マダニに噛まれて「SFTSウイルス」感染 80代女性が死亡
福岡県の久留米市保健所は8月16日、福岡県うきは市の80歳代女性がマダニを介して発症する「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」で死亡したと発表しました。この内容について、中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
SFTSとは?
今回、久留米市保健所が発表したSFTS(重症熱性血小板減少症候群)の死亡例についての情報と、そもそもSFTSとはどういった病気なのか教えてください。
中路先生
久留米市保健所の発表によると、亡くなった女性は8月1日、農作業中にマダニに足を噛まれて医療機関を受診しました。その後、女性は発熱や下痢の症状が続き、8月10日に入院しましたが、その3日後の8月13日に死亡しました。厚生労働省によると、SFTSは中国において新しい感染症として流行していることが2011年に報告された病気で、病原体はSFTSウイルスであることが確認されています。
主な初期症状は発熱、全身倦怠感、消化器症状で、重症化して死亡することもあります。SFTSは、ウイルスを持つマダニに刺されることで感染します。最近の研究では、SFTSを発症している野生動物やネコ・イヌなどの血液からSFTSウイルスが検出されています。特にSFTSウイルスに感染して、発熱、消化器症状が出ている動物に噛まれたり、血液などの体液に直接触れたりすることで、SFTSウイルスに感染する可能性は否定できないと考えられています。
日本では2013年1月、SFTSの患者が国内で初めて確認されて以降、毎年60~100人程度の患者が報告されています。SFTSは感染症法上でマラリアなどと同じ4類感染症に指定されています。
SFTSの治療法は?
SFTSの治療法について教えてください。
中路先生
現時点で抗ウイルス薬などによる治療法はなく、体内での炎症をステロイドで抑える対症療法が中心になっています。中国では、抗ウイルス薬である「リバビリン」に関する研究報告が示されていますが、リバビリン治療群と非治療群とでは致命率に違いは確認されておらず、効果はないと考えられています。
一方、抗インフルエンザウイルス薬の「アビガン」は動物実験で治療効果があることが示されており、中国で研究報告されたリバビリンの治療効果よりも高いことが確認されています。ただし現時点では、SFTS患者に対する治療効果は証明されていません。なお、このアビガンについての臨床研究は、2016年に愛媛大学と国立感染症研究所が中心となって開始され、その後、製薬会社による治験も実施されています。現在、国による薬事承認への最終審査に進もうとしています。
SFTSを防ぐには?
SFTSの予防法について教えてください。
中路先生
SFTSを予防するためには、マダニに噛まれないよう気をつけることが重要です。マダニの活動が盛んな春から秋にかけては、マダニに噛まれる危険性が高まるので、草むらなどでは、長袖・長ズボン、足を完全に覆う靴、帽子、手袋を着用し、首にタオルを巻くなど、肌の露出を少なくすることが大事になります。また、服は明るい色のものを着用すると、マダニがついていることがわかりやすくなります。
マダニに吸血された場合には、皮膚科などを受診してマダニを除去してもらう必要があります。吸血中のマダニを体から無理に引き抜こうとすると、マダニの一部が皮膚内に残って化膿したり、マダニの体液を逆流させて病原体が体内に入りやすくなったりする恐れがあります。
まとめ
福岡県の久留米市保健所は8月16日、福岡県うきは市の80歳代女性が、マダニを介して感染する「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」で死亡したと発表しました。マダニは春から秋にかけて活動が盛んになるので、草むらなどに入る場合には注意が必要です。