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糖尿病薬で“老化細胞の除去”に成功! フレイル改善・寿命延長効果もマウス実験で確認 順天堂大

 公開日:2024/06/16

順天堂大学らの研究グループは、「マウスに糖尿病治療薬を投与したところ、加齢に伴って蓄積される老化細胞を除去する効果を発見した」と発表しました。この内容について中路医師に伺いました。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

研究グループが発表した内容とは?

順天堂大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回紹介する研究は順天堂大学らの研究グループが実施したもので、研究結果は学術誌「Nature Aging」に掲載されています。

研究グループは、「カロリー制限によって寿命が延長すること」と「カロリー制限によって寿命が延長した個体では加齢に伴う老化細胞の蓄積が抑制されていること」の2つの観点に着目して今回の研究を実施しました。研究グループは、肥満状態になったマウスに対して、尿への糖の排出を促進することで血糖を低下させる糖尿病治療薬「SGLT2阻害薬」の投与を1週間おこないました。

その結果、内臓脂肪に蓄積した老化細胞が除去されるとともに内臓脂肪の炎症が改善し、糖代謝異常やインスリン抵抗性の改善がみられました。一方で、肥満マウスに対して短期間のインスリン投与で高血糖を改善しても、内臓脂肪に蓄積した老化細胞は除去されず、内臓脂肪の炎症も改善しませんでした。こうした結果から「SGLT2阻害薬による老化細胞除去効果は、血糖値の改善とは関連なく、特有の効果である」という結論が導かれました。また、SGLT2阻害薬の投与によって、加齢に伴うフレイルの改善や早老症マウスの寿命の延長などを観察することもできました。

研究がおこなわれた背景は?

今回の研究がおこなわれた背景について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

加齢や肥満などの代謝ストレスによって、生活習慣病やアルツハイマー病などの加齢関連疾患が発症・進展することが知られているものの、その仕組みはよくわかっていなかったことが研究の背景として挙げられます。研究グループは、これまで30年以上、加齢に関連する疾患の発症メカニズムについて研究を進めてきており、加齢やストレスによって組織に老化細胞が蓄積され、その結果引き起こされた慢性炎症が、加齢に関連する疾患の発症・進展に関わっていることを明らかにしています。

最近では、蓄積した老化細胞を除去する「セノリシス」で、加齢関連疾患における病的な老化形質を改善し得ることが示されています。しかし、これまで報告されている老化細胞除去薬は抗がん剤として使用されているものが多く、副作用の懸念がありました。

研究グループは、より老化細胞に作用し、副作用の少ない治療法の開発を目指して研究をおこなう中で、SGLT2阻害薬を用いた実験にたどり着きました。

研究グループが発表した内容への受け止めは?

順天堂大学らの研究グループによる発表への受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回の研究結果で特記すべきは、既存の糖尿病治療薬を用いて老化細胞を除去する効果を基礎研究で証明したことであり、今後の人への応用研究で老化に関わる難治性疾患の治療薬や、安価で副作用の少ない老化予防の薬の開発につながる可能性がある点です。臨床において、SGLT2阻害薬は血糖値の改善のみならず、心不全の治療・腎臓の保護効果・脂肪肝の改善などの様々なエビデンスが蓄積されてきており、大変興味深い薬剤であると考えます。この分野でのさらなる研究が期待されます。

まとめ

順天堂大学らの研究グループは、「糖尿病治療薬をマウスに投与したところ、加齢に伴って蓄積される老化細胞を除去する効果を発見した」と発表しました。これまでの老化細胞除去薬は抗がん剤として使用されているものが多かったため、副作用が懸念されていましたが、今回の実験で用いられたSGLT2阻害薬は抗がん剤と比べて副作用の懸念も少ない治療薬となります。今後のヒトへの臨床応用にも期待が集まりそうです。

この記事の監修医師