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「リンパ浮腫」の初期症状はご存じですか? なりやすい人の特徴・4つの治療法も医師が解説!

 公開日:2025/07/04

リンパ浮腫」は、体のリンパ液の流れが滞ることで生じるむくみの一種です。特に、がん治療後の患者さんに多くみられますが、そのほかの要因でも発症することがあります。今回は、リンパ浮腫が起こるメカニズムや症状、放置することの危険性について、「キャンサーコンパスクリニック」の和田先生に解説していただきました。

和田 仁

監修医師
和田 仁(キャンサーコンパスクリニック)

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東北大学医学部卒業。その後、東北大学医学部放射線医学講座入局、いわき市立総合磐城共立病院(現・いわき市医療センター)、竹田綜合病院、山形市立病院済生館などで経験を積む。山形大学医学部准教授、宮城県立がんセンター放射線治療科診療部長、南東北がん陽子線治療センター副センター長などを歴任。2021年、宮城県仙台市に「キャンサーコンパスクリニック(旧・がんコーディネートくりにっく)」を開院。医学博士。日本放射線腫瘍学会専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。

リンパ浮腫の原因

リンパ浮腫の原因

編集部編集部

まず、リンパ浮腫について教えてください。

和田 仁先生和田先生

リンパ浮腫とは、リンパ液の流れが滞ることで組織に余分な水分が溜まり、慢性的なむくみを引き起こす病態です。主に四肢(腕や脚)に生じやすく、進行すると皮膚が固くなったり、皮膚やその下の組織が細菌感染を起こす「蜂窩織炎」のリスクが高まったりします。

編集部編集部

どのようなメカニズムで起こるのでしょうか?

和田 仁先生和田先生

リンパ管は体内の余分な水分や老廃物を回収し、血液循環に戻す役割を担っています。しかし、リンパ節を手術で取り除いたり傷ついたりすると、リンパ液が溜まりむくみが発生するのです。

編集部編集部

リンパ浮腫が起こりやすい人の特徴はありますか?

和田 仁先生和田先生

がんの手術や放射線治療を受けた人に多くみられます。特に乳がんや婦人科がん、前立腺がんの治療でリンパ節を切除した場合、リンパの流れが悪くなり発症しやすくなります。厚生労働省の研究によると、「国内における婦人科がん術後の下肢リンパ浮腫の発生割合は28%」と、3~4人に1人はリンパ浮腫になっていることがわかります。術後に放射線治療などをおこなうとリスクがさらに高まると報告されています。また、外傷や先天的なリンパ管の異常によっても発症することがあります。

編集部編集部

リンパ浮腫の初期症状には、どのようなものがありますか?

和田 仁先生和田先生

初期段階では、皮膚が軽く腫れたり、重だるさを感じたりする程度です。リンパ管機能不全などによるごく軽度の腫れやむくみなので、気がつかないことも多くあり、指で押した跡や靴下の跡が消えにくいことで、違和感を覚える人もいらっしゃいます。進行すると、むくみが持続し、皮膚の質感が変化していきます。

リンパ浮腫は放置していても大丈夫?

リンパ浮腫は放置していても大丈夫?

編集部編集部

リンパ浮腫と普通のむくみは、どう違うのでしょうか?

和田 仁先生和田先生

一般的なむくみは、長時間の立ち仕事や塩分の摂取量が多いなどで一時的に起こることがありますが、要因が解消されると徐々に軽減していきます。しかし、リンパ浮腫は慢性的に続き、適切なケアをしない限り自然に改善することはほぼありません。

編集部編集部

リンパ浮腫を放置するとどうなりますか?

和田 仁先生和田先生

放置すると皮膚が硬化し、慢性的な炎症を引き起こすことがあります。さらに進行すると、感染症やリンパ管の閉塞が起こり、より重篤な状態になることもあります。また、むくみによる圧迫や血流不良などにより静脈に血栓ができる、いわゆる「エコノミークラス症候群」が起こることもあります。リンパ浮腫は早期に発見し、対処することが大事です。

編集部編集部

どうしたら、早期に気がつくことができますか?

