【世界初】乳がんの原因を突き止める「思春期の遺伝子変異」京都大学研究グループ
京都大学などの研究グループは、「乳がんの大本となる乳腺細胞の最初の遺伝子変異が思春期前後に起きていることを世界で初めて突き止めた」と発表しました。この内容について甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
研究グループが発表した内容とは?
今回、京都大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回紹介するのは京都大学らの研究グループが実施した研究で、イギリスの科学誌「ネイチャー(Nature)」の電子版で7月27日に発表されました。研究グループは、増加の一途を辿っている乳がんについて、思春期前後に生じた最初の変異の獲得から数十年後の発症に至るまでの全経過を、最先端のゲノム解析技術を駆使することによって、世界で初めて明らかにすることに成功しました。
研究グループは41~48歳の閉経前の乳がん患者5人の乳腺の細胞を採取し、ゲノムを詳しく解析しました。その結果、最初の遺伝子変異は4.4~16.9歳という非常に早い段階で起きていたことが判明しました。その後、数十年かけて変異が積み重なって一部ががん化し、発症することがわかりました。研究グループは「乳腺細胞の遺伝子の変異には、第二次性徴以降に増加する女性ホルモンが影響している可能性がある」とみています。一方、閉経後は女性ホルモンが減少し、新たな変異が起きにくくなるとのことです。
研究グループは今回の研究成果について、「今回の研究によって、乳腺の細胞がいつどのような遺伝子異常を獲得し、どのような変化を経て乳がんの発症に至るのかという発がんの詳細な歴史が明らかになりました。乳がんは多くの日本人女性の健康・生命を脅かす重要な疾患ですが、今回の研究成果を手がかりとして乳がんが発生するメカニズムの解明に取り組んでいます。私たちの研究が乳がんの予防や治療の向上に貢献し、乳がんで亡くなる女性を減らすために役立つことができればと考えています」とコメントしています。
乳がんとは?
今回の研究対象になった乳がんについて教えてください。
甲斐沼先生
乳がんは乳腺に発生するがんで、女性が最もかかりやすいがんとされています。日本人では40~50代女性の発症が多く、全体の半数近くが、乳首を中心として外側の上部分にできるという調査結果があります。
乳がんはがん細胞の広がり方によって、「非浸潤がん」と「浸潤がん」に分類されます。非浸潤がんは、母乳を作成して乳頭まで届ける小葉と乳管内にがんが留まっているものです。その一方、今回紹介した論文でも扱っている浸潤がんは、乳管の外側に存在する基底膜を超えて、がん細胞が乳管の外の間質に広がっているものを指します。間質には血管やリンパ管が存在するため、浸潤がんでは乳房を超えてほかの臓器にがん細胞が転移する可能性が出てきます。非浸潤がんの段階で適切な治療を受ければ治ることが見込まれ、浸潤がんも浸潤範囲が小さいうちに治療を受ければ、ほとんどの場合で治ることが期待されています。
今回の発表内容の受け止めは?
京都大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
我が国において、女性のがんの中で最多である乳がんは40代以降の発症が多いことが知られており、その根本的要因となる乳腺細胞の最初の遺伝子変異は思春期前後に起きていることを京都大学などの研究チームが世界で初めて突き止めたことによって、早い段階での乳がんの発症予防につながる可能性が期待できます。今回の研究結果は、人生の極めて早期に遺伝子変異を獲得した細胞からがんが発症するまでの全体像を世界で初めて明らかにしたものであり、今後の乳がん発症予防や早期発見、早期治療の開発に役立つであろうと注目されています。
まとめ
京都大学などの研究グループは、「乳がんの大本となる乳腺細胞の最初の遺伝子変異が思春期前後に起きていることを世界で初めて突き止めた」と発表しました。世界的に影響力がある科学誌にも掲載されたことで、今後も大きな注目を集めそうです。