日本人女性の9人に1人がかかる「乳がん」、BMI22以上でリスク低下
東京大学医学部附属病院の研究グループは、「BMIが22以上だと乳がんにかかるリスクが低くなる」という解析結果を発表しました。このニュースについて甲斐沼先生にお話を伺います。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
研究グループによる発表内容とは?
東京大学医学部附属病院の研究グループによる発表内容について教えてください。
甲斐沼先生
東京大学医学部附属病院の研究グループは、BMIと乳がんの関連について解析をおこないました。解析対象となったのは2005年1月~2020年4月までに健康診断でBMIを測定した45歳未満の女性78万5703人です。観察期間中央値の1034日の間に乳がんと診断された人は5597人でした。解析の結果、BMIが22以上であると乳がんにかかるリスクが有意に低くなることが明らかになりました。
乳がんにかかるハザード比は、BMIが25.0~29.9で0.81、30.0以上で0.77でした。ホルモン受容体陽性乳がんでも同様の関連が示された一方、HER2陽性乳がんとの関連は認められませんでした。研究グループは「欧米では70歳代で最も乳がんが好発する一方、日本など東アジアでは40歳代以降は横ばい、あるいは減少することが知られていました。今回の研究の結果から、その違いは日本など東アジアでは肥満者が少ないことと関連していると推察されます。BMI分布を考慮すると、日本では40歳代を中心に若年からの乳がん検診の意義がより大きい可能性があります。また、BMIと乳がんリスクとの人種を問わない関連性は、未だ不明な乳がん発生の仕組みの解明に寄与すると考えられます。」と述べています。
今回の研究の背景とは?
東京大学医学部附属病院のグループが発表した研究について、実施した背景について教えてください。
甲斐沼先生
乳がんは女性で最も多い悪性腫瘍であり、日本では9人に1人の女性が乳がんになるとされています。閉経後の女性は、脂肪細胞で女性ホルモンが作られることから、肥満が主なリスク因子であることがわかっています。閉経前の女性について、欧米では肥満だと閉経前乳がんのリスクが低いことが示されていますが、 東アジアではその関連は不明とされていたり、逆にリスクが高い可能性が指摘されていたりしていました。東京大学医学部附属病院のグループは、乳がんの早期発見や早期治療の推進、乳がん発生の仕組みの解明のためには、リスクを正確に同定することが極めて重要だと考え、今回の研究を実施したということです。
発表内容の受け止めは?
東京大学医学部附属病院の研究グループによる発表内容についての受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
乳がんに関連する発症年齢のピークは東アジアで40~50歳代、欧米では70歳代と傾向が異なっていることが知られていましたが、未だその原因は明確に判明していませんでした。今回の研究結果では、45歳未満の女性においてBMIが22kg/m2以上の場合には乳がんの発症リスクが低いと発表しました。これまでは、欧米においてはBMIが大きいと閉経前乳がんを罹患するリスクが低いことが分かっていましたが、我が国を含む東アジア地帯では逆にBMIが大きいケースでは閉経前乳がんのリスクが高いと考えられていました。今回の詳細な解析によって、本邦でも欧米と同様の関連があることを初めて明らかにした有意義な研究結果であると考えられます。
我が国では、約9割以上の女性が45歳以降に閉経を迎えると考えられており、肥満者が少ない日本では閉経前の40歳代から乳がんに罹患しやすいと推測されるため、本邦の人口分布におけるBMIデータに基づいた綿密な乳がん検診の戦略や政策が求められます。さらに、今回の研究では乳がんの中でもホルモン受容体陽性乳がんにおいてBMIと強い相関関係を認めました。このことから、乳がんの発生にBMIと関連するホルモン物質が密接に関与していることが示唆されますので、未だ不明な乳がん発生の仕組みが今後益々解明されることに期待します。
まとめ
東京大学医学部附属病院の研究グループが、BMIが22以上だと乳がんにかかるリスクが低くなるという解析結果を発表したことが今回のニュースでわかりました。乳がんは日本の女性の9人に1人がなるとされているだけに、今回の発表は注目を集めそうです。