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慢性腎臓病(CKD)の早期発見のポイントを医師が解説 診断基準の「eGFR」とはなにか

 公開日:2023/06/23
慢性腎臓病(CKD)の早期発見のポイントを医師が解説 診断基準の「eGFR」とはなにか

腎臓の働きが低下する「慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)」ですが、自覚症状がないまま進行する特徴があり、気が付いたときには「透析療法が必要となる一歩手前だった」なんてことも少なくありません。重症化を防ぐためには、早期に発見して適切な治療を始めることが何よりも大切です。今回は慢性腎臓病の診断方法や早期発見するためのポイントについて、筑波大学腎臓内科の高柳先生を取材しました。

高柳 ひかりさん

著者
高柳 ひかり(筑波大学附属病院 腎臓内科)

プロフィールをもっと見る
2017年筑波大学医学群医学類卒業。日立総合病院、茨城県立中央病院、水戸協同病院、茨城県西部メディカルセンターなどを経て2022年より筑波大学附属病院腎臓内科で勤務。
山縣 邦弘さん

共著者
山縣 邦弘(筑波大学 医学医療系腎臓内科学教授)

プロフィールをもっと見る
1984年筑波大学医学専門学群(現・医学群医学類)卒業、筑波大学附属病院内科医員、同講師を経て2001年米国オレゴン大学にResearch Associateとして留学。2004年筑波大学大学院人間総合科学研究科助教授、2006年より現職。日本腎臓学会理事、日本腎臓リハビリテーション学会理事長。

慢性腎臓病(CKD)は症状が表れにくい

慢性腎臓病(CKD)は症状が表れにくい

編集部編集部

CKDとはどのような病気なのか教えてください。

高柳 ひかり先生高柳先生

CKDは、血液または尿検査によって腎機能の低下や腎障害が持続している場合に診断される病気で、多くの場合は無症状に進行していきます。放置すると徐々に腎機能が低下し、透析などが必要な末期腎不全まで進行したり、脳卒中や心筋梗塞などによる死亡リスクが高まったりすることが知られています。

編集部編集部

CKDの患者数はどれくらい多いのでしょうか?

高柳 ひかり先生高柳先生

日本では、生活習慣の変化や高齢化などを背景として年々患者数が増加しており、現在では成人の7人に1人が慢性腎臓病であると言われています。進行すると「末期腎不全」と呼ばれる状態になり、透析療法や腎移植が必要となる場合があります。また、心筋梗塞や心不全、脳卒中といった重大な病気とも深く関わっており、健康や生命を脅かすこともある病気として注目されるようになってきました。

編集部編集部

そもそも腎臓にはどのような働きがあるのでしょうか?

高柳 ひかり先生高柳先生

腎臓は、主に血液中の老廃物を尿として体外に排泄する働きを持つ臓器です。腎臓の「糸球体(しきゅうたい)」と呼ばれる部分で血液をろ過して尿のもとを作り、続く「尿細管(にょうさいかん)」で尿の成分を微調整します。そうして作られた尿は「尿管」を通って一時的に「膀胱」へ集められ、尿意を感じたときにまとめて排泄する、という仕組みです。

編集部編集部

腎臓は尿を作るほかにも何か役割があるのでしょうか?

高柳 ひかり先生高柳先生

はい。腎臓は尿を作る以外にも以下のような役割を担っています。

体の水分量や血圧を調整する
電解質(体にとって必要なミネラル。ナトリウムやカリウム、カルシウム、リンなど)を調整する
酸性・アルカリ性のバランスを整える
骨髄に赤血球を作るよう指令を伝えるホルモンを産生する

慢性腎臓病では、上に挙げたような腎臓の働きが低下することで、様々な症状や合併症が生じます。

編集部編集部

CKDではどのような症状が出るのですか?

高柳 ひかり先生高柳先生

腎臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるほどですので、初期にはまず自覚症状などはないものと思って下さい。症状が出るのはかなり進行した段階です。進行した場合の症状としては、からだに老廃物が蓄積してだるさや食欲不振などを引き起こす「尿毒症」、尿量が減って体に水分がたまることによるむくみや息切れ、その他、赤血球の産生が低下して貧血になり、息切れやだるさを生じる場合などもあります。

編集部編集部

CKDを予防するためには、どのようなことに注意すればいいのでしょうか?

