心が疲れたら「日本庭園」を観に行こう “ストレス軽減効果”が科学的に実証 長崎大

長崎大学の研究員らは、日本庭園の鑑賞が生理的・心理学的ストレス指標の軽減にどのような役割を果たすのか調査しました。その結果、庭園鑑賞中には脈拍数が有意に低下し、気分の改善がみられるなど、心身のストレス軽減に寄与する可能性が示されました。特に、庭全体をゆるやかに見渡すような「視線の動き」がリラックス効果と関係していることが明らかになりました。この研究内容について、日浦医師に解説していただきました。

監修医師:
日浦 悠斗(医師)
研究グループが発表した内容とは?
長崎大学の研究員らが発表した日本庭園に関する研究内容を教えてください。
日浦先生
この研究は、長崎大学やアメリカのピッツバーグ大学の研究員らによる共同研究として実施され、日本庭園の鑑賞中における眼球運動が、生理的・心理的ストレスの軽減にどのように関与しているかの解明を目的としています。実験は2025年春、京都市にある明治期の名庭「無鄰菴」を使用し、その対照として手入れのされていない別の庭園が用いられました。参加者は大学生16名で、脈拍数と眼球の動きを計測しながら、それぞれの庭園を鑑賞しました。なお、心理面の変化は「POMS2」という気分尺度やアンケートを通じて評価されました。
その結果、無鄰菴では脈拍数が有意に低下し、参加者の気分も改善する傾向が確認されました。また、視線は庭全体を広くかつ速く移動しており、この眼球運動の特徴がストレス軽減と関連していることが示唆されました。興味深いのは、注視対象そのものよりも「どのように視線が動くか」が効果に影響を与えている点で、これはPTSDの治療で知られる「EMDR療法」との類似性も指摘されています。
本研究は、日本庭園のデザインが心身の健康に与える影響を科学的に示した貴重な報告と言えるでしょう。
日本庭園とストレス軽減の関連についての医師の見解
長崎大学の研究員らが発表した内容についての受け止めを教えてください。
日浦先生
日本庭園という文化的・自然的要素を含んだ空間が、生理的(脈拍)および心理的(POMS2による気分)ストレス指標の改善に寄与する可能性を示唆しており、非常に意義深い研究結果です。特に、「視線の移動(眼球運動)」とストレス軽減の関連が示された点は注目に値します。これは従来の静的な癒し効果(景観や緑の視覚刺激)に加えて、視覚処理の動的特性が心理的調整に影響を与える可能性を示しており、PTSD治療のEMDR療法と構造的に重なるという指摘は非常に興味深いと感じました。サンプル数は限られていますが、実環境を用いた実証研究として、都市計画・環境心理学・精神医学の橋渡し的な意義もあるのではないかと思います。
研究結果は今後どのように活用できそうか?
今回の研究結果は、今後どのように活用できるでしょうか?
日浦先生
- 精神的ケアの新たな選択肢としての「自然療法」強化
- デジタルツールへの応用
- 精神療法への間接的応用
自然に接することで心が安らぐことは経験的に知られていますが、本研究のように視線行動と生理反応を通じた客観的データが得られたことにより、自然療法の科学的根拠が強化されました。
高齢者施設や病院の庭園設計、学校・職場のメンタルヘルス空間づくりなどにも応用できる可能性を感じました。
日本庭園のような環境の映像コンテンツをVR(仮想現実)やデジタルEMDR療法に組み込むことで、外出困難な人でも自宅でストレス緩和効果を得る可能性があります。オンラインメンタルケアの素材としての応用も期待できると思います。
視線の動きと情動調整との関係に着目することで、従来の認知行動療法やマインドフルネスに「視覚的注意の方向性」や「視覚探索の意識化」といった新しい要素を取り込める可能性もあります。
編集部まとめ
この研究は、日本庭園を鑑賞することで、心と体のストレスが和らぐことを示しています。美しい景色を眺めながら、視線の動きや場所に注意を向けることが、リラックスや気分の改善につながります。日常生活では、公園や庭園を訪れる時間を増やすことで、気持ちが落ち着き、ストレスの解消に役立ちます。忙しい毎日でも、自然の中に身を置く習慣を作ることで、心の健康を保つ工夫をしてみてはいかがでしょうか。