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糖尿病網膜症の治療方法を症状や進行状況別に解説

 更新日:2023/03/27

「糖尿病腎症」や「糖尿病神経障害」と並んで、糖尿病の三大合併症に位置づけられている「糖尿病網膜症」。症状が進むと、失明する可能性もある怖い病気です。症状を進めないように、適切な治療を早めにおこなうことが大切ですが、一体どのような治療法があるのでしょうか。今回は、糖尿病網膜症の治療経験が豊富な「イセザキ眼科医院」の杉本先生にお話を伺いました。

杉本 哲理先生

監修医師
杉本 哲理(イセザキ眼科医院 院長)

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獨協医科大学医学部卒業。その後、複数の大学病院で眼科医として経験を積む。2018年、神奈川県横浜市中区に位置する「イセザキ眼科医院」の院長に就任。来院した患者さんが、自分の病気を理解して治療に満足し、笑顔で帰れるような治療を心がけている。神奈川県眼科医会理事、横浜市眼科医会常任理事。難病指定医。日本眼科学会CTR認定医。日本糖尿病眼学会、日本網膜硝子体学会、日本白内障屈折矯正手術学会、日本緑内障学会の各会員。

糖尿病の三大合併症の1つ「糖尿病網膜症」

糖尿病の三大合併症の1つ「糖尿病網膜症」

編集部編集部

まず、糖尿病網膜症について教えてください。

杉本 哲理先生杉本先生

糖尿病によって起こる合併症には色々な種類がありますが、糖尿病網膜症は三大合併症に位置づけられるほど代表的な合併症です。網膜の毛細血管が詰まったり、出血を起こしたりすることで、映像を映し出す役割をもつ網膜が機能不全となり、やがて失明に至るケースもある怖い病気です。

編集部編集部

糖尿病網膜症になると、どのような症状が出るのでしょうか?

杉本 哲理先生杉本先生

糖尿病網膜症は、進行度合いによって三段階にわけられます。しかし、初期の「単純糖尿病網膜症」や、中期の「前増殖糖尿病網膜症」ではまだ自覚症状がありません。目の検査をすると細い血管の壁が盛り上がって毛細血管にコブができていたり、網膜出血や白斑が起きていたりする程度で自覚症状がないため、気づいたら症状が進んでいたということも少なくありません。

編集部編集部

自覚症状があるのは、いつ頃からですか?

杉本 哲理先生杉本先生

病気が進んで末期になると、様々な自覚症状が現れます。末期のことを「増殖糖尿病網膜症」といいます。

増殖糖尿病網膜症の治療はどのように進める?

増殖糖尿病網膜症の治療はどのように進める?

編集部編集部

末期になると、どのような症状が起こるのですか?

杉本 哲理先生杉本先生

末期になると、視力低下や飛蚊症などの症状が出ることがあり、最悪の場合は失明することもあります。

編集部編集部

「血管が新しく作られる」とは、どういうことですか?

杉本 哲理先生杉本先生

糖尿病の人の血液は糖を多く含むため、固まりやすくなっています。網膜の毛細血管が詰まり、糖尿病網膜症を起こすのもそのためです。血管が詰まると細胞に酸素や栄養素が行き届かなくなるので、周辺の組織は新しい血管を作り出そうとします。こうして生まれるのが新生血管です。しかし、新生血管は破れやすく、出血しやすいという性質を持っています。そのため、硝子体出血を起こして、視力低下や飛蚊症を引き起こすのです。

編集部編集部

失明するのはなぜですか?

杉本 哲理先生杉本先生

血管が新しく作られると、血管の周辺に「増殖膜」と呼ばれる組織が作られます。この増殖膜が網膜を引っ張ることで網膜剥離を起こしたり、新生血管が隅角に生えることで眼圧が上昇し、血管新生緑内障をきたすことによって最終的には失明に至ります。

編集部編集部

糖尿病網膜症は、どのように治療するのでしょうか?