高柳 ひかり先生高柳先生

繰り返しになりますが、慢性腎臓病はかなり進行するまで自覚症状が表れにくく、多くの場合で初期には症状がありません。上に挙げたような症状や合併症が生じたときには、すでに腎臓の働きが大きく損なわれてしまっていることが多いのです。そのため、健康診断や人間ドックなどを毎年受診して早期に発見し、診断や治療につなげることが重要です。

慢性腎臓病(CKD)は尿検査や血液検査で診断される 診断基準「eGFR」とはどんな数値?

慢性腎臓病(CKD)は尿検査や血液検査で診断される 診断基準「eGFR」とはどんな数値?

編集部編集部

CKDの診断基準を教えて下さい。

高柳 ひかり先生高柳先生

CKDは以下2つのいずれか、または両方が3か月以上続く場合に診断されます。
(1)尿検査や血液検査、画像検査、病理(腎臓の組織を顕微鏡で詳しくみる検査)で腎臓の異常が明らかである(特に尿検査では尿たんぱくの存在が重要)
(2)血清クレアチニンと年令、性別から推算した(eGFR:estimated Glomerular Filtration Rate)が60ml/分/1.73㎡未満である

編集部編集部

尿検査では何を調べているのですか?

高柳 ひかり先生高柳先生

尿検査ではたんぱく尿や血尿の有無を確認します。たんぱく尿や血尿は腎臓のろ過装置である「糸球体」に何かしらの異常が生じていることを意味しています。たんぱく尿が多いほど腎臓の働きが低下しやすいと言われているため、健康診断や人間ドックなどで「尿たんぱくが出ている」と言われた場合には注意が必要です。

編集部編集部

血液検査ではいかがでしょう?

高柳 ひかり先生高柳先生

血液検査では主に「血清クレアチニン値」を確認します。クレアチニンは筋肉から産生される老廃物で、腎臓で体外に排泄されます。腎臓の働きが低下すると、クレアチニンの排泄が滞り、血液中のクレアチニンが増加します。血尿やたんぱく尿、血清クレアチニン値は健康診断や人間ドックで簡便に調べることが可能です。

編集部編集部

診断基準にある「eGFR」について教えてください。

高柳 ひかり先生高柳先生

eGFRの前に「GFR」から説明します。GFRとは「糸球体ろ過量」の英語表記の頭文字をとったもので、1分間あたりに糸球体でろ過される血液の量、つまり腎臓が尿を作る働きそのものを表しています。正常な状態においてGFRは90ml/分/1.73㎡以上となります。腎臓の働きが低下するに従ってGFRの値も低下し、60ml/分/1.73㎡未満が3か月以上続くと慢性腎臓病と診断されます。GFRを正確に調べる方法は手間がかかるため、日常的な診療ではその推算値(estimated)であるeGFRという指標を使います。これは血清クレアチニン値と年齢、性別によって算出される値です。

慢性腎臓病(CKD)は早期発見がカギ

慢性腎臓病(CKD)は早期発見がカギ

編集部編集部

CKDを早期発見するためのポイントを教えて下さい。

高柳 ひかり先生高柳先生

CKDは先述の通り、進行するまで自覚症状が表れにくく、症状を頼りに早期発見することは非常に難しいのです。しかし、尿検査・血液検査などで簡便に発見することが可能なため、健康診断や人間ドックを積極的に受診することで早期発見につなげられます。従って重要なことは、学校、職場、市区町村などで実施している毎年の健診を必ずうけて、検査をうけることです。たんぱく尿や血清クレアチニン値の異常を指摘されたら、ぜひかかりつけ医の先生に相談してください。

編集部編集部

CKDを防ぐために、どのようなことに気を付けたらよいのでしょうか?

高柳 ひかり先生高柳先生

CKDを予防するために生活習慣で心がけるべき点として、塩分を控える、適度な運動をする、過度の飲酒を控える、たばこを吸っている方は禁煙する、肥満の方は減量する、といったことが挙げられます。また、慢性腎臓病の原因として最も多いのは、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病ですので、これらの病気をお持ちの方は、医師の指導のもと血圧や血糖値を適切な範囲にコントロールすることが重要です。

編集部まとめ

CKDは血液と尿を検査し、その結果で異常があるときには3か月以上間をあけて同じ検査を行い、異常が持続している場合に診断される、腎臓の慢性的な病気です。検査の中でも、とくに血清クレアチニン値と性別、年齢で計算するeGFRは腎臓の機能を数値でとられることができる重要な検査です。毎年の健康診断や人間ドックの検査結果は自分自身でもぜひ確認していきたいですね。

この記事の監修医師