパーサーミアの治療回数は?
編集部
どれくらいの頻度でハイパーサーミアを受ければいいのですか?
加藤先生
基本的には1週間に1回、治療のために来院していただきます。なお、1回あたりの治療時間は、だいたい40分〜1時間です。
編集部
ハイパーサーミアは保険適用になるのでしょうか?
加藤先生
治療の回数に制限はありますが、基本的には保険適用となります。保険が適用になるのは2カ月で8回の治療までです。その制限を超えて治療を受ける場合は、基本的に自由診療になります。ただし、経過によっては最大で3クールまで保険で治療可能な場合もあります。医療機関によって1クールの期間や回数が異なるので、事前に費用や期間などを確認しておきましょう。
編集部
保険適用を前提として、自己負担はどれくらいになりますか?
加藤先生
腫瘍が浅在性か深在性かによって治療費が異なります。自己負担割合が1割だと、浅在性の腫瘍の場合6000円、深在性の腫瘍の場合は9000円となります。これらはいずれも2カ月8回分の治療費です。なお、原則として治療費は初回にまとめてお支払いいただいています。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
加藤先生
現在、がんの治療は「手術」「抗がん剤」「放射線」が中心です。言い換えれば、これらが「前線の治療」であり、これらの治療が成功するかにどうしても集中しがちです。しかし本来、前線の戦いが有利に進むためには、バックヤードが充実していなければなりません。がん治療でいうバックヤードとは、全身のコンディションのことです。バックヤードを充実させるには、栄養補給や免疫力アップ、副作用の軽減、体質改善などが必要になります。バックヤードがいかに充実しているかによって、前線の戦い方も変わってきますし、バックヤードの体制が整っていれば前線も優れた力を発揮することができるでしょう。つまり、がんと戦うための戦略を考えるには、「前線」と「バックヤード」の、2つの視点を持たなければならないと考えます。その意味で、ハイパーサーミアはバックヤードを整えるのに非常に優れた治療法です。現在がん治療をおこなっている人は、ぜひご検討いただきたいと思います。
編集部まとめ
基本的にハイパーサーミアは、保険適用になるとのことでした。受ける人のなかにはハイパーサーミアの治療によって体調が大きく改善して、自費で治療を続けている人も少なくありません。ハイパーサーミア単体でがんを克服することはできませんが、長期にわたるがん治療におけるサポート役としては非常に優れています。興味があれば、まずは保険の適用範囲内で治療を受けてみて、効果を実感してみてはいかがでしょうか。
医院情報
所在地 | 〒252-0324 神奈川県相模原市 南区相武台1丁目23−9 |
アクセス | 小田急線「相武台前駅」 徒歩4分 |
診療科目 | 脳神経外科 |