「パーキンソン病」リスクは“農薬の曝露”で増加か 発症しやすい人の特徴を医師が解説

ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は、パーキンソン病と農薬曝露の関連についての意見書を発表しました。調査では、農薬とパーキンソン病の関係について、疫学的研究と生物学的作用機序の観点から分析がおこなわれています。この内容について五藤医師に伺いました。

監修医師:
五藤 良将(医師)
研究グループが発表したパーキンソン病に関する研究内容とは?
ドイツ連邦リスク評価研究所が発表した内容を教えてください。

ドイツ連邦リスク評価研究所が発表した農薬曝露とパーキンソン病との関連性に関する意見書では、パーキンソン病がゆっくりと進行する神経変性疾患であり、神経伝達物質であるドーパミンを生成する脳細胞の死滅によって引き起こされることが説明されています。加齢や遺伝的要因に加え、環境や食物の影響もパーキンソン病のリスク要因として考えられており、農薬もその一因である可能性が指摘されています。
この調査では「農薬とパーキンソン病」に関する約250の学術文献を精査し、農薬曝露が病気の発症を促進するかどうかを検討しました。その際、農薬曝露群と非曝露群の発症率を比較する疫学的研究の評価と、特定の農薬がパーキンソン病の発症を誘発するかを分析する生物学的作用機序の調査がおこなわれました。調査では「パラコート」「マンネブ」「ロテノン」といった農薬のほか、ヘロイン代替物の副産物である「MPTP」についても考察されました。MPTPは、薬物依存者にパーキンソン病の症状を引き起こすことが知られており、化学物質がパーキンソン病の発症に関与する可能性を示唆しています。
疫学的調査の結果では、農薬曝露とパーキンソン病との関連性が示唆されました。しかし一方で、個々の農薬や複数の農薬の組み合わせが明確に発症原因であると特定することはできませんでした。また、個別の農薬がドーパミンの供給に影響を与える可能性はあるものの、実験的なデータからは農薬曝露がパーキンソン病を引き起こす生物学的妥当性を十分に証明するには至らなかったため、「現時点では農薬曝露とパーキンソン病発症の因果関係は証明できない」と結論づけられました。
この調査結果は、イギリスの医学研究審議会環境保健研究所および国立環境毒性学研究センターの見解とも一致しています。しかし、農薬曝露とパーキンソン病との関連が示唆されている以上、さらなる研究が必要であり、農薬の影響について慎重な検討が求められます。
パーキンソン病になりやすい人の特徴は?
パーキンソン病になりやすい人の特徴について教えてください。また、パーキンソン病を疑う前兆についても教えてください。

パーキンソン病になりやすい人の特徴として、真面目で几帳面、融通がきかない性格の人が挙げられます。また、喫煙者には少ないことも知られています。発症の主な年齢層は中年以降で、男女を問わずみられますが、日本では10万人に約70人程度とされ、欧米よりやや少ない傾向があります。
パーキンソン病の前兆としては、手足の震えや動作の緩慢化、歩行時の手の振りの減少などが挙げられます。また、表情が乏しくなる仮面様顔貌や、声が小さく単調になる変化がみられることもあります。そのほかにも、便秘や頻尿、起立性低血圧といった自律神経の異常が早期のサインとなることがあります。症状には左右差がみられることが多く、片側の手足の震えや動かしにくさが初期症状として表れる場合もあります。もし、このような症状に気づいた場合は早めに神経内科を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。
パーキンソン病に関する研究内容への受け止めは?
ドイツ連邦リスク評価研究所が発表した内容への受け止めを教えてください。

ドイツ連邦リスク評価研究所の報告は、農薬曝露とパーキンソン病との関連性について非常に慎重な分析をおこなっており、疫学的研究と生物学的メカニズムの両面から考察されている点は評価できます。特に、パラコートやロテノンといった農薬が神経毒性を持つことが知られている中で、パーキンソン病との因果関係を明確に証明するには至らなかったという結論は妥当なものであると考えます。
現時点では、農薬曝露とパーキンソン病の発症を直接結びつける決定的な証拠はないものの、多くの研究でリスクの増加が示唆されているため、曝露の低減策を講じることが重要です。特に、農業従事者や農薬を日常的に扱う人々は、適切な防護措置を取ることでリスクを最小限に抑えるべきでしょう。また、パーキンソン病のリスク因子には遺伝的要因や生活習慣も関与しており、バランスの取れた食事や適度な運動、ストレス管理など、総合的な健康維持が予防の観点からも重要です。今後、さらなる研究が進むことで、より明確な因果関係の解明やリスク低減のための具体的な指針が示されることを期待します。
編集部まとめ
病気のリスクを減らすためには、普段の生活で健康的な食生活を心がけ、適度な運動をおこなうことが大切です。また、農薬に触れる機会がある場合は適切な対策を取りましょう。もし気になる症状があれば、早めに専門医に相談することが重要です。