【世界初!】ブタの腎臓を生きた患者に移植成功 執刀医「将来は人工透析なくなる可能性」
アメリカのマサチューセッツ総合病院の研究グループは、「腎臓病の患者に遺伝子操作をおこなったブタの腎臓を移植したところ、移植後も順調に回復している」と発表しました。生きた患者へのブタの腎臓移植は世界で初めてのことです。この内容について甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
研究グループが発表した内容とは?
アメリカのマサチューセッツ総合病院の研究グループが発表した内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回の移植手術を実施したのは、アメリカのマサチューセッツ総合病院の研究グループです。移植されたブタの腎臓は、アメリカのバイオ企業であるイージェネシスが提供しました。提供された腎臓は、拒絶反応を起こす遺伝子が取り除かれ、感染症を引き起こす恐れのある特定のウイルスを不活性化させるなど、移植に際したリスクを抑制するようにされています。
研究グループは、2024年3月16日、腎臓病の男性患者であるリチャード・スレイマンさん(62歳)に、この遺伝子操作したブタの腎臓を移植しました。スレイマンさんはその後、順調に回復しているとのことで、退院の見込みも立っています。
研究グループの1人で移植を担当した河合達郎医師は、メディアの取材に対して「患者に移植した腎臓が機能し始めたのを見て、手術室にいた全員が拍手した」と話していました。また、別のメディアからの取材では「臓器移植が容易になり、将来的に人工透析が不要になるかもしれない」とも語りました。研究グループによると、患者の回復を目指してブタの腎臓が移植されたのは世界で初めてだということです。手術を受けたスレイマンさんは声明で、「移植を必要とする多くの人の希望になる」と考えて手術に合意したと明かしています。
日本国内での動きは?
ブタの腎臓移植を巡って、日本での新しい動きはあるのでしょうか?
甲斐沼先生
ブタの腎臓を人に移植することを実用化するために、京都府立医科大学らの研究グループは「2024年夏にも遺伝子を改変したブタの腎臓をサルに移植する」と発表しています。使用されるブタの腎臓は、ポル・メド・テック社が誕生させた遺伝子改変ブタを約4カ月育てて取り出します。このブタの腎臓をカニクイザルに移植して長期的な経過を確認するほか、移植の手法や免疫抑制剤の投与方法、手術後の管理方法などの確立を目指すことになります。研究グループはサルへの移植実験と並行して人での安全性確認も進めるとしていて、患者の血液と遺伝子改変ブタのリンパ球を混ぜて拒絶反応が起きるかを調べる予定になっています。
研究グループが発表した内容への受け止めは?
研究グループの発表への受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
アメリカでは、2021年に脳死状態の患者にブタの腎臓を移植する試みがおこなわれた経緯がありますが、患者の回復を目指してブタの腎臓が移植されたのは今回の研究が世界初とのことです。執刀医師らの見解では、「移植した腎臓が数年間機能する可能性がある」との考えを示しながらも、「動物臓器のヒトへの移植には未知な点が多いことも事実である」とコメントしています。
近年、臓器移植の需要は提供数を上回っています。特にアメリカでは毎日17人が臓器移植を待つ間に亡くなっており、腎臓が最も不足している臓器であると言われています。アメリカの臓器移植ネットワークによると、昨年は約2万7000件の腎臓移植がおこなわれましたが、腎臓移植を希望する患者は約8万9000人だったようです。
動物の臓器をヒトに移植する異種移植は、安全性を担保したうえで臓器不足を解決する観点から重要なテーマであると考えます。今回のアメリカでの移植成功体験によって、今後より多くの患者が移植を受けられる方法を探る上で、画期的な実績の1つとして貢献すると思います。
まとめ
アメリカのマサチューセッツ総合病院の研究グループは、「腎臓病の患者に遺伝子操作を行ったブタの腎臓を移植したところ、患者が順調に回復している」と世界で初めて発表しました。日本でもブタの腎臓をサルに移植する研究が進んでおり、こうした取り組みがドナー不足問題の解決の糸口になることが期待されています。