和田 仁先生和田先生

初期の症状では気づくのが難しかったり、むくみ自体に気がついていても、普通のむくみと区別がつかなかったりすることがあります。見分け方として、特にがん治療後のリンパ浮腫は、治療を受けた側の腕や脚に発生することが一般的なので、むくみに左右差があった場合などは注意が必要です。がん治療を受けたことがある人は、手や足の決まった場所の周経(太さ)をときどき測ることもおすすめです。

編集部編集部

リンパ浮腫の予防はできますか?

和田 仁先生和田先生

100%防ぐことは難しいですが、手術後の早い段階から適切なケアをおこなうことで、発症リスクを減らすことができます。特に、体重管理などの肥満予防や、感染対策をはじめとする皮膚のセルフケアが大切です。また、最近では「リンパ浮腫発症予防には、上肢への弾性着衣装着が有効」という報告もあります。

リンパ浮腫の治療法

リンパ浮腫の治療法

編集部編集部

リンパ浮腫の疑いがあった場合、何科を受診すればいいですか?

和田 仁先生和田先生

一般的には、がん治療を受けた病院の主治医や形成外科、可能であればリンパ浮腫専門の医療機関を受診するのがいいでしょう。がんの治療後、10年以上経ってからリンパ浮腫を発症することも珍しくありません。症状がある場合は、早めの受診をおすすめします。

編集部編集部

リンパ浮腫の治療には、どのような方法がありますか?

和田 仁先生和田先生

圧迫療法(弾性ストッキングやスリーブ)」「リンパドレナージ(専門的なマッサージでリンパの流れを良くする施術)」「圧迫した状態での運動療法」「スキンケア」の4つが一般的な治療法です。進行した場合には、手術を検討することもあります。

編集部編集部

生活習慣で気をつけることはありますか?

和田 仁先生和田先生

適度な運動を心がけてリンパの流れを良くし、体重を管理して肥満を予防することが大切です。また、傷や感染を防ぐために肌の保湿や感染対策をしっかりおこなったり、リンパ浮腫をはじめとするむくみ全般の予防や解消に効果のある弾性着衣を取り入れたりするのも効果的です。特に気をつけなければならないのは感染で、ちょっとした傷や虫刺されから、蜂窩織炎になってしまうこともあるので注意が必要です。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

和田 仁先生和田先生

リンパ浮腫を専門的に診療できる医療機関は全国的に少なく、特に大都市以外では十分なフォローを受けられる医療機関が限られているのが現状です。そのため、患者会などの交流の場を活用することも有用です。抗がん剤の影響で皮膚が硬くなったり、むくみが生じたりする人も少なくありません。また、心疾患や静脈瘤など、リンパ浮腫以外の原因でも浮腫が起こることがあるため、「ただのむくみ」と軽視せず、適切な診察を受けることが大切です。治療法として手術もありますが、圧迫療法・リンパドレナージ・運動療法・スキンケアの4つを併用することが基本であり、これによって効果を持続させることが期待できます。自分でケアを続けることが大事で、症状の悪化や再発に早く気づき、適切な対処ができるようになります。

編集部まとめ

リンパ浮腫は専門的に診療できる医療機関が少なく、特に大都市以外では十分なフォローを受けにくいのが現状とのことでした。また、むくみの原因はリンパ浮腫だけでなく、抗がん剤治療の影響や心疾患、静脈瘤など様々です。「ただのむくみ」と軽視せず、むくみが気になる人は、お近くの医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。

医院情報

キャンサーコンパスクリニック

キャンサーコンパスクリニック
所在地 〒980-0804 宮城県仙台市青葉区大町2丁目3-23 駒井ビル5階
アクセス 仙台市地下鉄東西線「大町西公園駅」 徒歩1分
診療科目 腫瘍放射線科

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