杉本 哲理先生杉本先生

初期段階であれば、血糖値のコントロールをするだけで、網膜出血が改善することもあります。しかし、中期以降になると、レーザーによる治療が必要になります。末期では、網膜剥離や内服で改善のない硝子体出血および点眼や硝子体注射でコントロール不能な血管新生緑内障の場合、手術をすることもあります。

編集部編集部

症状や進行状況に応じて、治療を選択するのですね。

杉本 哲理先生杉本先生

そうです。また、糖尿病網膜症の合併症の1つに、「糖尿病黄斑浮腫」という病気があります。黄斑は、網膜の中央にあり、モノを見る時に重要な役割を果たす部位です。糖尿病黄斑浮腫になると黄斑がむくんで、初期の段階でもモノが歪んで見えたり視力が落ちたりすることがあります。この場合は、一般的にはむくみを抑える内服や点眼治療に加え、VEGF阻害剤やステロイド薬を注射します。施設によっては、専門的な治療として「毛細血管瘤光凝固術」や「硝子体手術」をおこなうこともあります。

糖尿病網膜症のレーザー治療とは?

糖尿病網膜症のレーザー治療とは?

編集部編集部

糖尿病網膜症のレーザー治療とは、どのようなものですか?

杉本 哲理先生杉本先生

簡単に言えば、新生血管が作られないようにしたり、黄斑浮腫を抑えたりするための治療です。具体的には、高血糖により傷んだ網膜や毛細血管瘤に特殊なレーザーを照射し、焼いて凝固させることで、糖尿病網膜症や黄斑浮腫の進行を予防します。

編集部編集部

レーザー治療は、どの段階でおこなうのでしょうか?

杉本 哲理先生杉本先生

病状が進んでいて網膜に血流がない場合や新生血管がある場合、また黄斑浮腫がレーザー治療をおこなわなければなりません。ただし、レーザー治療をすると、かえって視界が暗く見えたり、視力が低下したりすることもあるので、「処置が早ければ早いほどいい」というわけではありません。そのため、治療のタイミングを見極めることが大切になります。

編集部編集部

レーザー治療でも難しい場合は、どうするのですか?

杉本 哲理先生杉本先生

硝子体出血が濃厚でレーザーが難しい場合や増殖膜による網膜剥離が起こっている場合には、硝子体手術をする必要があります。硝子体手術は、直接、硝子体中に硝子体カッターを入れて血液を取り除き、網膜剥離が起きている場合は剥がれた網膜を元に戻します。

編集部編集部

それでも改善しない場合は、失明という事態になってしまうのですね。

杉本 哲理先生杉本先生

はい。糖尿病網膜症による失明は、成人が失明する原因の第2位です。しかし、初期から中期の段階では自覚症状がないため、発見が遅れるということも少なくありません。そのため、糖尿病と診断されたら、定期的に眼科で目の状態を確認してもらう必要があります。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

杉本 哲理先生杉本先生

糖尿病網膜症は初期症状がほとんどなく自覚しづらいため、目が見づらくなってようやく受診し、手遅れになった人も少なくありません。そのため、糖尿病と診察されたら、できるだけ早めに眼科を受診してください。そして、その後もかかりつけ医の指示に従って定期的に受診し、いち早く糖尿病網膜症の進行に気づくことが大切です。また、治療方法によって、視力の回復や予後が大きく変わることがあります。そのため、初期の段階から糖尿病網膜症専門の医師に診てもらうなど、専門性の高い治療を受けるようにしましょう。

編集部まとめ

現在、日本では糖尿病の患者数は年々増加しており、糖尿病網膜症を発症する人も増加傾向にあります。糖尿病とはっきり診断されていなくても、「糖尿病予備軍」の人や普段から血糖値が高めの人、年1回の健診を受けていない人、身内が糖尿病と診断された人などは要注意です。糖尿病網膜症などの合併症に対する危機感をもっておきましょう。

医院情報

イセザキ眼科医院

イセザキ眼科医院
所在地 〒231-0048 神奈川県横浜市中区蓬莱町3丁目110
アクセス 横浜市営地下鉄ブルーライン「伊勢佐木長者町駅」 徒歩1分
JR京浜東北線「関内駅」 徒歩5分
京浜急行本線「日ノ出町駅」 徒歩8分
診療科目 眼科

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