【国内初】マダニ媒介の「SFTS」人から人への感染を確認、春のマダニ活動に要警戒
国立感染症研究所は、マダニが媒介する感染症「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」について、「人から人に感染したケースを国内で初めて確認した」と発表しました。この内容について郷医師に伺いました。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
国立感染症研究所が発表した内容とは?
今回、国立感染症研究所が発表した内容について教えてください。
郷先生
国立感染症研究所は、「マダニが媒介する感染症であるSFTSが日本国内で初めて人から人に感染したケースを確認した」と発表しました。
2023年4月、SFTSに感染した90代の患者を診察した20代の男性医師が、90代の患者に最初に接触してから11日後に発熱し、その後、SFTSと診断されました。20代の男性医師に感染したウイルスの遺伝子検査で90代の患者と同じウイルスと考えられることなどから、人から人への感染と診断されました。20代の医師の症状は、すでに軽快しているそうです。
国立感染症研究所によると、90代の患者が入院しているときは医療従事者が感染対策を取っていたとのことです。しかし、今回感染した20代の医師は、診断前の診察時点で手袋をしておらず、その後、患者が死亡して処置をした際もマスクや手袋などはしていたものの、ゴーグルを着けていませんでした。
国立感染症研究所は、感染した患者を診療する際、医療従事者は感染予防対策を徹底するよう注意を呼びかけています。
SFTSとは?
今回国内で初めて人から人への感染が確認されたSFTSについて教えてください。
郷先生
SFTSは、2011年に中国で新しい感染症として流行していることが報告された病気です。病原体は「SFTSウイルス」であることが確認されています。
主な初期症状は発熱、全身倦怠感、消化器症状で、重症化して死亡することもあります。SFTSは、ウイルスを持つマダニに刺されることで感染します。最近の研究では、SFTSを発症している野生動物やネコ・イヌなどの血液からSFTSウイルスが検出されています。特にSFTSウイルスに感染して、発熱、消化器症状が出ている動物に噛まれたり、血液などの体液に直接触れたりすることで、SFTSウイルスに感染する可能性は否定できないと考えられています。
日本では、2013年1月にSFTS患者が国内で初めて確認されて以降、毎年60~100人程度の患者が報告されています。SFTSは感染症法上でマラリアなどと同じ4類感染症に指定されています。
現時点では、抗ウイルス薬などによる治療法はなく、体内での炎症をステロイドで抑える対症療法が中心となっています。中国では抗ウイルス薬である「リバビリン」に関する研究報告が示されていますが、リバビリン治療群と非治療群で致命率の違いは確認されておらず、効果はないと考えられています。一方、抗ウイルス薬の「アビガン」は動物実験で治療効果があることが示されており、中国で研究報告されたリバビリンの治療効果よりも高いことが確認されています。ただし、現時点ではSFTS患者に対する治療効果が証明されていません。なお、アビガンについての臨床研究は、2016年に愛媛大学と国立感染症研究所が中心となって開始し、その後製薬会社による治験も実施されています。2023年5月末の厚生労働省薬事・食品衛生審議会の部会で、薬事承認申請の優先審査などの優遇措置を受けられる「希少疾病用医薬品」への指定を認められています。
国立感染症研究所が発表した内容の受け止めは?
国立感染症研究所が発表したSFTSの人から人への感染について、受け止めを教えてください。
郷先生
これまで、人から人へのSFTSウイルス感染は海外で報告されていましたが、国内では初めて報告されました。SFTSの感染者数自体がそこまで多いものではないため、通常の日常生活を送っているうちはそこまで気にする必要はないでしょう。しかし、山によく行く人はマダニに刺される機会が増えるため、注意が必要です。もちろん、人から感染する可能性もあるわけですから、感染が疑われる人にむやみに接しないことが大事です。疑ったらすぐに病院を受診するよう促すようにしましょう。
まとめ
国立感染症研究所は、マダニが媒介する感染症SFTSについて、人から人に感染したケースを国内で初めて確認したと発表しました。マダニは春から秋にかけて活動が盛んになるので、草むらなどに入る場合には注意が必要です。